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百合、微かに揺れて  作者: ぺりぺり
4/7

昔話:事故りかけた。

今回は普通な感じで書きました。長めです。

ある日のこと。ある日のことと言ったらある日のことなのだ。だって正確な日にちとかかなちゃんの誕生日以外気にしたことないもん。せいぜい受験日くらいだ。

そんなんだから夏休み最終日を把握してなくて、かなちゃんに「明日で終わりかぁ」って言われたときに、「………………?」とか反応して、呆れられてしまうのだ。今まで続いていた楽しい日々の終わりを覚えて何が良いと言うのか。あと課題やってなかったこともついでに呆れられた。

まあ私のお粗末な記憶力とかはさておいて。

かなちゃんと学校から帰っている途中、寄り道をしていたからいつもと違う道を通ったら、子供の頃のある出来事を思い出した。

確か、毎年開催される近所の春祭りに参加しようということで、早く行こうとかなちゃんを急かして走っていたのだ。

「ねえかなちゃん、昔さ、私がこのへんで事故りかけたこと覚えてる?」

「……………………むぐぅ」

「いやなんでかなちゃんが苦い顔してるのさ」

「いや、だって、……ほら……怒鳴っちゃったし」

顔真っ赤。別に悪いことしてないのに。むしろ良いこと。

かなちゃんはこういうことに弱い。自分の昔の恥ずかしいこととか掘り返されると、なんというか、しなしなになる。

「まぁでも、覚えてるもんだねぇ」

「忘れてもいいのに」

「よくないよくなーい」

一生忘れないと誓ったから。

少し思い返そう。あのとき私は、初めてかなちゃんに怒られたのだった。


走る。走る。走る。

「かなちゃーん! はやくー!」

「まっ、まってっ……へはっ、めぐちゃん……」

かなちゃんは遅い。わたしが走るとすぐに遠くにいっちゃう。いや、遠くにいってるのはわたしか。

「お祭りおわっちゃうよー!」

「まって、よー」

一生懸命走ってるけど、あんまり速くない。いつもわたしが先を走る。つまりわたしは1等賞。なんばーわん。イエーイ!

「イエーイ!」

相手はかなちゃんだけだけど。

さっきまで米粒くらいの大きさだったかなちゃんが、ひーひー言いながらわたしに追いついていつもの大きさになった。

「それでもわたしのほうが背は高いのだった」

「え、は、んっく、はぁ、なにが?」

「にゃんでもなーい」

今度は走らず歩く。別にお祭りはまだ始まったばかりなのだ。急ぐ必要はない。

「ねえめぐちゃん」

「なーにー?」

後ろを歩くかなちゃんが声をかけてくる。

「危ないから、走っちゃダメだよ?」

「……お母さんみたいなことゆー」

つまりかなちゃんはわたしのお母さん! そんなわけないけど。でも似てる気がする。わたしのお母さんもあんまり走らないし、走っても遅いし。そういう人がお母さんになるのかな? じゃあわたしはお母さんになれない? だから友達とおままごとをやるときいっつもお父さん役なのかな。

「んーむ」

「どうしたの?」

「なんでもなーい!」

頭の中がごちゃごちゃしてきたから、いろんなものを振りきるように走り出す。すぐ横を家の塀がギャルギャル後ろへ流れていく。

「危ないってばー!」

「だいじょーぶー!」

風を切る気持ちよさが、わたしに速さを促す。

曲がり角。曲がってもうちょっと走れば屋台が見えてくるはず。

曲がる。速度を押さえきれずに外側に少し膨らむ。

瞬間。

車が。

迫る。

運転席には近所のおじさん。

避ける、無理。

跳ぶ、無理。

止める、無理。

はねられ、

「…………っく、ぅいぃ……れ、?」

止まっていた。

運転手が気付いてブレーキをはやく踏んでいたみたいだ。

運転席を見ていたら、ほっとした顔つきだった運転手の顔がクワッとなって、扉を開けて降りてきた。

やばい、怒られる、と身を固くしたそのとき。

「めぐちゃん!!」

後ろから大きな声。その声に運転手も身を震わせる。

振り返れば、かなちゃんが膝に手をついて息切れしていた。

わたしと運転手でどうしていいか分からないまま見ていたら、息を整えてから小走りに駆けてきた。

そして。

「バカっ!」

バシン、と頭をはたかれた。でもかなちゃんがそんなことをするのを初めて見たから、はたかれた痛みよりかなちゃんへの驚きのほうが勝っていた。

「危ないって、言ったじゃん!」

「だ、あ、ごめんなさい……」

謝ってしまった。

「走らないでって! 危ないって! 待って、って! だから! だから、っく、だからぁ……ううぅ……」

ひっく、ひっく、と。

「え、あ、なんで、かなちゃん、泣くの?」

泣くのはわたしの方じゃないのか。だって、車に轢かれそうになって、はたかれて、怒られて、でも泣いてるのはかなちゃんだ。

「なんで、ん、走るのぉ、やめないんだよおぅ……」

泣きじゃくって、わたしの首のしたらへんにおでこをぐりぐり押し付ける。

「死んじゃったら、あえなくなっちゃうんだよぉ……」

「……ごめん」

そっか。そうだよね。死んじゃったら、会えないし、しゃべれないし、遊べないし、いろんなことができなくなる。

かなちゃん、わたしと会えないと悲しいんだ。

「ごめん」

もういちど謝った。

そして、かなちゃんの頭を抱き締めた。

自分のことを馬鹿だと思った。

二度とこんなことはしないと、固く誓った。

かなちゃんを泣かせないように生きよう。だって、かなちゃんに泣いてほしくないから。悲しい思いをさせたくないから。

大切な人を、泣かせたくないから。

かなちゃんが落ち着いてから、運転席のおじさんに謝った。なぜかかなちゃんも謝ってたけど、まあそれは流れだ。

さっき怒られてたからかもしれないけど、「もうしないように」ってだけで、あまりきつくは言われなかった。

かなちゃんと手を繋いで、お祭りの屋台へ向かう。

「ねえかなちゃん」

「?」

言わなくちゃと思った。

「ありがとう」

かなちゃんは「なんで?」って顔をしたけど、そのあとすぐに笑顔を見せてくれた。

失いたくないという思いを、今初めて間近で見た。少なくとも自分のことでは二度と泣かせるか、と今日2つ目の誓いを立てた。

そして、この日のことは一生忘れないと、そんな予感が浮かんだ。


「めぐちゃーん」

「やめてくれ……」

俯いて耳まで真っ赤にしてる。

こんなかなちゃんも久しぶりなので、十分堪能せねば。

「まってよーめぐちゃーん」

「殺す気かぁー……」

「そういえばいつから今の呼び方になったっけ」

「え、あー……中学校上がってからかな……まわりの友達がみんな恵って呼び始めたから、流れで」

「そうだっけ」

うーむ。

「めぐちゃんって呼んでみて」

「え、えぇー」

「うわあひどい」

まあいっか。で、気になることがもうひとつ。

「おっきくなったよねぇ」

「なにその親戚のおばさんみたいな」

あのころは私の方が大きかったのに、いつのまにか抜かされていた。

「時の流れを感じますなー」

「……それは年寄りっぽい」

時は流れて、私たちは成長して、周りも変わっていく。

それは良いことも悪いこともあるけど、どう足掻いたって変わってしまった事実は不変だ。

でもそれは過去の中での話だから変えられないわけで。

今から、近い未来、遠い未来、いずれ、変わったものだってさらに変わっていく。

いろんなものを重ねて、重ね続けて、見えるのは一番新しく重ねたもの、表面だけ。

重ね続けた結果、肌触りが良くって、けれど心をくすぐるような、そんな表面が出来上がる。

終わり良ければ全て良しの精神で。

「めぐちゃん」

「…………おぉ」

今また重なり、変わった。

そんな小さな変化を、明日には恵に戻ってるんだろうなーと、かなちゃんのゆで上がった顔を見ながら思う。

じゃあまた、明日もがんばっていこーか。

友達と共通のお題を出して小説を書くっていうのに参加したはいいのですが、この話を書いてる間に2、3個お題がでてました。どうやら友達の中では一日一個作るっていう考えだったらしいです。俺だけ分かってなかったです。ちょっと悲しいです。

まあでも楽しいのでいいです。

ちなみに今回のお題は「車」です。

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