7-3 TS美少女と初登校
「うまぁ! 紬ちゃん、お料理ほんとに上手なんだあ。……ねえ紬ちゃん、やっぱりうちに嫁入りしてよ! わたしのお義姉さんになって欲しい!」
放課後。
私は制服姿のまま和也の家に突入し、手際よく晩ごはんの準備を整えた。
桜ちゃんにこんなに誉められている今日の晩ごはんは、玉子ふわふわのカツ丼だ。
まだお箸が使えない和也の分は、カツを一口サイズに切っておいたから、きっとスプーンでも食べやすいはず。
桜ちゃんからの情報によると、和也は若者らしく肉が好きらしいし。
カツはお惣菜がセールだったので、手抜きでそれを使ったし、付け合わせのお味噌汁もダシは粉末のものだから、味はごく平凡なものだが。
たくさん手の込んだものを作ってあげたいという気持ちもあるが、そのせいで和也とおしゃべりする時間が減っては元も子もない。
手際の良さも、いい妻の条件というものだろう。
いや、まだそんな、妻とか結婚とか、そういうんじゃないけどさ。
「よ、嫁入りとか……ほら、それはまだほら、ちょっと早いっていうか……な? 和也もそう思うよな?」
怪我をしていない方の手にスプーンを持ち、もくもくと食べ進める和也。
ほっぺたを膨らませた子供っぽさが残る食べ方が、ちょっとかわいく見えてくる。
だけどこんな美少女の手料理を食べておきながら、こいつちょっとリアクションが薄すぎる気が。
「和也? ……どうした? もしかしてあんまり口に会わなかったか?」
私があざとく上目遣いで確認してみると、和也はいかにも慌てたように、モグモグしていた食べ物を飲み込んだ。
「……ん? あ、いやいや! うまいよ、うまい! 制服姿の女の子がこんな家庭的な料理とか、幸せ過ぎて死ぬわ」
ふふん。
まあ、そうだよね。
男女平等社会なんてよく言われるが、美少女が料理もできて、それが自分のためだなんて。
こんなの、嬉しくない男なんているわけないし。
「こんなまともな晩めし、久しぶりかも知れねえわ。毎日でも食いたいよ」
毎日!?
いいよ!? もちろんいいけどさ、でもそれって……!
「ま、毎日お味噌汁作ってくれみたいな話!? だから和也、まだそれは早いってば……」
うへへ、これだから童貞は困るよねえ。
美少女と見れば、すぐ幸せな未来を想像しちゃうわけだ。
好きだったらすぐ結婚、なんて甘い話じゃないんだぞ?
そんなのこの私じゃなかったら、絶対オッケーなんてしてくれないんだから。
「あー違和感がエグい。お兄ちゃんがかわいい子とイチャイチャしてる姿って、なんでこんなにムカつくんだろ」
桜ちゃんのため息に、私は思わず緩めまくってしまっていた頬を引き締め、何事もなかったかのように食事を再開する。
確かに、自分の家族に目の前でいちゃラブされて嬉しい人なんて、まあいないだろう。
桜ちゃんがブラコンだとか、そういう問題ではない。
お前も桜ちゃんがいるときは、あんまり私を喜ばせすぎるのはやめてくれよな。
そう思って和也の方を横目で見ると、またなぜか無口になって、黙々とごはんを口に運んでいるみたいだった。
「……和也? なあ、お前なんかあったか? ちょっと元気ないよな? おっぱい揉むか?」
なんだか珍しい和也の雰囲気に、さすがにだんだん心配になってくる。
学校とかで何かあったんだろうか。
ちょっと口がすべったが、おっぱいはやりすぎとしても、なんか元気付けてあげたくなるなあ。
「ば、馬鹿かお前。……いや、ちょっとな」
「なにお兄ちゃん。大して興味もないのに、わたしたちが一応聞いてあげてんだからさあ、チャキチャキ話せよ、うざっ!」
言いよどむ和也に対して、あまりにも冷酷な桜ちゃんの言い様。
和也はこのマゴマゴしたりするところが、味があってかわいいポイントだというのに、もったいない。
「いやほら、今日学校で、色々紬のことが話題になってたんだよな」
和也はためらいがちに、私の名前を出した。
あ、もしかして。なんか私のことで、からかわれたりしたのかな?
いや、自分がモテないのに、私がかわいすぎていきなりモテまくりだから、ちょっとしょんぼりしちゃったとか?
「噂好きの奴らがみんな、めちゃくちゃかわいいとか言ってて……まあそれはオレが一番知ってんだけどさ」
和也はちょっと照れたようにお茶を飲んで、ちらっと横目にこちらを見てくる。
あーそういうことね。
不安になっちゃったんだろ。私が他の男に……みたいな。NTR的な。
もう、そんなの大丈夫に決まってるじゃんか。
「みなまで言うな、和也。……ごめんな私がかわいすぎて不安にさせちゃって。でも大丈夫だぞ? 私はお前以外の男になんて、一切興味ないからな?」
私が優しく肩に手を置いてやると、和也はちょっと笑ってそれを振り払ってくる。
「いや、まあそれは嬉しいけど、そういうわけじゃなくてな」
なんだこいつ、という目で見ていたら、逆に和也の方が優しい表情になってコップを置き、その手を私の頬に当ててくれた。
「通学初日で色々紬も大変だろうから、ちょっと心配してたんだよ。女子って色々大変なんだろ? ストレスにならないか、とかさ。……でもまあ元気そうだし、とりあえず安心した」
ふわふわと、体が軽くなった。
大丈夫に決まってるじゃん。
そりゃ、ちょっとだけ他の女子からの圧は感じるときもあったし、少し緊張はしたけどさ。
でもお前とこうやって毎日会えるんだから、ちょっとのストレスなんて全然大丈夫だよ。
でも、心配してくれてたんだ。私のことを。
こいつもう、好きじゃん私を。愛しちゃってるじゃん。
ほんと仕方ないやつ。
そろそろ責任、とってあげたほうがいいのかもしれないなあ。
ちょっとわかりづらく不器用なその和也の優しさに、もう私の胸は一発でぽっかぽかにされてしまったのだった。
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