第29話:社内の横槍と、大賢者のスマートな論破
御門グループの株価暴落を利用した一連の買収劇と、クリーンな新事業の立ち上げにより、俺たち「冴島チーム」の社内での評価はまさにうなぎ登りだった。
しかし、出る杭は打たれるのが現代社会の常だ。大きな利益の匂いを嗅ぎつければ、ハイエナのように群がってくるのが社内政治というものである。
「冴島くん。君のチームが進めている御門関連の吸収合併プロジェクトだが……さすがに規模が大きすぎる。君のような入社したての若造には、どう考えても荷が重いだろう。今日から、社内エースである第二営業部の我々が全て引き継ぐことになった」
ある日の午後。俺のデスクにやってきて横柄な態度で見下ろしてきたのは、社内で古い派閥を牛耳る第二営業部の武田部長だった。
他人が苦労して育てた果実を、収穫の時期にだけ強引に横取りしようという、見え透いた社内政治の常套手段だ。結衣が不安そうに、俺のスーツの袖をツンツンと引く。
「宗くん、どうしよう。武田部長は次期社長候補って言われてる専務の派閥で、彼に逆らうと社内で完全に干されちゃうかも……」
「心配いりませんよ、結衣先輩。……武田部長、ご提案は大変ありがたいのですが、丁重にお断りします」
俺がPCのキーボードを叩きながら涼しい顔で即答すると、武田部長は顔を真っ赤にして、俺の机をバンッと力強く叩いた。
「生意気な! ぽっと出の小僧が、専務直々の決定に逆らう気か! 会社という組織を舐めるなよ!」
「逆らうも何も、この巨大なプロジェクトを『今の』第二営業部が引き継げば、確実に大炎上して会社が傾きますよ。……【情報解析】」
俺は小声で呪文を唱えながらPCの画面を操作し、あらかじめ魔法でこっそり引き抜いておいた第二営業部の極秘データを、武田部長の目の前のモニターに映し出した。
「武田部長。おたくの部署が長年抱えている『明和建設』との取引ですが、下請け法違反スレスレ――いや、完全にアウトな強引な値引きを強要していますよね。しかも、担当の課長が接待と称して個人的なキックバックを長年受け取っている。……この特大の火種を抱えたまま、御門の巨大プロジェクトを引き継げば、監査が入った瞬間に全てが露見しますよ」
「なっ……!? な、なぜ他部署の最高機密を、お前が持っている……!」
「さらに言えば、専務がこの件を強引に推し進めているのは、彼自身が御門グループの幹部から過去に莫大な裏金を受け取っていた証拠を、プロジェクトを引き継ぐことで隠滅したいからでしょう? 俺が調べ上げた御門の裏帳簿リストの中には、しっかりウチの専務の名前も入っていますよ。……メディアに流しましょうか?」
俺が目を細めて冷ややかに笑うと、武田部長は額から滝のように冷や汗を流し、パクパクと水揚げされた魚のように口を動かした。
「わ、わかった! この話はなかったことにしよう! 専務には私から上手く言っておくから、そ、そのデータは絶対に外に出すなよ! いいな! 絶対にだぞ!」
武田部長は顔面を蒼白にし、逃げるようにそそくさと俺のデスクから去っていった。
現代の煩わしい社内政治など、大賢者の絶対的な情報収集力の前では、赤子の手をひねるより容易い。相手の急所を的確に握ってしまえば、権力などただの幻想に過ぎないのだ。
「やりましたね、宗くん! すごい情報網! まるで社内の不正も、専務の裏の顔も、全部お見通しみたい!」
「ええ。結衣先輩が普段から丁寧に各部署の動向をリサーチしてくれていたおかげで、情報収集がスムーズに進みましたよ。助かりました」
「もう、またそうやって私をおだてて! 私は何もしてないですよ!」
結衣は嬉しそうに笑いながら、パシッと俺の肩を叩いた。
こうして俺たちは、社内外のあらゆる理不尽な横槍を完璧な理論と情報戦で退け、プロジェクトを順調に進めていったのだ。




