7-2 TS美少女と初登校
クラスでの自己紹介のときから、なかなかのざわつきが広がった。
休み時間のたびに、私のこの美貌を一目見ようと、廊下へ男子も女子もわらわらと大勢集まってきている。
かわいすぎる、というのも罪なものだ。
せっかくきてくれた男子たちには、一応にっこりと微笑み、あざとくウインクなんかもしてあげてみたりしているが、別に男に興味があるわけではない。
モテる、という感覚を一度は味わってみたかっただけだ。
だけどその心の余裕が続いたのは、最初の二回の休み時間まで。
それ以降は、大量の視線にさらされて、ただイライラするだけの環境でしかない。
「すごいね紬っち。二年生のカッコいいって有名な先輩まで来てたし。彼ぴ選び放題じゃん?」
桜ちゃんの友達だという、ギャルっぽいがこれまたなかなかの美少女なクラスメイトが、私の机にもたれかかって、ニヤニヤとからかってくる。
「紬っちは初日からそんなメイクもバリバリで、気合い入ってんだねぇ?」
あ……。
これってもしかしたら私に、調子に乗るなと釘を刺してきているのかも。
女の世界は怖いものらしいからな。メス塾でそう言ってたし。
でも、こんな元おじさんにマウント取ろうとしないで欲しいんだが。
私はキミらとは敵対するつもりはないんだよ。私の和也にさえ手を出してこないならね。
桜ちゃんはクラスのいわゆる一軍、陽キャ系の美少女軍団に所属しているようで、私もまずは自然とそのメンバーの仲間入りのようだ。
とりあえず仲間外れにならずにすんだのはありがたいが、男だったころの私の感覚では、少人数で仲睦まじく静かにおしゃべりしている系の、大人しい感じの子がタイプだったはずなんだけどな。
まあグループ云々は心底どうでもいいのだが、当面は桜ちゃんの近くにいるのが安泰だろう。
続いて昼休み。
そろそろ私の辛抱は限界に達していた。
暇さえあればワラワラと大勢に群がられ、自分が動物園のキリンか何かになったような気分だ。
私が元は男だと叫んで追い払ってやりたいくらいだが、国との誓約のせいでそれもできないし、信じてもらえるはずもない。
桜ちゃんたちはあたかも平気っぽいそぶりでお弁当を広げていくが、間違いなく不快な思いはさせてしまっているはずだ。
こんなたくさんの人に見られながらごはんを食べるなんて、正気の沙汰ではないだろうし。
自分以外の女がちやほやされている姿というのも、みんな決して楽しいものではないはずだ。
これ以上は、気を使ってくれている桜ちゃんたちに申し訳ないし。
ここは元男としてきっぱりと、それでいて波風を立たせすぎないよう、うまく人払いをしなくては。
私は立ち上がって、廊下の窓に集まった馬鹿どもの方へ視線をやり、儚げで困ったような表情を作った。
「あの、ごめんなさい皆さん。あまり大勢に見られてると、私ちょっと恥ずかしくて……。また、落ち着いてから遊びに来てもらえたら、嬉しいです」
事実上の、うせろ! 宣言のつもりではあったのだが、私の言葉にギャラリーたちは、むしろ盛り上がってしまったくらいだった。
男子たちの野太い歓声が少々気持ち悪い。
気持ちはわからなくもないけれど、かわいい女の子が見たいだけなら、今どき動画やら何やらいくらでもあるだろうに。
ましてやこっちは元男だぞ。
帰って欲しいな、切実に。
かえって大きくなってしまったざわめきに、もう諦めて腰を下ろすと、桜ちゃんの友達の一人がこちらをなぜかうっとりとした瞳で見つめている。
「はぁ……! だめだよ紬ちゃん、そんな言い方じゃ、かわいすぎてあたしみたいな女の子でも好きになっちゃうじゃん……!」
百合っぽい視線に、しかしまだこの子の名前すら覚えておらず、おやおやどうしたものかと困ってしまう。
でも、すぐに桜ちゃんがふざけたようにその子をからかったりして、また場を和ませてくれた。
コミュ力つよつよ系女子か。
優しいしかわいいし、桜ちゃんは本当に和也によく似て……るか? いや、かなり怪しい部分もあるか。
とくに顔面。
でもこうやって他のクラスメイトと私の間を取り持ってくれるのは、本当にありがたいことだ。
嫉妬、マウント、そしていじめ。女の世界はあまりにも生きづらい……らしいから。
とはいえギャラリーたちは、しばらく無視しているうちにだいぶ数も減っていった。
もう人の視線にはうんざりだが、急に興味を失われると、それはそれで腹が立つ。
やっぱりこういう不快な気分になったときは、和也に会ってリフレッシュしておきたいところだな。
「ねえ桜ちゃん。私、お昼休みはちょっと、和也のクラスに行ってみたかったんだけど……和也は2年3組って言ってたよね?」
人に群がられて、すっかり忘れてしまっていたが。
あいつが普段どんなふうに学校で過ごしているのか、ぜひ見てみたかったのだ。
考えただけでもワクワクしてくる。
「えっ……なんで? 和也って、桜っちのお兄さんでしょ? それ、ヤバくない……? 絶対大パニックでしょ」
ギャルっ子のクラスメイトちゃんが、ちょっと引いているのがわかる。
でも果たしてそんなにヤバいことだろうか?
この美少女すぎる私と仲良くしていることを知られれば、そりゃあもう大勢の嫉妬の的にはなるだろう。
だがしかし。
和也は私のものだと、ちゃんと和也の周りの人間に教え込んでおくことも大事なのでは?
厳しい女性社会において、縄張り争いは非常に重要なこと。
これもメス塾で講師の人がそう言っていたから間違いない。
「紬ちゃん、お願い。お兄ちゃんの高校生活を乱さないであげて……! ただでさえケガで入院してたから、クラスで浮いてるらしいんだから……!」
桜ちゃんが、私の肩をがっしりとおさえながら、わりと必死に言い聞かせてくる。
いつもお世話になっている桜ちゃんに言われると、私もちょっと強気には出にくいのだけれど。
でも、あいつが同じ学校にいると知っていながら、会いにいかないなんて選択肢、つらすぎるとは思わないのかな?
「あ、あのね? 放課後はうちに来るんでしょ? いくらでもイチャイチャしてていいからさ、学校ではとりあえず我慢しよ?」
その桜ちゃんの言葉に、周りのクラスメイトがニヤニヤしだしたのがはっきりわかる。
やめろ。
私と和也は、そういうんじゃないんだ。もっとなんというか……やめろ。
恥ずかしいからやめて。
「い、いやほら、イチャイチャとかそういうんじゃないしぃ!? ただほら放課後はさ、キャンプ道具見せてくれるって、あいつが誘ってくるからさあ?」
私が立ち上がって必死に言い訳を続けても、クラスメイトたちの生暖かい視線はなくならない。
違うんだけどなあ!
みんなが思うような、そういうんじゃないんだよ。
ほんと、全然違うんだけどなあ!




