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娼婦と魔術師 〜「娼婦に堕ちた娘は帰ってくるな」家族から絶縁された元娼婦は魔術師に弟子入りして一人立ちを目指します〜  作者: つーかたかさん


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9話 友達の依頼

よろしくお願いします。

ルシアとシャレルドが暮らし始めて、半年ほど経った頃。


屋敷の玄関扉に刻まれた魔方陣が眩い光を放った。

同時に、ピピピと音が鳴り響く。


「げっ、この音はアイツか。また厄介事だな」


シャレルドが忌々しげに呟いた。

シャレルドとルシアは、食堂にいて、朝食を食べ終え、くつろいでいた時だった。


シャレルドが屋敷の玄関扉に向かった。ルシアも付いていく。


シャレルドが扉に近づいた。

すると、扉の魔方陣から光が放たれ、玄関ホールに王宮の使者の姿が立体的に浮かび上がった。

青年文官の姿だった。


『シャレルド様、お久しぶりでございます。

皇太子殿下より緊急の要請です。

隣国との国境の近く、魔力溜まりに異常反応がありました。結界に歪みが生じています。

どうか、お力をお貸しください』


「……面倒だな。アイツはいつも俺を酷使する。

貸しだからな。利息つけて返せと伝えとけ」


大きなため息をつきながらも、シャレルドはルシアを振り返った。


その表情は、仕事に出かける魔術師の顔に変わっていた。

すべき仕事の段取りを頭のなかで羅列して計算する魔術師の顔に。



シャレルドは、ただの引きこもり魔術師ではなかった。

皇太子の友人であり、『王宮魔術師』の資格を持つ、一流の魔術師だった。

国家規模の重大な案件や、難度の高い魔術要請があれば、こうして王宮からの指名依頼を受ける。



「やるべきことは頭のなかに出来た。

仕方が方ない。ルシア、俺は留守にする。

その間、絶対にこの屋敷から出るな。

この家には、俺が張った防護結界がある。悪意のある人間や不浄なものは、入れない」


「はい、存じております」


「……結界……それだけでは不安だな。

念のため、お前に害をなそうとする者が近づいたら、ソイツが即座に爆発する防衛魔術をお前にかけておく。半径3メートル、いや、5メートルくらいが妥当か」


「……はっ? それは、いくら何でも過剰すぎます。なに言ってるんですか。シャレルド様、変になってますよ?」


「変でも過剰ではない。極めて妥当だ」


2人のやり取りを聞いていた王宮の使者は、物凄く驚いた顔をしてシャレルドとルシアを交互に見つめていた。


「あのう、コケるくらいで、お願いします」

シャレルドの暴走を早歩き程度にしようとするルシア。


「ダメだ。息の根を止めなくては安心できん」


シャレルドが指先をルシアにかざすと、次の瞬間、ルシアは銀色の光の幕のなかにいた。

シャレルドの魔術の光がルシアの身体にゆっくりと入り、光が消える。

その光が消えると、次は屋敷だ。


屋敷を包む結界が眩く光った。

シャレルドの指先から銀色の魔力の糸が出現した。

不思議な模様や古語を交えて、シャレルドが魔方陣を完成させた。


それはシャレルドの指から離れ、浮かんで大きくなり、屋根を突き抜けて屋敷を覆った。

シャレルドが舞うように魔力を帯びた手を大きく振り、さらに魔術を繰り出した。

シャレルドの魔力が屋敷中に染み渡る。

その姿は、息を呑むほどに格好良かった。


「完成した。屋敷はどんな攻撃も跳ね返す。安心して過ごせ」


無表情で振り向いてルシアに言うシャレルド。


「えっと、お留守はどのくらいの間でしょう?

お食事はどうするんですか? 私、やっぱり外に出たら駄目ですか?買い出しは?」

ルシアが尋ねると、シャレルドは断固とした口調で言った。


「仕事は数日で済ませる。3日後に帰る。夕食を作っておけ」


『えっ!? 最低でも一週間、いえ10日はかかる大仕事のはずですが!?』

王宮の使者が思わず素の声を上げて驚くが、シャレルドは意に介さない。


「超特急で完成させる。三日だ。……ルシアは安全にしておいたが、なるべく外に出るな。

保冷庫に食材はある。

ルシアに悪意のあるやつが近づいたら、そいつは爆発するが、ルシアは安全だ。安心して良い」


それだけをルシアに言い残すと、シャレルドは虚空に別の魔術陣を出現させ、その光の中に姿を消した。シャレルドの姿が消えて、魔方陣の光も消えた。


あとに残された魔方陣の光で扉の前に浮かび上がる王宮の使者が、ルシアを不思議そうに、どこか哀れむように見つめている。


『……ルシア嬢とお呼びすればよろしいでしょうか。

街の市民の安全のためにも、どうか屋敷で大人しく過ごしてやってください』


「……あ、はい。そうします」


『失礼いたします』

使者の姿が消え、魔方陣の光が収まる。



静まり返った屋敷で、ルシアはぽつりと言葉を漏らした。


「シャレルド様って、本当は物凄く偉い人なのね……。でも、人を爆発させるって、危険すぎでしょ。何てことするのよ」


一人で呟きながら、ルシアの胸の奥で疑問がぐるぐると渦巻く。


(もしかして、私、シャレルド様から大切にされてる……? いや、それとも、便利な同居人がいなくなると困るから、過保護なだけ……?

それにしたって、感覚がおかしすぎるわ。

シャレルド様を殺人犯にしないために、シャレルド様が帰るまで、誰にも会っちゃダメだわ、私)


ルシアにはシャレルドの真意はさっぱり分からなかった。




◇◇


そして、きっちり三日後の夜。

魔方陣から現れて帰宅したシャレルドは、誰の目から見ても分かりやすくボロボロにやつれていた。


通常なら一週間以上かかる国家規模の仕事を、不眠不休の超特急で終わらせてきたのだ。


「ルシア……! 何もなかったか!? 酷い目にあわなかったか!」


目の下にはくっきりと隈を作り、不精髭が生え、汗臭く、埃っぽい姿のまま、ルシアの前に突然現れたシャレルド。


一瞬、お化けかと思う程、様変わりしたシャレルドが、驚くルシアを壊れ物のように、しかし強く抱き締めた。


抱き締められ、我に返ったルシアがシャレルドの背を撫でた。

「お、お帰りなさい、シャレルド様。

何もないですよ!

(街の人が)危ないから外には一歩も出ていません!

それより、お食事にしますか?お風呂ですか?それとも眠りますか?」


「寝る。……来い。食事は明日の朝食べる。取っておけ」


シャレルドはルシアの手をがっちりと握ると、そのまま寝室へと連れ込み、ベッドへと倒れ込んだ。


ルシアの身体を腕の中にしっかりと抱き締め、心底幸せそうな、見たこともないほど穏やかな微笑みを浮かべて、シャレルドは一瞬で深い眠りに落ちていく。


規則正しい寝息を立てるシャレルドの変貌ぶりに、ルシアは心臓をバクバクと鳴らしながら、ただただ戸惑うばかりだった。



お読み頂きありがとうございます。


出かける前にシャレルドがかけた、ルシアへの保護?魔法(悪意を持って近づいてきたら、ソイツは爆発する)は、帰宅した翌日、ルシアが厳しく言って、はずさせました。


渋るシャレルドに、

「外に出れません!この危険な魔法を外すまで、ご飯は作りませんから!」

とルシアが言ったら、シャレルドは爆発魔法を渋々外したそうです。

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