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【深木】はらぺこさんの異世界レシピ  作者: 深木【N-Star】
第二章
49/71

№3 待望の牛肉と牛蒡の時雨煮(おにぎりVer.) 2

 牛蒡が好きな人間には由々しき事態である。

 ――勇人君のためにもなんとかしなきゃね!


 そう気合を入れつつ、私は食材を取り出すべく冷蔵庫と保存棚の方へと足を運ぶ。

 牛蒡が嫌われる理由としては木の根のような見た目と独特な匂いと食感が上げられることが多いので、数ある牛蒡料理の中でも今回は牛肉と牛蒡の時雨煮を選択している。細めのささがきにしてして針生姜やお肉と共に時雨煮にすれば、苦手と言われやすい繊維質な食感も土のような香りも和らぐし。

 それになにより、時雨煮やすき焼きや角煮のような醤油を使った甘辛い味付けは欧米やヨーロッパの方々にも好まれやすいからね。

 恐らく一度食べてしまえば、受け入れられることだろう。

 そんなことを考えながら冷蔵庫から勇人君が薄切りにしてくれたお肉と生姜、そして隣の保存棚から牛蒡を手に取り、作業台に乗せる。



「ちなみ具材はこれです!」



 ドンッと音を立てて作業台に食材を並べれば、途端に広がる騒めき。

 皆さんが注目するのはやはりゴボウらしく、「あれはたしか勇者様の好物の」、「でも、あんまり美味しくないって」、「だってあれはどうみても木の根だろう」などなど地球よく言われる反応が返って来るけど調理してしまえば彼らにも食べられる味になるはずなので、私は包丁やまな板を取り出して黙々と作業を進めていく。

 百聞は一見にしかずって言うしね!


 「勇者の好物だって言うゴボウとお肉と生姜を使うんだね」

 「そうです。勇者のシューユも使いますよ。初めて会った時に食べた角煮と生姜の炊き込みご飯にちょっと似てます」

 「へぇー。それなら楽しみだな」

 

 感嘆の声を上げて懐かしむように目を細めたアルバンさんに頷き、調理を開始すべく生姜を手に取れば、角煮の炊き込みご飯を食べたことがある面々から「あれは美味しかったな」「あんな感じになるなら大丈夫だわ」と安堵の声が聞こえてきたので、小さく笑い私は生姜を節ごとに切り分けて皮を剥いていく。

 


 皮を剥き終えたら繊維に沿って薄切りにし、それをさらに一ミリ以下になるようすごく細く切っていく。

 そうして針生姜が出来たら、今度は牛蒡のささがきだ。

 ゴボウの皮むきにはクシャッと丸めたアルミホイルやたわしで洗ったり、ピーラーで剥いてしまったりと色々な方法と剥き加減があるけど、我が家は包丁の背を当てて一色変わる程度にショリショリ削っていくスタイルである。

 そしてさらに言えば、時雨煮の牛蒡は水や酢水に晒したりもしない。どうせ醤油で煮ちゃうので変色を気にする必要はないし、その方が風味も栄養も残って美味しいからね。


 というわけで、皮を剥いた牛蒡をまな板に寝かせて、クルクル回して包丁の刃が当たる場所を少しずつ変えながら鉛筆を削るように削っていく。

 牛肉の切り落とし三百グラムに、牛蒡のささがき一本分、針生姜を生姜一欠け分用意したらあとは簡単。お肉の色が変わり、野菜がしんなりするまで具材を炒め、調味料を入れて汁気がなくなるまで煮詰めたら完成である。

 今回使うのは醤油と軽めの白ワインと砂糖と蜂蜜なので、保存棚からそれらの調味料を取り出していく。

本来ならば醤油と調理酒とみりんと砂糖なんだけれど調理酒とみりんはないので、軽めの白ワインと蜂蜜で代用する予定だ。



 ――オリュゾンならお米を栽培してるだろうし、作り方が書かれた本もいっぱい持ってきたから開発してもらうところなんだけど、この国は輸入してるだけだしね。



 それにいくら美味しいものを食べることを生きがいにしている私でも、空気は読める。

 女神様に仇成す人々を捕まえるべく奔走している勇人君はなにかと忙しく、ヨハン陛下にはそれに加えて通常の仕事があるのだ。この状況下で、もっと美味しいものを食べたいので調味料の開発や食材開拓を手伝ってくださいと頼むなど言語道断だろう。

 それに調味料の開発に必要なのはマルクさんのように料理の経験が豊富で調理に役立つ魔法が使える人物や、ベルクさんやレイスのように食材採取に特化した人物、それから醤油を開発したという発酵などに詳しい人々なので、もともと簡単に集められるものではない。それだけの人材を探し確保するとなると、少なくとも女神様を脅かす人々を捕まえたあとでないと無理だ。

 とどのつまり、すべてが解決するまでは今あるもので我慢するしかないというわけだ。

 折角色んな本を持ってきたのに残念極まりないけど、まぁ、今回ばかりは仕方ないよね。

 


 ――これはこれで美味しいし。

 

 大丈夫、大丈夫と心の中で唱えながら、適当な器に調味料を入れて混ぜ合わせておく。

 醤油大さじ六杯に砂糖大さじ四杯、蜂蜜大さじ三杯に白ワイン大さじ四杯、みりん大さじ三杯、水を百ミリリットル。

 といってもみりんはないので、今回は白ワイン大さじ三杯と蜂蜜小さじ二杯を混ぜたもので代用だ。

 ちなみに、みりんは臭みを消す、風味をつける、照りを付ける、焦げ色を付き易くさせるといった効果を発揮する調味料である。

 みりんに含まれているアルコール成分によって肉や魚の生臭が消され、また酒類を料理に使うと加熱によってアルコールが飛び酒類が持つ旨味が濃縮され、同時に呈味成分(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味といった食べ物の味)が変化し風味がよくなると言われている。

 そして照りや焦げ目が付きやすくなるのは含まれる糖分による効果で、糖が加熱されることにより美しい褐色色素が生じ、さらに高熱を加えるとカラメル化して香ばしい香りを発するため。


 つまり、アルコールと糖分を足せば、みりんを入れたような効果が得られるってわけ。

 なのでみりんをうっかり切らしてしまった場合は、酒と砂糖を三対一、もしくは酒と蜂蜜を三対一弱で混ぜたもので代用可能、さらに酒がなければ日本酒、もしくは軽めの白ワインでもなんとかなる。まぁ、白ワイン使うと多少味が変わってしまうけど、私にとっては許容範囲内なのでみりんも酒も日本酒もない時はたまに使っている。

 砂糖と蜂蜜の使い分けはほぼ好みだと思うけど、照り焼きのようにみりんの艶出し効果を期待している料理の場合は蜂蜜がおススメかな。

 そんなこんなで調味料の一つや二つなくても、案外どうにかなるものである。個人で消費するならなおさらね。ないものはあるものでどうにかするというのも家庭料理の醍醐味であり、そういった創意工夫が『我が家の味』というものに繋がっていくんだしね。

というわけで、細かいことは気にせず調理を続ける。

 単に私の性格が大雑把だとか、そんなことはない。

 



 つらつらとそんなことを考えながらお鍋に油をひいたら、コンロの火をつけて中火に。

 お鍋が温まったら、牛肉の切り落とし、牛蒡のささがき、針生姜を入れて、お肉の色が変わり、牛蒡や生姜が少ししんなりするまで炒める。

 具材にある程度火が通ったら、合わせておいた調味料を投入だ。

 そうして、お玉などで丁寧に灰汁を取りながら汁気がなくなるまで煮詰めること、しばし。

 調味液が程よく煮詰まり、具材が茶色く染まったら牛肉と牛蒡の時雨煮は出来上がりである。

 しかし、今日はここで終わりではない。


――ご飯で具材を包んで握って、おにぎりは完成だからね。


 カチッと火を止めて、お鍋の中の時雨煮をお皿の上に移して広げ、粗熱が取れるのを待つ。

 その間に私は冷水と塩を用意し、ご飯の準備を済ませておく。

ご飯の準備といっても、固めに炊いておいたご飯が蒸らし終わったら大皿にあけて木べらで切るように混ぜるだけなんだけどね。ご飯を広げることで余分な水分が飛び、切るように混ぜることで鍋の中で押し固まっていたご飯の間に空気が入りふんわりするので、おにぎりを作るのなら大事な工程である。

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