第31話:ビジネス包囲網の完成と、動き出す裏の殺意
健康診断のドタバタから数日後。
俺が裏で周到に仕掛けていた「御門グループ完全解体プロジェクト」は、ついに最終段階を迎えていた。
東京地検特捜部のメスが入り、不正が明るみに出た御門関連の優良企業群。株価が底を打った絶好のタイミングで、俺の個人ファンドと会社の資金を動かし、次々と合法的かつ友好的に吸収合併していく。
その一方で、彼らが呪術の隠れ蓑として使っていた不良債権まみれのダミー会社だけを切り捨てて市場から退場させた。これにより、御門一族の「表の資金源」と「社会的信用」を、文字通り一滴残らず完全に干上がらせることに成功したのだ。
「宗くん、終わりました……! 御門グループの主要子会社、全てウチの傘下に入りましたよ! 法務チェックも完璧です!」
「本当にお疲れ様でした、結衣先輩。これで、日本のビジネス界における彼らの影響力は完全にゼロになりました。我々の完全勝利です」
残業を終えた夜のオフィス。二人だけで祝杯として、結衣は缶のカフェラテを、俺は上質な炭酸水のボトルを掲げてカチンと合わせた。
「すごいよ、宗くん。たった数週間で、日本の経済史に残るような歴史的な買収劇を成功させるなんて。……本当に、あの冴島さん(おじさん)が乗り移ってるみたい」
「……そうですか?」
「うん。冴島さんも、会社では窓際族のふりをしてたけど、本当はすごく頭が切れて、相場の動きを誰よりも正確に読める人だったから」
結衣は炭酸水を飲む俺の横顔を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「時々、宗くんの隣でこうして仕事をしていると……あの冴島さんが隣にいて、私を守ってくれているような、不思議な安心感があるんです。……これって、私がおかしいのかな」
「結衣先輩……」
夜景の光に照らされた彼女の真っ直ぐな瞳。その鋭い直感と深い愛情は、俺の正体に優しく触れようとしている。
この純粋な想いに、俺はどう答えるべきか。真実を告げるべきか迷っていた、まさにその時だった。
(……ん?)
大賢者の魂に刻まれた『絶対魔力感知』が、遠く離れた東京の地下深くから、尋常ではない規模の「呪力のうねり」を捉えた。
それは、追い詰められた野獣が放つ、ドス黒い殺意の波動だった。
◇ ◇ ◇
その頃、東京の地下深く。
何百年も隠匿されてきた御門一族の地下の隠れ里では、凄惨な儀式が行われようとしていた。
完全に資金源を絶たれ、一族の破滅という絶望の淵に立たされた長が、目を血走らせ、白髪を振り乱しながら、呪殺部隊の精鋭たち十名を前に立っていた。
「表の顔が全て潰された……。我ら大御門が一千年の歴史の中で、ただの若造一人にここまで徹底的にコケにされたことはない!」
長は懐から取り出した鋭い小刀で自身の腕を深く切り裂き、滴り落ちる血を使って、祭壇に禍々しい呪いの印を描き始めた。
「もはや体裁もプライドもかなぐり捨てる! こうなれば手段は選ばん! 御門の暗部である『呪殺部隊』全十名よ! 今宵、冴島宗という小僧と、その周囲にいる人間を一人残らず呪い殺し、八つ裂きの肉塊に変えてこい!!」
「ハッ!」
一糸乱れぬ声で応える十人の暗殺者たち。
彼らは物理的な現代暗殺術と、魂を破壊する強力な呪符を併せ持つ、現代呪術界における最高にして最凶の戦力だ。
大賢者の仕掛けたビジネスでの完全包囲網によって後がなくなり、ついに発狂した彼らが、なりふり構わず直接的な牙を剥いたのだ。




