第3話:ターゲット選定。現代の「コンプライアンス監査」
ピピッ、という無機質な電子音と共に、白魔術師と剣聖の醜悪な密談が、4Kの超高画質とクリアな音声でスマホのストレージに保存されていく。
万が一スマホが壊れた時に備え、クラウド(異空間に魔法で構築した仮想サーバー)にも自動バックアップを取る設定は抜かりない。
「誰があの日、直接俺の背中に剣を突き立てた実行犯なのか……それはまだ確定していない。だが」
俺はスマホの画面に映るかつての仲間たちを、冷徹な監査官のような目で見つめた。
「俺の死を隠れ蓑にし、俺の功績を盗み、民から搾取している。……こいつらは全員『事後従犯』であり『共同正犯』だ。誰が殺したにせよ、俺を裏切った事実に変わりはない。一人残らず同罪だ」
現代日本のビジネス社会において、不正を働いた巨大企業や悪徳経営陣をどう追い詰めるか。俺は第一部で、御門グループという巨大財閥の解体でそれを実践してきた。
彼らをただ魔法で消し飛ばして殺すだけでは、あまりにも生温い。それでは彼らは「悲劇の英雄」として歴史に名を残してしまう。
彼らが最も執着している「地位」「名誉」「財産」「民衆からの称賛」。それらを全て剥奪し、社会的な死を与え、完膚なきまでに絶望させてから地獄に送る。それが大賢者の復讐だ。
「問題は、どこから崩すかだ」
いきなり武力に長けた剣聖や勇者を物理的に叩き潰すのは、三流のやり方だ。
巨大な組織や権力を崩す時の基本は、相手の『資金源』や『頭脳』を担っている部分からピンポイントで破壊していくこと。
俺はかつての10人の仲間たちの顔を思い浮かべた。勇者、剣聖、白魔術師、黒魔術師、拳闘士、精霊使い、暗殺者、竜騎士、神官、錬金術師。
現在、この腐敗した王国において、特許や薬の流通、裏の汚れ仕事など、システムの中枢を担っているであろう連中。
「……【錬金術師】と【暗殺者】。手始めに、この二人の『コンプライアンス違反』から洗うとするか」
錬金術師は、俺が残した研究資料を盗み、自身の発明だと騙って王国の経済や医療、魔導具の利権を牛耳っている可能性が高い。
暗殺者は、彼らに反対する貴族や平民を秘密裏に消す「汚れ仕事」を担当しているはずだ。表と裏のインフラ、この二つを叩き潰せば、英雄たちの組織は一気に機能不全に陥る。
俺はスマホの画面をスワイプし、ドローンに新たな索敵の命令を下した。
熱源感知や魔力探知機能をフル稼働させ、王都に点在する巨大な研究所や、地下深くのアジトへとカメラを潜入させる。
『おい、例の「新薬」の精製は終わったか? 貴族どもはあれがないと生きていけない体になっているからな。純度を落として値段を吊り上げろ』
『昨晩の「掃除」は片付きました。例の伯爵は病死として処理済みです』
数十分後。俺のスマホには、錬金術師の研究所で行われている違法薬物の密造現場や、暗殺者が受け取っている報酬の裏帳簿の映像が、次々と証拠として蓄積されていた。
「ふふっ……素晴らしい。ファンタジー世界の住人たちは、防犯カメラやハッキングという概念がないから、実に無防備に証拠を残してくれる」
これだけのエビデンスがあれば、彼らを社会的に抹殺するなど赤子の手をひねるより容易い。
剣や魔法で直接戦う前に、現代の『デジタルタトゥー』と『公開ざまぁ』の恐ろしさを、あの傲慢な英雄どもにたっぷりと味わわせてやろう。
「さあ、ショーの幕開けだ。……せいぜい高く飛び上がっておけ。落ちる時の絶望が、より深くなるようにな」
俺はスマホの画面を一度オフにし、ホーム画面の壁紙に設定している『結衣がオフィスで俺に向けて笑っている写真』を見て、フッと表情を緩めた。
帰る場所があり、俺の全てを受け入れてくれた愛する人がいる。だからこそ、俺はどんな非情な復讐鬼にもなれるのだ。
大賢者の理不尽極まりない現代的復讐劇が、いよいよ本格的に動き出した。
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