6話 これが恋か、わからない
よろしくお願いします。
1度予約投稿(初めて押した)をして、書きたそうと、予約を解除したら、ドサッと投稿を一気にしてしまいました。
この作品は、あきらめます。
1日一話ずつ、投稿するつもりの、予約投稿が。
その夜を境に、二人の関係は変わった。
ルシアはあの夜、自分が錯乱して暴れたことを全く覚えていなかった。
いつも通り、ただシャレルドとの夜を過ごしたのだと、そう思い込んでいた。
翌日、シャレルドはルシアから不自然に目を背けたまま、いつものような上から目線で、けれどどこか焦ったようにこう告げた。
「……気が変わった。最初に会った日の言葉は撤回する。『最低限の連絡事項しか話すな』とか、そういうのはもう止めだ。
普通に会話してかまわない」
「えっ?」
「わかったな。普通に、話せ……。
俺は、怒らない。だから、いつも……普通に、話して良い」
「?? はい。わかりました」
何が何だかわからないままに、ルシアは返事をした。
シャレルドは、さらに言葉を続けた。
「……それから、夜の勤めも、もう俺の部屋に、ノックしに、……来るな」
「えっ?」
「……寝てるところを起こされるのが、迷惑だからだ! わ、わかったな!」
「は、はい!」
シャレルドは、ルシアに対して妙に臆病になっていた。
ルシアはシャレルドが『その気になったら』またお呼びがかかるのだろう、と思っていた。
しかし、一向にシャレルドはルシアを部屋に呼ばなかった。
3晩に一度は必ずあった、夜の仕事である。時には連続の勤めの日すらあったというのに。
何もない日が3週間も続くと、ルシアは次第に強い不安に駆られ始めた。
昼間の家事と、夜の勤め。
それが、この屋敷に置いてもらい、魔術師になるためにルシアがシャレルドに差し出せる「支払い」だ。
なのに今、ルシアはそれを払っていない。
(もしかしたら、シャレルド様は私に飽きて、興味を失くしてしまったのかしら?
もうお払い箱なのかしら?
そうなったら、住む所がなくなって、また娼婦に逆戻りだわ⋯⋯)
そう思うと居ても立ってもいられなくなり、ルシアは廊下を歩くシャレルドを呼び止めた。
「あの……最近、その、夜のお呼びがかかりませんけれど……私、何かお気に召さないことをしたのでしょうか?
私に、あ、飽きてしまわれたのでしょうか?
私、お役御免でしょうか?⋯⋯お払い箱ですか?」
不安げに、潤んだ若葉色の瞳を揺らしながら、恐る恐るシャレルドを見上げて問いかけるルシア。
はしたない事を自ら口にする事を恥じらって、ルシアは白い頬をほんのりと赤く染めていた。
あまりにも無自覚な誘惑の言葉を、可愛らしく、いじらしく紡ぐルシア。
相対したシャレルドは、一瞬で耳まで真っ赤に染め、完全に挙動不審になった。
既にルシアの柔らかな身体の心地よさと、ルシアのもたらす快感と充足感を知っているシャレルド。
傷つけることを恐れて、飢餓状態を我慢する日々だったシャレルド。
その目の前に、大好物が「もう食べなくていいの?もういらなくなっちゃったの?」と聞いてくる愛らしさの破壊力はシャレルドの理性をぶっ飛ばした。
あっさりと完敗したシャレルド。
「ル、ルシアが良いなら……してもいい。 ……いや、し、したい。
うん、今夜……部屋に、来い。
⋯⋯じゃ、なくて、来て、ほしい。
ま、待ってる」
真っ赤になって必死に言い直す、挙動不審のシャレルド。
赤くなって無意識に色気を醸し出すシャレルドの姿に、ルシアもつられて、一気に顔が赤くなった。
「よ、夜、お伺いします⋯⋯!」
ルシアは勢いよく頭を下げて、それだけ言い、逃げるようにその場を去った。
残されたシャレルドは、その場に頭を抱えて崩れ落ちた。
「可愛い⋯⋯。なんだよ、あの顔、可愛すぎるだろ⋯⋯!
クソっ。
我慢、出来なかった。負けた。自分の性欲に。……俺のアホ!!」
一旦は自分の不甲斐なさに落ち込んだシャレルド。
しかし、夜が近づくにつれて、シャレルドは無意識にその時間を楽しみにしている自分に気付いた。どうしようもなく、上機嫌となっていた。
ルシアが来る頃には、シャレルドは部屋に飾られた花をチェックし、ベッドを綺麗に整えていた。自分の身だしなみまで気になり、何度も鏡をのぞき込んだ。
ルシアも同様だった。
夕食を食べるシャレルドを盗み見ては、頬を染めた。
気づかぬうちに、無意識にシャレルドとの夜を心待ちにしていた。
夜、シャレルドの部屋をノックする時、ルシアには自分のドキドキする胸の音が、はっきりと聞こえた。
ルシアを出迎えるシャレルドは酷くどもり、ぎこちない手つきで、ルシアをベッドにエスコートした。
まるで令嬢をエスコートするように、丁寧に、大切に。
不器用な2人の、久しぶりの夜がぎこちなく始まった。
シャレルドはルシアを宝物の様に大切に優しく触れた。
けれど、何度も重ねてきた2人の肌はすぐに馴染んでいく。
優しく、時に激しく。
一方は、初めて渇望を覚えるほど欲した相手に触れて、歓喜で満たされていく幸福に震え。
もう一方は、初めて自らその人に触れたいと願う気持ちに戸惑い、震えた。
肌を合わせる相手が、自分に触れて、熱い熱を狂うように満たす様子に、初めて嬉しさを覚えた。
その行為が汚いものでなく、奪われるだけのものでなく、ーお互いを与え合うものであるのだと、初めて知った。
こうして2人はお互いを貪るように求めあい、それでいて相手を恐れるような臆病さも入り交じる、深く熱い熱を交わした。
その夜、2人の交わりが、契約から「ただ1人に向ける恋情」へと変わっていたことを、当事者である2人だけが、まだ知ることはなかった。
それ以降も、ベッドを共にする時、シャレルドはルシアの様子を何度も伺い、怖がらせないよう細心の注意を払った。
ただ――ルシアの過去の象徴である、あの手首の「娼婦の焼き印」には、もう触れることがなかった。
ルシアはシャレルドの、戸惑うほどの変化と温もりに、胸の奥が温かく満たされ、救われるのを感じていた。
まるで本物の恋人のように自分に触れるシャレルド。
(だめよ、勘違いしちゃ。
シャレルド様は優しい方だから、私を憐れんで、同情して、すごく優しくしてくださるようになったのよ。
身の程知らずに勘違いしては、絶対にダメ。
⋯⋯これは魔術師になるための、仮初めの関係なのだから)
お互いに相手への感情が何であるのか、答えを出せないまま。
昼と夜、ルシアとシャレルドは二人の関係が、雰囲気がガラリとかわる事に、気が付きながら気づかないふりをして過ごすようになった。
シャレルドはルシアへの感情を何というのか知らず、荒ぶったり落ち込んだり歓喜したりする、制御出来ない感情を持て余して戸惑っていた。
ルシアは、昼間はシャレルドを男性として考えることを努めてやめた。
「いつか魔術師として一人で生きていけるようにならなくては」と、さらに必死に魔術の勉強に打ち込んだ。
同時に、自分を置いてくれるシャレルドのために、屋敷を少しでも居心地良くしようとさらに健気に働いた。
屋敷の掃除を丁寧にし、窓を開けて心地よい風を通す。
シャレルドの好みを観察し、彼の口に合う食事を工夫して作るようになった。
シャレルドは、薬味の効いた味付けや、柔らかく煮込んだ肉料理が好みらしい。
「おい、ルシア。この肉、柔らかすぎて歯ごたえがないぞ。……食べやすくて食い過ぎるだろ。口の中でとろける。
あと、この上に乗っているハーブの香りが強すぎる。旨すぎで癖になるだろうが。
それのせいでスープの味が薄く感じる。
俺は、このスープを楽しみにしていたのに、台無しだ。旨いが」
「あら、そうですか?
それ、昨日『最近ちょっと胃が重い』っておっしゃっていたからです。お肉は消化に良いように長めに煮込んで、薬効のあるハーブを添えたんですよ?
スープも薄く感じるのは、スパイスを押さえていつもより優しい味にしたからです」
「……チッ。少しは役に立つ。いや、その、多いに……お前は、……ルシアは、役に立っている」
褒めているのかわからない言葉をブツブツと言いつつも、シャレルドの食事をする手は止まらない。
結局、いつも全て綺麗に完食するのだ。
食後にルシアが焼いたお菓子を差し出した時も同様だった。
「甘すぎる。脳が溶けるだろ。これから頭を使う魔術の計算や構築するのに」
「甘過ぎ?そうですか?控えめですよ。
それに、脳を使うときは甘いものが一番ですよ。はい、どうぞ」
「……態度がでかくなったな。
これからも言いたいように言え」
出されたお菓子を全て平らげ、指に残った菓子の屑まで舐めとるシャレルド。
ルシアはそんな彼の子供のような様子を見て、くすくすと声を上げて笑った。
シャレルドは、そのルシアの笑顔に、つられて自分も小さく微笑んだ。
そして、心の奥底に沈み込み、ずっと乾いていたものが、満たされていくのを感じた。
子供の頃に欲しかったものを、今、シャレルドはルシアからもら
っていた。
お読み頂きありがとうございます。
ルシアもシャレルドも、これまで、恋をしたことがありません。
そのため、自分の今の気持ちが、恋なのか、わかりかねています。
恋して、恋したと気づいて、告白して、オッケーもらって、付き合って、結婚して、身体を重ねるという順番が2人にはありませんでした。
しかも、ルシアは不特定多数と性関係を結ばされて来た女性です。
あった日に、娼婦だからと簡単に身体を重ね、それを続けてから、ゆっくり恋に落ちたシャレルドは、恋愛羅針盤が狂い、今、遭難状態です。
ルシアも同様です。
この物語、お気に召しましたら、ブックマークやお星様、お願いします。励みになります。
最後まで書き上げてから、この章を何度と書き直して、長くなりました。分ければ良かったかな。




