第21話:結衣のドレスアップと、洗練されすぎたエスコート
後日放送されたドキュメンタリー番組は大反響を呼び、ファンドの業績はさらに急上昇。俺たちが手掛けた一連の巨大プロジェクトは、誰の目から見ても完璧な大団円を迎えることとなった。
「結衣先輩。一連のプロジェクトの大成功と、日頃の完璧なサポートへの感謝を込めて……今夜、二人で食事に行きませんか?」
「えっ……二人で、ですか?」
「はい。少し良いお店を予約しました。服装は……そうですね、少しドレスアップしてきていただけると嬉しいです」
俺がそう提案すると、結衣は顔を真っ赤にして、コクリと小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
夜。俺が指定したのは、都内の一等地に建つ超高級ホテルの最上階にあるフレンチレストラン。
エントランスの待ち合わせ場所に現れた結衣の姿を見た瞬間、俺は思わず言葉を失った。
普段のオフィスで見せるスーツ姿とは打って変わって、彼女が身に纏っていたのは、肌の白さを引き立てる淡いネイビーブルーのシックなイブニングドレスだった。髪は華やかにアップスタイルにまとめられ、薄く引かれたリップが、彼女の大人びた魅力を最大限に引き出している。
「お、お待たせしました……。あの、変じゃないですか……?」
「いえ……とても綺麗です。あまりの美しさに、見惚れてしまいました」
俺が素直な感想を口にすると、結衣は「っ……!」と顔を林檎のように赤くして俯いた。
俺は自然な動作でエスコートの手を差し出し、彼女を伴ってレストランの特等席――東京の夜景が一望できるVIP席へと案内された。
「すごい……こんな素敵なお店、初めてです」
「喜んでもらえて何よりです」
俺は椅子を引き、彼女が座るのをスマートにサポートする。
最高級のフルコースが次々と運ばれ、ソムリエがヴィンテージワインをグラスに注いだ。俺は大賢者の知識と経験から、料理とワインのマリアージュについて静かに、しかし奥深い見解を語った。
「このワインは素晴らしいですね。果実の香りが芳醇で、実にエレガントな余韻が続きます」
「宗くん、ワインにも詳しいんですね。本当に何でも知ってて、すごいです」
感心したように俺を見つめる結衣。
夜景の光に照らされた彼女の笑顔を見ていると、俺の胸の奥底に、ある種の温かい感情が込み上げてきた。
「美味しいですか?」
「はいっ! ほっぺたが落ちそうです!」
幸せそうに料理を頬張る結衣を見て、俺は目を細め、つい本音をこぼしてしまった。
「良かった。たくさん食べてください。若いのだから、しっかり栄養を摂らないと。……君が美味しそうに食べてくれると、俺までなんだかすごく満たされた気持ちになりますよ」
「…………えっと」
結衣がフォークを止め、まじまじと俺の顔を見つめてきた。
「宗くんって……時々、本当に私の上司というか、『保護者』みたいになりますよね。まるで、娘の成長を見守るお父さんみたいな優しい目をしてましたよ、今」
「っ! い、いや! これは純粋に、エスコートする男性としての喜びを表現しただけでして!」
外見は20代の青年でも、中身は長年孤独だった58歳のおじさんだ。うら若き乙女を前にして、どうしても「守るべき存在」としての保護欲が滲み出てしまったらしい。
俺が珍しく焦って弁解すると、結衣はクスクスと笑いながらワイングラスを傾けた。
「ふふっ。でも、いいです。完璧に見えるのに、そういう落ち着いてて温かいところが……冴島さんみたいで、私、好きですから」
夜景の光に照らされた彼女の真っ直ぐな言葉に、俺の心臓は今日一番の大きな音を立てて跳ねた。
大賢者の完璧な偽装は、彼女の純粋な想いの前では、少しずつ心地よく溶かされていくのだった。




