天を駆ける烈風
天馬騎士は剣を中段に構えた。
『聖女よ、ひとつ聞きたい。
人は死んだらどうなるのだ?
貴殿なら知っておるのか?』
勇輝はその問いにちょっと考えた。
死人がどうなるのか、二例知っている。
自分と祖母の二人だ。
だが他の人はどうなのだろう。
「……よく分からない。
俺は特殊な例で、死んだ直後にこの身体を与えられた。
あと、死んだ婆ちゃんに再会したことがある。
それ以外は分かんないよ」
ありのまま正直に答えたところ、なぜか老将は笑い出した。
なにかが琴線に触れたらしい。
『ハッハ、貴殿は率直すぎて宗教家にはむかんな!
結局人というものは過去を変えられぬ、未来もわからぬ。
今を力の限り生きるのみか!』
ヒュオオオオ……!
風が吹きはじめた。
徐々(じょじょ)に強まってくる。
やがて渦を巻き、天馬騎士をつつむ。
『終りだ、天にでも祈るがいい』
風は竜巻となって騎士をつつむ。
そのまま猛然と突撃してきた。
ブオオオオォオオォォ!!
「こ、この魔法!?」
地上でこの魔法を使う男がいた。
あの時は罠にはめることで倒せたが、何もない上空では正面からやり合うしかない。
「ウオオオッ!」
勇輝は刀で受け流して突撃をやりすごそうとした。
だが風に巻き込まれ、錐揉みしながら吹き飛ばされてしまう。
ブオオオオォオオォォ!!
白兵戦はムリだ、竜巻の力が強すぎて手に負えない。
「…………」
『ユウキ様! ユウキ様!』
セラの声で薄れかけた意識がはっきりした。
「……あ、ああ大丈夫だ!」
激しく回転させられて、あやうく失神するところだった。
受け流そうとしたおかげでこの程度で済んだ。
正面から受け止めていたら粉々になっていただろう。
『また来ます!』
風をまとった天馬騎士が連続で突撃してくる。
態勢を整えるヒマもくれない、本気で終わらせる気だ。
「このヤロー!」
勇輝はクリムゾンセラフの翼に魔力をみなぎらせ、そして純白の羽を大量に飛ばした。
「くらえ必殺・羽根吹雪ィ!」
落下しながら羽根を大量にまき散らす。
その中を天馬騎士がためらいなく突っ込んできた。
「かかったなアホが!」
天馬の周囲に浮いていた大量の羽根ひとつひとつが、大爆発をおこした。
ドドドドドドオオオオオオンン!!
強敵ベアータとその機兵『ドゥリンダナ』を倒した羽根型遠隔爆弾。
疲労困憊していたあの時とは違って、今回はフルパワーだ!
「どうだっ!」
姿勢をただしながら、爆炎を見上げるクリムゾンセラフ。
だが。
『甘いわ小娘えええー!!』
老将の咆哮が爆炎を突き抜けて飛んでくる。
風の結界は何十という爆発をも耐えしのぎ、機兵本体を無傷のまま保護していた。
まさに攻防一体。
「やべ……っ」
クリムゾンセラフは上空からの突撃をまともにくらった。
単なる体当たりとも違う、竜巻の回転に巻き込まれながらの叩き落し。
勇輝の視界が前後左右に撹拌される。
いま機体と自分がどのような状態にあるのか。
そんなことも分からぬまま、勇輝は意識を失った。





