第4話:王都潜入と、錬金術師の「世紀の大発明」
隠れ家の地下室でスマホの映像をひと通り確認した俺は、王都へ直接潜入するための準備を整えていた。
「さて、服装はどうするか。現代のオーダースーツのままでも良いが、少し目立ちすぎるな」
俺はアイテムボックスを探り、大賢者時代に愛用していた漆黒の魔導ローブを取り出した。
最高級の魔獣の絹で織られ、あらゆる物理・魔法攻撃を減衰させる国宝級の代物だが、現代の仕立ての良いネイビースーツの上に羽織ってみると、意外なほどスタイリッシュにまとまった。
現代日本の洗練されたビジネススタイルと、異世界のハイファンタジーが融合した、なんとも異端で機能的な装いだ。
「顔はこのままでいいだろう。俺の肉体は26歳の全盛期まで若返っている。5年前、奴らが殺した『大賢者』は30代後半の渋い顔立ちだったからな。骨格や面影は似ていても、同一人物だとは気づかれないはずだ」
もし気づかれたとしても、それはそれで構わない。死んだはずの賢者が全盛期の姿で蘇ったと知れば、彼らの絶望と恐怖はより深いものになるのだから。
俺は【空間転移】を使い、王都の城壁のすぐ外側にある森へと跳躍した。
そのまま王都の正門へと向かい、門番に偽造した身分証(ただの木の札に【認識阻害】と【暗示】の魔法をかけたもの)を提示する。
「うむ、通ってよし」
門番は木の札をギルドの特級通行証だと錯覚し、深く頭を下げて道を開けた。
こうして、俺は俺を殺した裏切り者たちが牛耳る王都へと、5年ぶりに足を踏み入れた。
「……ひどい有様だな」
王都の大通りを歩きながら、俺は内心でため息をついた。
かつては活気に溢れ、商人や旅人の笑い声が絶えなかった街並みは、どんよりと淀んだ空気に包まれていた。
道行く平民たちは皆一様に痩せこけ、俯きがちに歩いている。大通りの端には、病や飢えでうずくまる者たちの姿もあったが、巡回している兵士たちはそれを冷たく蹴り飛ばすだけで、助けようともしない。
一方、大通りを我が物顔で闊歩するのは、派手な絹の服を着飾った貴族や裕福な商人たちだ。
魔王が倒され、外からの脅威が消え去ったことで、王国の権力者たちは内側から腐敗し、徹底的な搾取の構造を作り上げてしまったのだ。
『号外だ! 号外! 明後日、王城前広場にて、偉大なる錬金術師ザンク様が【世紀の霊薬】の発表会を行われるぞ!』
『あらゆる病を治し、活力を与える奇跡の新薬だ! ザンク様万歳!』
街の広場で、触れ役の男たちが声を張り上げながら羊皮紙のチラシを配っていた。
俺は一枚受け取り、その内容に目を通した。
「錬金術師ザンク……。あいつか」
かつての10人の仲間の一人。
魔法の才能はそこそこだったが、素材の調合や魔導具の制作に長けていた男だ。だが、その知識のほとんどは、俺が異世界のあらゆる文献を解析して組み上げた『大賢者の研究資料』をベースにしたものだった。
俺という「頭脳」が消えた後、奴が自力で世紀の新薬など開発できるはずがない。
「先ほどドローンで撮影した、あの地下の密造施設。……なるほど、あれが『世紀の霊薬』の正体というわけか」
チラシには、明後日の正午から王城前広場にて、王族や貴族、そして数千の民衆を集めて盛大な式典と発表会を行うと書かれていた。
「自分から数千人の観衆を集めてくれるとは、好都合だ。公開処刑の舞台としては申し分ない」
俺はチラシを指先で燃やし、冷たい笑みを浮かべた。
現代日本でのビジネスにおいて、新製品のプレゼンテーション(発表会)がいかに重要か、俺は嫌というほど知っている。
だからこそ、そのプレゼンを完膚なきまでにぶち壊し、大勢の面前で「嘘」を暴かれることが、どれほど致命的な社会的死をもたらすかも熟知しているのだ。
「最高の舞台を用意してくれたお礼に、こちらも現代社会の『監査』の恐ろしさを、たっぷりと味わせてやろう」
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