0.夢
不思議な空間の中心に立っていた。全身を熱くさせるような眩しい照明。布や木材の交じり合った独特の匂い。すぐにそこが大学の演劇サークルのステージだということが分かった。両サイド斜め後ろに人の気配がした。懐かしい声が聞こえる。
「メインエンジンが限界。もうダメ。このままじゃ、壊れる」
「ジェニー、何弱気なこと言ってんだ。エディの言葉を忘れたのか?」
「…そうね、マックごめん。私は信じる、自分を、そして仲間を」
「いくぞおおお!」
ゴオオオォッと鳴り響くSE。徐々にフェードアウト。音が消えたと同時に、自分に照明が当たる。きっかけ、自分の番だ。そう思い、口を開く。が、なぜが声は出ない。何を言うべきかは頭にあるのに、心がブレーキをかけているように喉をつかえて出てきてくれない。どうして、なぜ、これじゃあみんなの…。声の代わりに涙が溢れそうになる。違う、ここで泣いてはダメだ。なんでこんなことに、自分の情けなさに絶望して、崩れ落ちそうになる直前、大音量の音楽とともに、照明が消えた。闇の中で、涙が流れる…。
目が覚めると、そこは電車の中だった。石澤誠は一瞬記憶が繋がらず混乱していたが、少し周りを見渡すと、そこは初めて乗ったローカル線であることを思い出した。新緑の景色を楽しもうと思っていたが、カタン、カタンと、座席シートを通して伝わってくる心地よい揺れで、いつの間にか眠っていたようだ。ローカル線というのもあり、人はまばらである。車内アナウンスが次の停車駅を告げる。目的の駅だ。誠は慌てて荷物をまとめて、席を立った。




