番外編 妻の交友に口を出すべからず
よろしくお願いします。
お茶会をきっかけに、フロランシアとルシアは意気投合した。
ルシアはシャレルドに頼み、魔法伯爵邸の結界をフリーパスで通り抜けられる腕輪を作ってもらった。
かつて、シャレルドが皇太子イシュトルの避難用に贈ったものと全く同じ仕様の魔導具だ。
それを、ルシアはフロランシアに贈ったのだった。
♢♢
「ルシア。フロランシア様と懇意になったのは喜ばしいことだが……」
ある夜、シャレルドはあからさまに不満げな顔でルシアに告げた。
「フロランシア様と仲良くなってから、俺とお前の時間が削られている気がする。
頻繁にお茶会をするのは控えてくれないか」
「まあ、シャレルド様。
私、フロランシア様とお会いしてお話しするのが、とても楽しみなんですの。
でも、少し頻度を減らしますわね。
シャレルド様も、王宮魔術師様達と交友を深める時間を持ってはいかがですか?
同性と話す時間も良いものだと思います」
ルシアには、夫の独占欲はあまり伝わっていない様子だった。
♢♢
そしてある日のこと。
「今日はフロランシア様が遊びに来てくださるの!待ち遠しいわ」
朝からルシアは上機嫌で、手作りのお菓子を何種類も焼き上げ、今か今かとその時を待っていた。
しかし、約束の時間を過ぎても、転移魔術で現れるはずのフロランシアが一向に姿を見せない。
「おかしいわ。何か急用でもできたのかしら……。連絡もないなんて」
そわそわと待つルシアの傍らで、シャレルドはフンと鼻を鳴らし、何食わぬ顔で読書を続けていた。
ルシアの言葉に何も返さず、その指先が、妙に規則正しく本をめくっている。
「シャレルド様、念のため王宮に連絡をお願いできませんか?」
「……必要ない。王族なのだから、直前で予定が変わることなど日常茶飯事だろう。きっと忘れているだけだ」
取り合おうとしない夫の態度に、違和感を、感じる。
──怪しい。
ルシアは読書中の夫の前に立ち、その顔をじっと見据えてきつく問い詰めた。
「シャレルド様、何かしてませんか?
本当の事を言って下さい。
私に嘘は言わないで下さい」
ルシアの言葉に観念したシャレルドの口から白状されたのは、子供がするようなバカらしい嫌がらせだった。
ルシアがフロランシアにばかりかまうので、嫉妬したシャレルドは密かに空間魔術に干渉し、フロランシアの転移魔術を『強制弾き返し』で妨害したのだ。
♢♢
その頃、王宮で。
「転移できない……。ルシア様が待っていてくださるのに。
こんな邪魔をするのは、出来るのは、あの男ね。馬鹿な男。
ルシア様にバレて拗ねられて、困るのは自分だというのに。
仕方がないわ。転移できないことをお伝えして、お茶会は後日といたしましょう」
フロランシアは使者に手紙を持たせ、シャレルドの屋敷へ向かわせた。
♢♢
同じ頃、シャレルドの屋敷では。
「シャレルド様、ひどすぎます!」
シャレルドのした嫌がらせを聞いたルシアが、キレた。
「フロランシア様に、なんて意地悪を!──もう、シャレルド様のことなんて知りません!!」
フロランシアに嫌われるのではないかと、泣いて自室へと駆け出し、部屋に閉じ籠ったルシア。
「氷の魔術師」と畏怖された天才魔術師は、この日、愛する妻から本気の、かつてない怒りをぶつけられ、涙を溜めて妻の部屋の前で謝罪を繰り返したという。
♢♢
それからの数日間、シャレルドが何を話しかけてもルシアはぷいと横を向いてしまう。
完全な冷戦状態に陥り、生きた心地のしない日々を過ごしたシャレルド。
プライドを捨てて毎日平謝りに平謝りを重ね、『もう絶対にフロランシア様との交友を邪魔しない』と約束して、ようやくルシアから許しを得た。
♢♢
王宮でも頭を抱えている男がいた。
「フロランシアが、ルシア夫人に会いにシャレルドの屋敷に行ってばかりで、俺を相手にしてくれないんだが……。
やっと時間をつくっても、フロランシアが、いない」
執務室で、不満げに溢すイシュトル皇太子。
「……殿下。贅沢を言わないで、そのままにしておきなさい。
邪魔をしてはなりません。
私は危うく、妻に一生口を利いてもらえなくなるところだったのですから。
妻の友人との付き合いに、夫は口出ししてはならないのです」
こうして、国中の人々から尊敬を集める二人の男は、自分の『妻(婚約者)が友人と仲が良すぎる問題』について、深い溜息混じりの愚痴をこぼし合うのだった。
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