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Re:frey ―リフレイン― 虚器盈つる黎明譚  作者: 14to
第二章

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26.温度

「任せろ」


 その言葉と共に、衛は駆け出した。

 その手には、ペン型の注射器が握られていた。

 行く手を阻むように、鎖たちが衛を襲う。

 杏は苦悶の表情を浮かべ、再び呻き始めた。

 痣が瞬く間に全身を覆っていく。


 それだけでなく。


 それは次第に、ひび割れていった。

 ひびから、鮮血と彩礫があふれ出す。漏れ出た彩礫は霧散し、辺りの空気を割る。空間に生じたひびはさらに広がっていった。

 杏は完全に制御を失っていた。

 杏の彩力に彩礫が呼応し、空気が揺れる。

 杏を中心として、石畳へ放射状の亀裂が走っていった。

 衛はその様子に慌てて燦の元へ転移した。その身体を抱え、再び転移して塀の上に避難させる。


「塀を伝って、できる限り離れて!」


 衛は燦にそう告げると、自身は彩礫が荒れ狂う中庭へ戻っていった。

 なおも、無数の鎖が衛を襲う。その数は先程の比にならない程増えており、二本のナイフではとても捌ききれなかった。

 

「くっ、…っ」


 捌ききれなかった鎖が、容赦なく衛を傷つけていく。体が軋むように痛む。

 本来なら歩くのも儘ならないような体で、衛は杏に向けてひたすら駆けて行った。

 衛を支えるのは、ただ一つの情念のみであった。


 特別なことは願わない。


 ただこの子に、温かいご飯を食べてほしい。


 安心して眠ってほしい。


 気兼ねなく笑ってほしい。


 ただこの子に、生きていて良かったと、日々が楽しいと、そう思ってほしい。


 ただ、それだけ。


 だから、


 どうか。


 

 そんな衛に向けて、鎖は収束するととぐろを巻き、ドリルのようになって衛に迫る。

 杏の鎖はきっと転移させられない。

 とっさに、衛は下に滑り込むと、ナイフで鎖たちを受け流した。


 その先にやっと見えた、杏の姿。


 痛々しくて、弱々しくて、けれど苛烈で。


 衛は杏に向けて手を伸ばした。


 そんな衛に向けて杏は。


「死んで」


 そう呟いて、左手を突き出した。






❖❖❖❖❖






 うなじに、針に刺されたような痛みが走る。

 左手には柔らかく生温かい感触があって、左腕には温かい何かが滴り落ちていた。

 咽るほどの鉄のようなにおいが鼻を突く。

 右肩にかかる重みに耐えきれず、杏は膝をついた。

 そっと、抱きしめられる。

 けれどその腕には力がなくて。

 体中を包むぬくもりが、杏には酷く恐ろしかった。




「おかえり」




 その温度を、杏はよく知っていた。

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