モーガン家の庭
翌日、早速朝からモーガン家へとお邪魔した。
晴れてくれて本当によかった。
侯爵とアーネストは既に出勤していていなかったが、侯爵夫人とヴィヴィアンが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、クラウディア」
「クラウディアさん、今日は存分に描いていってちょうだいね」
「おはようございます。お言葉に甘えさせていただきます」
「描けたら見せてくれたら嬉しいわ」
「わかりました。時間があればお見せしますね」
「ええ。楽しみにしているわ。ヴィヴィアンに庭へ案内させるわね」
「ありがとうございます。ヴィヴィアン、よろしくね」
「ええ。早速案内するわ。お母様、失礼致します」
「失礼致します」
「ええ。また後で」
「はい」
クラウディアは侯爵夫人に頭を下げてヴィヴィアンに案内されて庭に向かう。
「さっき庭を見てきたのだけれど、薔薇が綺麗に咲いていたわ」
「本当? 楽しみだわ」
「でもクラウディア、いくら夢中になっても休憩はしないと駄目よ?」
「キティがいるから大丈夫よ。キティは私に適切に休憩を取らせてくれるから」
キティのお陰でクラウディアは思う存分絵を描くのに集中できるのだ。
「そう」
そこで呆れないでくれるのがヴィヴィアンだ。
普通なら呆れたり眉をひそめられたりする。
自己管理も貴族としての嗜みの一つなのだ。
とは一応家庭教師に言われたことだが、家族もラグリー家の使用人も特に問題視してはいないようなのだ。
やんわりと休憩はしっかり取りなさいとは言われるがきちんと自己管理しなさいと言われたことは一度もなかった。
キティを始めとした使用人が見ていてくれるから言われることがないのかもしれない。
一度でも倒れるようなことがあったら駄目だろう。
キティたちにも累が及ぶ。
そうならないようにとクラウディアは改めて気を引き締めた。
「ならいいわ」
「心配してくれてありがとう」
「友達だもの、当然でしょう」
その心遣いが嬉しい。
それからはたわいもない話をしながら庭へと向かった。
庭に出るとその素晴らしさに意識がそちらに釘付けになってしまう。
「クラウディア」
呼びかけられてはっとする。
クラウディアの性格をよくわかっているヴィヴィアンは特に咎めずに微笑って告げる。
「わたくしはあちらにいるから休憩する時はいらっしゃい」
ヴィヴィアンが指したのは木陰に置かれている丸テーブルだ。
「ヴィヴィアンも付き合ってくれるの?」
「クラウディアを一人にするわけにはいかないでしょう」
「ありがとう、ヴィヴィアン」
「気にしないで。代わりに休憩の時にスケッチを見せてもらうわよ?」
「ええ、それはもちろん構わないわ」
ヴィヴィアンが微笑う。
「楽しみにしているわ」
「ええ」
ヴィヴィアンが侍女を伴ってテーブルへと向かう。
「お嬢様」
キティがスケッチブックを差し出す。
「ありがとう。あとは鉛筆をちょうだい」
「はい」
さっとキティが鉛筆を差し出した。
「キティも疲れたら言ってちょうだい」
「お気遣いをありがとうございます。ですが大丈夫ですよ」
「そう? まあ何かあったら言ってちょうだい」
「ありがとうございます」
早速クラウディアは庭を歩き回る。
本当に薔薇が見事だ。
大輪の薔薇も小さな薔薇も。
定番の赤や白、ピンクの他にアプリコット色のものや珍しい紫色のものまである。
もちろん薔薇だけではない。
散りばめるように植えられている菫の花や勿忘草などの小花も綺麗だ。
それらがバランスよく配置されている。
庭自体が一枚の絵のようだ。
いつまででも見ていたい光景だが今日は絵を描きに来たのだ。
スケッチブックを広げて薔薇を描き始める。
途端に周囲のことが気にならなくなる。
ただただ夢中で目の前の薔薇を写しとることに集中する。
一枚描けば次は、と手が止まらなくなる。
うろうろと歩き回り、描きたいものを見つけて足を止め、それを描く。
それを繰り返していく。
どれくらいそうして描いていただろう?
「お嬢様、そろそろ一度休憩なさってはどうでしょう?」
描き上げたところでキティに声をかけられた。
気づけば何ページもスケッチで埋まっていた。
一ページにいくつもの絵を描いたページもあった。
集中力が切れた途端に疲労を感じた。
「そうね。そうするわ」
そうキティに告げてクラウディアは立ち上がった。
読んでいただき、ありがとうございました。




