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追放された俺と、古びた看板

「…もう、用はない」


ギルドの受付嬢の冷たい声が、鼓膜を撫でた。背中にずしりと重い鞄を背負い、俺はよろよろとギルドの扉へと向かう。もう、俺はここの「F級冒険者」ですらない。


「アキト。お前、もう俺たちのパーティーにはいらない」


昨日の、パーティーリーダーの言葉が頭の中でリフレインする。あの時、俺はただ「ステータスが見える」だけの、取るに足らないスキルを持っているだけだと思われていた。もっとも、それは俺自身もそう思っていたことだから、文句も言えなかった。


(寂しいな…)


ギルドの扉を開けると、賑やかな声が飛び込んんできた。いつもの日常。でも、俺はその輪にはもう入れない。まるで、透明人間になったような気分だった。


「ちっ、こんなところで立ち止まってんじゃねぇよ、邪魔だ!」


背後から聞こえた乱暴な声に、俺は慌てて道を空けた。視線を感じる。ギルドの入り口で立ち止まっている俺を、訝しげに見ている者もいる。


(仕方ない。とりあえず、どこかで腹ごしらえでもするか…)


空腹を抱えながら、俺はギルドの敷地を出ようとした。その時、ふと、ギルドの入り口の脇に立てかけられた、古びた看板が目に留まった。


「…『冒険者登録、随時受付中』か」


かすれて、ほとんど読めない文字。長年風雨に晒されてきたのだろう。木材はところどころ黒ずみ、塗料も剥がれかけている。


(あんな看板、今まで気にも留めなかったな)


俺は、ぼんやりと看板を見つめた。分析癖が、無意識のうちに発動する。


(うーん、この木材、表面はそこそこだけど、中身はかなり腐食が進んでるな。塗料も、紫外線で劣化して、細かいひび割れがたくさん入ってる。いつ倒れてもおかしくないんじゃないか?)


そう思った瞬間、俺は無意識にスキルを発動させていた。《看破》。


【看板】

・種別:木製看板

・材質:ポプラ材

・劣化度:78%

・隠蔽度:0%

・潜在能力:なし

・付与効果:なし

・特記事項:

 - 内部腐食:木材内部に菌類が繁殖し、構造強度が著しく低下している。

 - 塗料剥離:表面塗料の劣化により、防水性能が低下。更なる腐食を招く。

 - 募金箱(隠蔽):看板裏面に、装飾として偽装された小型募金箱が取り付けられている。


「…は?」


俺は、自分の目を疑った。募金箱?看板の裏に?


(まさか…)


俺は、看板の裏側へと回り込んだ。そこにあったのは、確かに小さな、装飾のように見える木箱だった。よく見ると、上部に硬貨を入れるための隙間がある。


「うわっ!本当だ!」


思わず声が漏れる。幸い、周りには誰もいない。


(この募金箱、誰がいつから設置したんだろう?それに、この看板の腐食具合…ただの老朽化じゃなさそうだ)


俺の《看破》は、物事の表面だけでなく、その構造や隠された意図まで見抜くことができる。これは、俺が日本でデータアナリストだった頃に培った分析力と、この世界のスキルが奇妙に噛み合った結果だ。


「…あれ?この看板、ただの古びた看板じゃなかったんだ…」


俺は、看板に隠された秘密に、静かに驚いていた。この世界では、俺のスキルは「ハズレ」とされていた。しかし、もしかしたら、それは俺の《看破》の真価を、誰も理解していなかっただけなのかもしれない。


(この募金箱、一体何のために?それに、この看板の腐食…)


俺の頭の中は、新たな疑問でいっぱいになっていた。辺境の村で農業をして静かに暮らしたい、という俺の平和な目標は、まだ遠い。


(もしかしたら、俺の《看破》、本当に役に立つスキルなのかも…)


ふと、そんな予感が胸をよぎった。それは、追放されたばかりの俺にとって、ほんの少しの希望の光だった。

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