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解決編


「また、お二人が来られるとは思いませんでした・・・。今日は疲れています。早く用件を言ってください」と、平賀。

 二人の刑事は月曜日の夕方六時過ぎ、平賀を尋ねてきた。

「お疲れのところ申し訳ありませんが、佐野さんを殺した犯人が分かりましたので、佐野さんと親しかった平賀さんに“いの一番”にご報告にやってきました」と、田中部長刑事が言った。

「・・・」明らかにその言葉には皮肉が交じっていた。心臓が激しく脈打った。

 ここは余計なことは言わないこと。ただ、それだけを思った。

「ある二人の刑事はこう考えました。仮に殺人者を“彼”としましょう」

 平賀が何も言わないのを確認してから田中が続けた。

「彼は殺人を計画した夜の九時過ぎに大阪から列車の中から、自分の部下でもある姪に電話をしました。大した用件ではなく、月曜の朝でも充分間に合うもので、それにその電話はT駅を出て直ぐに電話をしました。『十時半以降自宅に電話してくれ。そのころには、確実に帰っていると思う。唯、一回電話をして出なかったら、もういい。疲れたから、寝てしまっているかも知れない』と言って電話を切ります。

 何も知らない姪を自分のアリバイ作りに利用しようと考えての電話です。

 列車を降りた彼はタクシーで一人暮らしの自宅に真っ直ぐに帰ります」

 田中は「真っ直ぐに」を強調した。

「彼はタクシーで取り止めもない話をし、タクシーを降りるとき運転手に時間を聞き帰宅時間をはっきりさせます」

 田中はここで一瞬間を置いた。

 西山が後を続けた。

「彼は帰宅しすぐに録音機をセットして、友人の家に向かいます」

「どうやらお話の“彼”とは私のことのようですが、先日もお話したように私は録音機は持っていない」と、平賀が言った。

 その言葉には彼の苛立がにじんでいた。

「まぁ、もう暫らくですから我慢して聞いてください」

 西山が話を続けた。

「彼は友人の家に向かいます。おそらく人目を避けるため道路の上にある散策道を利用したと思います。さすがこの季節の夜遅くこの道を利用するアベックもいませんから。

 もし、アベックがアベックがいたら彼は殺人を犯さなかったかも知れません。

 彼が家を出てから十分程で歩くと、下の道路で道路工事をしているのが見えました。

 彼はそれから五分程で友人の家に着きました。

 友人の家に着くと友人はまだ帰っていませんでした。十分程待つと友人は車で帰ってきましたが、友人は少し酔っていました。

 恐らく彼は友人に『久しぶりに碁でも指そう』とでも言ったのでしょう。

 何も知らない友人は喜んで彼を応接間に通します。

 彼は窓際に置かれた机の上のノートパソコンを振り向きざまの友人の頭に力一杯振り下ろしました。彼は息を吹き返すことがないよう倒れた友人の頭を二度、三度と殴ります。

 彼は、友人の死体を冷静に見下ろします。

 応接間と居間を荒らします。そうすれば警察は最近この辺に出没している泥棒が鉢合わせになった被害者を殺したと考えるのではないかと、彼は考えのです。

 その考えが、始めから計画していたのか、その場で思いついたのかは私達は推測するしかありません。

 おそらく、思いつきだったのでしょう。

 でも、彼にとって不幸だったのはその泥棒はここから百km近く離れたJ市での飲酒検問で十一時頃検挙されたのです。

 このM市で人を殺して三十分後にJ市にいることは不可能です」

 ここで西山は一拍置いたので、田中が後を続けた。

「彼は散策道を注意しながら彼の屋敷に帰ります。

 五分ほど歩くと道路工事現場が見えます。どういう訳か彼はその工事現場が気になります。

 狭い道路幅に冬、もし雪が降ったら近くに適当な迂回路もなく、混雑することは間違いありません。その道路は隣の市に抜ける早道として結構使われています。

 彼は自宅に帰ると録音機で、自分が友人を殺しに行っていた間の“音”を聞きます。

 そうすることによって、翌朝彼を訪ねてきた二人の刑事に『十時半に電話がかかってきて、十時三十五分頃にはお隣のご主人がご機嫌で都はるみの“北の宿から”を歌いながらタクシーで帰ってきた、お隣さんは週末にはよくお酒を飲んでタクシーで帰宅します。それらを風呂の中で聞きました。その後すぐ、救急車が前の道路を通って、ごく近所で止まった』と答えることが出来たのです」

 「何度も言いますが、私は録音機を持っていない!」と、平賀は怒りをあらわに言った。「録音機はバンド仲間が持っているだけだ。そんなことは私にはできない」

「確かにあなたは録音機は持っておられませんが、録音はできる」と、田中が言うと背広の内ポケットから携帯電話を取り出しボタンを操作した。

「また、お二人が来られるとは思いませんでした・・・。

今日は疲れています。早く用件を言ってください」と、携帯電話の中で平賀が言った。

「あなたは携帯電話を使った」と、田中が続けた。

「しかし」と平賀が言った。「たとえ、私の携帯で録音したとしても、それだけで私が先週の金曜日に佐野さんを殺しに出かけた時のアリバイ作りに利用したということにはならない。私はあの夜ずうっとここにいた。金曜の夜の九時五十分に帰宅してから、土曜の朝あなた達が来られまで一歩も家を出ていない」

 二人の刑事が微笑んだ。二人は平賀がその言葉を言うのを待っていたようだった。

「先週の土曜日、私達がお話をお聞きし帰るとき、私達が前の道路を左折して直接現場に戻ろうとした時、あなたは『左に行くと道路工事をしている。ただでさえ狭い道路なのに、この雪だ。表通から回った方がいい』と仰いましたね?」と、田中。

「・・・。そんなこともありましたね」と、平賀。心臓が爆発しそうだった。

「平賀さんはどうして道路工事を知ったのですか?」

「・・・。角のコンビニに看板が出ていた」

「確かに、今は出ていますが。しかし、平賀さんが金曜の夜、県外出張から帰ってきた時には出ていなかった。これは水道工事をしている業者に確認しました。コンビニの看板は土曜の朝、苦情があって慌てて十一時時頃に立てたものです」

「じゃぁ、出張に出る前に散歩の時に工事現場を直接見た・・・」

「それも、ありえません。あの工事は水曜日に道路に漏水が発見され、木曜日から始まった工事です。

 水曜の朝、出張に出て、金曜の夜JRの駅から直接この家に帰って来たあなたに木曜から始まった工事を知りえたはずがない。

 あなたがあの工事を知り得えたのは金曜の夜あの工事現場を通ったからなのです。

 つまり、佐野さんを殺したのは平賀さんあなただ!」

「・・・」平賀は何も言わなかった。いや、言えなかった。

「平賀さん、あなたが佐野さんを殺しましたね?」と、田中。

「はい」平賀は素直に答えた。平賀はどこかほっとしていた。「私が、佐野さんを殺しました。間違いありません」

「私達はあなたが作った偽のアリバイを崩すことができました。自白も得ました。しかし、あなたが佐野さんを殺した動機が分かりせん」と、田中。

「彼はJ市に五十年前に生まれました」と、平賀が突然独り言のように言った。「彼には幼馴染の女の子がいました。それは可愛い女の子でした。彼はその女の子が好きでした。

 彼はその女の子と二人だけでいたと思いましたが、彼より三つ下の弟がいつも彼の後を付いてきました。それで、はいつも彼と幼馴染と弟の三人で遊んでいました。

 彼は高校も幼馴染と同じ進学高に進学しました。頭のいい幼馴染には当然でしたが、彼にはちょっと辛い進学でしたが女の子と同じ高校に通いたい、少しでも一緒にいたい一念でがんばりました。

 彼は大学も幼馴染と同じ大学に入りました。

 驚いたことに弟までその大学に入りました。彼以上に勉強が得意でなかった弟は大分無理した大学だったと思います。

 弟が一年生の時は三人よく一緒にいました。

 大学を卒業すると彼はある商事会社に、幼馴染は地元の市役所に就職しました。

 彼が就職した最初の夏のある日の昼、幼馴染に会いたくなって久しぶりに実家に帰った時、幼馴染と弟がベッドにいるのを見ました・・・。

 彼はそのままトンボ帰りして、それ以来彼が実家に帰ることはめったにありませんでした。

 幼馴染は妊娠し、弟と結婚し、姪が生まれました。

 彼は結婚もせず、彼の人生の全てを仕事に注ぎ込みました。その努力の甲斐もあり彼は五十前に役付けになることができましたし、高級住宅街に屋敷を手にいれることができました。

 幼馴染は四十歳で交通事故であっけなく亡くなりました。実家に帰り、幼馴染の葬儀で久しぶりに高校生の姪を見たときの彼の驚きは大変のものでした。

 幼馴染と全く瓜二つだったのです。

 彼は姪に恋をしたのです。

 でも、それは彼にとって誰にも知られたくない秘密でした。

 運命の悪戯でしょうか姪は大学を卒業すると彼の会社に就職しました。

 彼は姪と一緒の写真を携帯の待ちうけ画面にしましたし、姪の写真を居間にそっと置きました。

 彼には友人がいました。彼と友人には共通の趣味“碁”があり、お互いの屋敷を訪ねあって楽しんでしました。

 お互いに一人暮らし、佐野は離婚していましたから、2人の実力は伯仲していましたから金曜の夜にはよく夜遅くまで碁さしていました。

 半年前の金曜の夜も碁を指していました。

 碁は明らかに彼が有利でした。 

 友人は机の上に置かれた姪の写真に目を留め言いました。

「あの娘さんは誰だ?」

 友人は軽い気持ちから聞いたのでしょう。

 彼は「姪だ」と答えましたが、身体が熱くなり、顔を赤くなるのを感じました。そして普段なら考えられない悪手を打ち、後は打つ手全てが滅茶苦茶になり結局負けてしまいました。

 その後もどんなに有利でも友人に姪のことを持ち出されると、勝負に負けてしましました。

 そんなことが続いて佐野は嘲笑を浮かべ彼に言いました。

『姪を肉親としてではなく、一人の女として愛してはいけません。それでは、犬畜生と同じです。“禁断の愛”です。

 ところで、このところ我が社の業績があまりよくありません。大口の仕事が欲しいのですが、あなたの会社と契約したい。あなたの会社の全部とは言わない。さしあたりあなたが関係する仕事だけでいい。さしあたりね・・・』

 その言葉を聞いて彼は佐野を殺すことを決意しました。

 友人の強請りは際限が無くなるとと感じましたし、他人に弱みを握られていることに彼は我慢ならなかったのです・・・」

 三人の間に思い沈黙が流れた。


「分かりました。これで私達の謎は全て解けました」と、田中。

「私はあなた達を見くびっり、不用意な一言をいい墓穴を掘ってしまった」と平賀が言った。「もしあの工事をしていなかったら・・・。あの夜、雪が降らなかったら、あの不用意な一言も出なかったに違いないのに・・・」

「そうですね、あの一言がなかったら私達はあなたを佐野さん殺しの犯人だと確信していても、ここに来ることはできなかったでしょう」と、田中。

 平賀がぽつりと言った。

「雪の夜は殺人に都合が悪い」



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