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#1 イカれた仲間を探して 

※本作は全話に挿絵があります。

画像が表示されない場合は、挿絵表示設定をご確認ください。


また、各話にイメージソングも記載しています。

よければ楽曲とあわせてお楽しみください。


今日も最高のライブだった。


15歳で始めたドラム。気がつけば20年が経ち、リョウヘイは35歳になっていた。

23歳から組んだ幼馴染とのバンドはもうすぐ12周年を迎える。


売れない時期は長かった。ライブをして、バイトをして、スタジオに入る。その繰り返し。それでも一人も辞めなかった。音楽にイカれた最高のメンバーだ。


30歳を過ぎて、ようやく客が増えてきた。今日のライブも満員。次のツアーでは、今までより大きなライブハウスも決まっている。もう少し。あと少しで、バイトを辞めてバンドだけで食っていけるかもしれない。


リョウヘイの夢の1つが、ようやく叶おうとしていた。車は雨を弾きながら、深夜の高速道路を走っている。目的地は次のライブハウスがある街だった。窓の外を流れる街灯を眺めながら、リョウヘイが呟く。


「深夜高速……うーん、バンドしてるなぁ」

助手席のベースが振り返った。

「いまっすか?」

「ライブ終わって、機材積んで、夜中に移動。バンドだろ」

「そこなんすね」

後ろでギターが笑う。その直後、表情が変わった。

「……なんか変な音しない?」

運転していたボーカルも耳を澄ませる。

「そうだな。止めるか」


ハザードを点け、車が路肩へ寄っていく。


その時だった。


後方から、横滑りした大型トラックが迫ってきた。


「あ――」


避けられない。


巨大な車体が目の前まで迫る。その瞬間、リョウヘイは妙に冷静だった。


「あ、死ぬのか」


不思議と怖くなかった。毎回、これが最後でもいいと思えるくらいライブをしてきたからかもしれない。


ただ。


もう少し。


もう少しだけ。


バンド……やりたかったな。


強烈な衝撃。


そこでリョウヘイの35年の人生は終わった。次に目を開けると、知らない女の人に抱きしめられていた。視界はぼやけている。身体も動かない。声を出そうとしても、


「あー……」


意味のある言葉にならなかった。隣では知らない男も泣いている。誰だ。ここはどこだ。俺は――。


考えようとしても、眠い。腹が減った。抱かれていると安心する。35年間生きたはずの理性は、赤ん坊の本能に飲み込まれていった。そしていつしか、前世の記憶そのものを忘れてしまった。


それから3年。


ある日、テレビでドラマーが演奏していた。振り下ろされたスティックが、クラッシュシンバルを鳴らす。


その瞬間。


全部、思い出した。


ライブハウス。仲間たち。深夜の高速道路。迫ってきたトラック。そして最後に思ったこと。


もう少し、バンドをやりたかった。


「……俺、生まれ変わったのか?」

リョウヘイは自分の小さな手を見つめた。そのまま両親のもとへ向かう。

「とうさん、かあさん」

2人が驚いた顔で振り返った。昨日まで普通の3歳児だった息子が、突然まっすぐな目で2人を見ている。

「産んでくれてありがとう」

「……え?」

母親が固まった。

「俺、ドラム叩きたい」


両親からすれば、突然誰かが乗り移ったように見えただろう。最初こそ戸惑っていたが、2人はリョウヘイの願いを叶えてくれた。リョウヘイが欲しがったのはスクールではなく、ドラムを叩ける場所だった。両親は近所の音楽スタジオの回数券を、毎月買ってくれた。


前世の知識も技術もある。だが、身体は3歳。頭では叩けても、身体がついてこない。それでも続けた。身体が育つほど、ドラムは前世の自分に近づいていった。


中学生になる頃には、リョウヘイは地元のライブハウスへ通うようになった。出演予定のドラマーが来られなくなった日に飛び入りで叩いたことをきっかけに、名前はすぐに広がった。代打やサポートで呼ばれ、テレビやYouTubeにもたまに取り上げられる。異常にドラムが上手い中学生。周りからはそう見えていた。


でも、リョウヘイは満足していなかった。上手いだけじゃ足りない。欲しいのは、前世の仲間たちみたいな奴らだった。演奏中に何をするか分からない。こっちの予想なんて平気で壊して、それなのにもっと叩きたくなる。


そんなイカれたメンバーと、もう1度バンドがしたい。そんなある日、リョウヘイ宛てに1通の手紙が届いた。差出人は、東京音楽高専高校。東京にある音楽専門の高専高校だった。


全国から音楽をやりたい生徒が集まり、学校には好きなだけ音楽に打ち込める環境がある。資料を読みながら、リョウヘイは思った。ここなら、たくさんドラムを叩ける。それに、もしかしたらいるかもしれない。前世の仲間たちみたいな、イカれた奴が。


両親は反対しなかった。3歳の頃からずっとドラムを叩き続けてきた息子を、快く東京へ送り出してくれた。


そして春。


東京で1人暮らしを始めたリョウヘイは、入学初日、東京音楽高専高校の校門前に立っていた。


「ここか……」


校舎から、いくつもの楽器の音が聞こえてくる。ギター。ピアノ。ベース。管楽器。そしてドラム。


朝から好き勝手に鳴り続けていた。リョウヘイは少しだけ笑う。


「ここなら、イカれた奴らがいる……はず」

少し考える。

「……なんとなく、そんな気がする」

根拠はない。でも、妙に期待していた。リョウヘイは校門をくぐる。

「さ、イカれたメンバーを探しに行くか」


2度目の人生。2度目のバンド人生が、始まった。



挿絵(By みてみん)



イメージソング

深夜高速/フラワーカンパニーズ


毎日投稿いたします。20:30更新です。

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