9-3 TS美少女と愛の言葉
「好きです。紬のことが好きでやばいです。なんとか、なんとか優しい紬様のお慈悲で、オレの彼女になって頂くことはできませんでしょうか」
和也はたぶんその顔面に私の柔らかな胸の感触を感じながら、中腰の私に抱きしめられた体勢で、モゴモゴと私からの愛をせがんでくる。
もう身体中が熱くて、頭がおかしくなりそうだ。
ここまで言ってくれるなら、私だってもちろん、嫌だなんて言うわけないのに。
「……まあ、うん。いいけど?」
私は強引にぎゅうっと、和也の顔を自分の胸で窒息させるくらいに抱きしめて、自分の今のだらしない顔を絶対に見られないように死守していく。
嬉しくて嬉しくて、自分の心臓がおかしいくらいバクバクと音を立てていた。
きっとその鼓動は今、和也にしっかり聞かれてしまっているのだろう。
もうこれから、和也はずっと私のものだ。そしてこの私も全部、和也のものなんだ。
「……まったく、しょうがないなあ! いいよ? かわいそうな和也のために、私が彼女になってやろうじゃん? お前の童貞なんて、私で捨てさせてやるしかないもんな、仕方ないな!」
こんなに嬉しいのに、自分のひねくれた心が邪魔をして、かわいげのない言葉しか出てこない。
生まれたときから女の子だったのなら、きっとこんなときくらい、女の子らしく素敵なことを言ってあげられただろうに。
大好きだという気持ちと、こんな私で申し訳なく思う気持ちと、それでも私を求めてくれることへの嬉しさが入り交じって。
感情が乱れ、ちょっぴり涙がこぼれて、だけど頬はだらしなくゆるんでいく。
きっとぶさいくな表情になってしまっているし、こんなかわいくない私を見せたくはないけれど。
だけど今の自分の顔を見せないことよりも、きっと喜びまくっているはずの和也の顔を見ないことがもったいなく感じてしまって。
我慢できず私は和也の頭を解放してやり、鼻がくっつきそうなくらいの至近距離で、その情けない冴えないだらしない顔にまた向き合った。
その今の表情も、本当に大好きだよ。
でもたぶん今の和也に負けないくらい、私もでれでれの顔になってしまっているんだろうな。
好きだよ和也。
恥ずかしくて、うまく言葉にはできないけど、こんなにこんなに大好きなんだ。
「お、おう。なんかムカつく言い方だけど。じゃあまあ、うん。これからもよろしく」
低く優しい和也の声が、私の耳をくすぐる。
私のお馬鹿な言葉は照れ隠しだって、ちゃんと私のことをわかってくれてる。
それも嬉しくて、たまらない。
だから少しくらい私からも、そんな和也へ愛情を返してあげたくなってしまう。
「……うん。ありがと。……ふふ、へへへ! なあ和也、とりあえず今、チェリーだけ卒業しとくか?」
私から与えたその大サービス発言に、和也の瞳が大きく開かれて。そのがっついた表情に、ちょっとまた笑ってしまう。
どうせもう、ほとんど唇が引っ付いてしまいそうなくらい顔も近づいているし。
もちろんそれは、恋人になるというのなら、いつだって和也には許されるべき権利だから。
「えっ、まじで!? いいの!?」
「か、確認すんな童貞! ……ほら、早く」
本当は、好きだ大好きだと叫びだしたいくらいなのに、うまく言葉にならなくて。
だからせめて、私が女になって初めてのキスくらいは、お前が欲しいだけお好きなように奪ってくれよ。
近づいてくる唇に、目をあけていられない。
心臓が爆発しそうで、涙腺まで熱くなって、何も考えられなくなってしまう。
「あ、でもオレ、実はもうとっくにチェリーボーイは卒業してたんだよな」
急に焦らすみたいに和也が馬鹿なことを言ってくるから、あとちょっとでファーストキスだったというのに、私は思わずまた目を開いて笑ってしまった。
わかってるよ。
どうせ相手はお母さんだとか、そういう話なんだろ。
「ほら、病院にいたころさ、お前がオレのベッドでいびきかいて寝てた日があっただろ?」
あーそっちね、はいはい。
オチが読めてしまった和也の馬鹿話を、たぶんもう唇が今にも当たってしまいそうな距離で聞いてやりながら、お互いのおでこをくっつけて、ニヤニヤ笑いが止まらなくなる。
「そりゃもう、一回どころか、5回はキスしてやったからな。童貞の性欲なめんなよ?」
5回で満足できたんなら、まだまだ私への愛が足りないな。
こんな美少女が自分のそばに寝てるなら、縛りつけて動けなくして、何回だって好きなだけキスするほうが正解なんだぞ?
「ばーか」
好きだ、と言うかわりに、私も精一杯の憎まれ口でお返しする。
そこでもう、私も和也も我慢しきれなくなって、同時にお互いの顔をさらに近づけていった。
ずっとずっと、こうしたかったから。
私を待たせすぎたことを、しっかり謝ってほしいくらいだ。
唇から伝わってくる感触は、ほとんど痺れるくらい衝撃的で、でもすぐに和也がそれを離してしまったから、私はそれを全然満足するまで味わうことができなかった。
「……へったくそ。……ほら、もっと私で練習しろ。もう一回」
私の暴言を吐く口をふさぐように、また和也の唇が重なる。
それがまた離れると、すぐに寂しさが膨らんで、何度でも、ずっとでも、このキスをせがんでいないとまた泣き出してしまいそうなくらいだ。
ごめんね和也。こんな私でごめん。
ひねくれていて、しかも元は男なんだよ。
きっともっといい女なんて、世の中にはたくさんいるはずだけど。
だけど、私を選んでくれたこと、絶対に後悔はさせないからな。
私はお前のおかげで、もうこんなに幸せなんだから。
だからその分、いっぱいいっぱい、私がお前のことも幸せにしてみせるよ。
唇が重なるたびに、思わず目をつむってしまうけど、次はそのまま和也の顔を見ていたくて、和也の頬に手を沿わせたまま、またゆっくりと顔を近づけていく。
「……ねえ、もう一回」
言いながら、たぶん私のほうから、四回くらいはキスを続ける。
好きで、大好きで、これはもうここまで私をおかしくした和也が悪いんだよ。
こっちは元は男だっていうのに、こんなに惚れさせやがって。こんなの、もう戻れないじゃんか。
もうきっとこいつの唇を噛みちぎってモグモグするまでは、私は満足できそうにない。
荒くなった息を落ち着けるように、和也が一度体を後ろに反らして、ニタニタと笑った。
「あー……紬、かわいすぎ」
まったく、これだからチェリー卒業したての童貞は困る。
くだらない感想なんて、言ってる場合か?
私はこれじゃあ全然足りないし、ちっとも満足なんてできていないんだから。
私はまた自分から和也に馬乗りになって、顔を近づけていく。
「……いいから、早くもう一回。……だめ、やっぱりあと十回な」
美少女があと十回と言うのなら、気分次第であと二十回にも三十回にも延長されるのは当たり前のことだ。
それをちゃんと理解してもらえるまで、私がきちんとこいつをしつけてやらなければならないだろう。
こうして私は名実ともに和也のものとなり、元男性のTS美少女としての自分から、転がり落ちるように、メス堕ちいちゃらぶルートへ進んでいくことが確定したのだった。
第2章は以上です。
たくさんの方に読んで頂いて幸せです。いつも本当にありがとう!
【たまに登場するギャルっ子からのお願い】
えー? あんた、まだブクマも評価もしてないわけ? せめてブクマくらいしとかなきゃヤバいっしょ。ちゃんと作者っちを応援してあげなよー?