表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

一話 花子さんおいで

 私の学校には幽霊が出るという噂がある。それはトイレの花子さんが出るという。

 霊の見える私から言えば、トイレのみならず、図書室にいるし、教室に生首が転がっていることもあるのだけれど……。


 さて、花子さんと会う方法というものがある。地域によって方法というのは少しずつ異なるのだが、私の学校は特別変わっているようだ。

 校舎の四階にいき、個室のドアを四回ノックして「花子さんおいで」と言う。

 そうしたら、トイレに入って用を足す。終えたら、流して、外に出る。ドアを開けた時、鈴の音がしたら花子さんがそこにいたということらしい。


「マツリ、トイレ行こう!」

「んーいいけど」


 幼馴染のユウハに連れられてトイレに来た。女子のトイレは、友達を連れて行くのが基本。

 放課後ということもあって、人も少なく、窓から琥珀色の光がトイレに入って、怪しい雰囲気を醸し出している。

 年季の入った校舎ということもあり、怪しさは倍増。

 きれいに磨かれた床はゴミや髪の毛一本落ちていない。

 花子さんの噂は知っていたが、私はまだ一度も見たことがなく、あまり花子さんについては信じていなかった。


「マツリはトイレ行かなくていいの?」

「そんなにしたくないからね」

「そっか」


 残念そうに眉を下げるとユウハは、肩まで伸びた髪をなびかせて、個室に入った。

 ユウハは怖がりで、花子さんの噂を聞いてから、一人でトイレにいこうとせず、いつも私を連れて行った。

 カラカラカラとトイレットペーパーを出す音と、用をたす音、外からは微かに運動部の声が聞こえた。


「マツリー! いるー? どこにも行かないでよー!」

「いるってばー!」


 十七にもなって一人でトイレに行けないとは……。幼馴染ながら将来が心配である。家でも、親や兄妹を連れてトイレに行ってるんじゃないだろうな。

 トイレに行きたくないといったものの、やっぱり行きたくなってきた……。我慢して家に帰ってからトイレ行ってもいいけど、今ここにトイレがあるのだから。してしまおう。

 キィと音を立ててドアが開き、すっきりした顔のユウハがでてきた。


「ユウハ、やっぱ私トイレするわ」

「わかった、あたし先に外出てるね」


 ユウハは手を洗うとパタパタとトイレから出ていった。人を待たせておいて、あんたは待たないのかい。

 ため息を漏らして、個室に入った。

 スカートの下に履いた体操ズボンとパンツを下げて、便座に座る。太ももの裏が便座の冷たさでひやりとする。トイレットペーパーを手に折ってちぎり、もう一度ため息を吐いた。

 体の力を抜いてリラックスした瞬間。どこからか視線を感じた。

 尿道をこじ開けて出るおしっこはもう止めようとは思わない。誰かが見ているという羞恥心もありながら、誰かに見られているという苛立ちもあった。

 はやくおしっこ終わってくれ。

 背中に感じるピリピリとした視線。

 微かに息遣いも聞こえてくる。

 後ろから視線を感じる時は、上に霊がいると聞いたことがある。

 だから私は、恐る恐る上を向いた。


 霊。


 隣の個室の壁に腕を乗せて、女の子が私を見ていた。

 おかっぱで、顔に血が通ってなさそうな女の子。


「見てんじゃねえよ、変態」

「――!」


 そう吐き捨てて、壁を拳で殴った。すると女の子は、顔を真っ赤にして頭を引っ込めた。そして、今度は壁をすり抜けて、私の目の前に現れた。噂通り、おかっぱで、赤い服をきた、小学生ぐらいの女の子。

 目元は陰で隠れ、表情はよくわからない。


「おいおかっぱ、あんた花子さんなの?」


 女の子はこくこくと頷いた。


「あのさ、人がトイレしてるところ覗いて恥ずかしくないの? 変態」


 花子さんは顔をばっと上げた。目は潤み、頬は赤らんでいる。

 ちょっと言い過ぎたかな……。どうみても私より年下だし……。

 いやまて、小学生の見た目とは言えど、私より生きてる時間は長いんだ。

 人がトイレしてる時に、幽霊に見られて、しかもその幽霊が花子さんってどういう状況なのこれ。

 花子さんは、髪を手で整えると、上目遣いで私を見て、蚊の鳴く声で呟いた。



「わたし、あなたに惚れました。付き合ってくれませんか」


 訂正。

 人がトイレしている時に、幽霊に見られて、それがしかも花子さんで、その花子さんに告白されたってどういう状況なのこれ。

 花子さんは、「ああやだ、言っちゃった」みたいに恥ずかしがって、スカートを揺らしている。


「あの、私のどういうところに惚れたわけ?」

「見た目と……」

「見た目と?」


「おしっこする姿に――」


 人生初の告白が、幽霊で、花子さんで、トイレで、惚れた理由が見た目とおしっこする姿って……。そんなのないよ……。


「無理。変態とは付き合えない」

「そんな……」


 花子さんの顔に絶望が浮かぶ。

 そして、わんわんと声を上げて泣き始めた。あーもうめんどくさい。

 私は、拭きたい。パンツを履きたい。外に出たい。なのに、泣くなんて。邪魔だ。


「付き合うのは無理だけど、毎日ここに来るから、そこのいてくれ。私は外に出たいんだ」


 仕方なしにそういうと、花子さんは涙を拭いて、にっこりわらうと、すーっとどこかに消えていった。 



「マツリ、おそい!」


 トイレから出ると、ユウハが頬を膨らませて待っていた。


「ごめん、ちょっとトラブってた」

「トラブってたならしょうがない……」


 トイレの前においていたカバンを持って、ユウハと手をつなぎ、階段を降りた。

 校舎から出る時、涼しげな鈴の音が耳を霞めた。


 翌日の放課後、トイレに行くと、先客がいたらしく、個室のドアが閉まっていて、床に寝そべっていて必死に中を覗く花子さんの姿を見た。

 やっぱりこの花子さん変態だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ