第27話:休日のショッピングと、若き社長の「ベテラン目線」
御門グループを完全に追い詰め、俺たち「冴島チーム」が莫大な利益と圧倒的な社内評価を勝ち取った週末。
日頃の激務の慰労も兼ねて、俺は結衣を都内の大型ショッピングモールでの買い物に誘っていた。
「お待たせしました、宗くん! ごめんなさい、待った?」
「いえ、俺も今来たところです」
吹き抜けのエントランスにある待ち合わせ場所に現れた結衣を見て、俺は思わず小さく息を呑んだ。
普段のオフィスで見せるカッチリとしたスーツ姿とは違い、今日の彼女はオフホワイトの柔らかなニットに、歩くたびにふわりと揺れるフレアスカートという、清楚で可憐な私服姿だった。休日のリラックスした空気が、彼女の年相応の可愛らしさを何倍にも引き立てている。
「宗くんの私服姿、初めて見ましたけど……やっぱり背が高くてスタイルが良いから、そんなシンプルなジャケットスタイルでもすごく似合いますね! かっこいいです!」
「あ、ありがとうございます。結衣先輩も、その……とても可愛らしいです。よく似合っていますよ」
俺が素直に褒めると、結衣は嬉しそうにはにかみ、「行きましょう!」と俺の腕に軽く触れて歩き出した。
(いかんいかん。20代の青年の肉体に改造されているとはいえ、俺の中身は長年孤独だった58歳のおじさんだ。こんなに可愛らしい若い女性と休日に二人で買い物など、少しばかり動揺してしまうな)
内心の照れを大人の余裕でコーティングしながら、俺たちは華やかなアパレルショップが立ち並ぶフロアへと向かった。
「あっ、ここのお店の服、宗くんに絶対似合うと思います! 最近急に寒くなりましたし、冬物の仕事用のインナーとか、コートとか見てみませんか?」
結衣は楽しそうにメンズショップに入ると、いくつかの流行の服を手に取り、俺の体に当てて見立ててくれた。
「この細身のニットなんてどうですか? デザインがお洒落だし、宗くん、絶対似合うと思います!」
「ふむ。確かにデザインは洗練されていますね。……しかし、この肩周りの縫製は少々甘い。これでは数回の洗濯で首元が型崩れしそうです。それに、こちらのコートもカシミヤ混とありますが混紡率が低く、実用的な保温性と耐久性には疑問が残りますね」
「…………え?」
俺の冷静すぎる分析を聞いた瞬間、結衣が服を当てていた手を止め、目をパチクリとさせた。
「宗くん……?」
「ビジネスシーンでの実用性を考えるなら、見栄えよりも生地の『打ち込み』のしっかりしたものを選ぶべきです。例えばこちらの高密度ナイロンのダウンジャケットの方が、軽量で防寒性に優れ、満員電車での移動でも生地が傷みにくい。コストパフォーマンスと機能性を天秤にかけるなら、断然こちらですね」
俺が大真面目な顔で服の機能性と耐久性を語り続けると、結衣の肩がプルプルと小刻みに震え始めた。
「コストパフォーマンス……実用性……っ! ふふっ、あはははは!」
「な、なぜ笑うんですか?」
「だって、20代のお洒落な若者が、服を選ぶ時に『縫製の甘さ』とか『洗濯での型崩れ』ばっかり気にして、まるで服飾のベテランバイヤーか、実用性重視の堅実なおじさんみたいなんですもん!」
「っ! そ、それは……!」
しまった。限られた安月給の中で、いかに長持ちする質の良い服を選ぶかという、長年身に染み付いた中年サラリーマン特有の「実用性・コスパ重視のベテラン目線」が、ナチュラルに口を突いて出てしまった。
「お、叔父から、モノは見た目ではなく本質を見極め、長く大切に使えと教えられていましてね! つい機能性を厳しくチェックする癖が……!」
俺が咳払いをして必死に取り繕おうとすると、結衣は笑い涙を指先で拭いながら、愛おしそうに俺の顔をジッと見つめた。
「ふふっ。でも、いいです。完璧に見える宗くんが、そういう地に足のついた堅実な選び方をするの……私、なんだかすごく安心します」
完璧な若きエリートの皮を被った大賢者から、ポロリと漏れ出す渋すぎる大人の価値観。
このスマートで不器用なギャップが、二人の心の距離をさらに甘く近づけていくのだった。




