1話 堕ちた娘
よろしくお願いします。
題名で察せられるように、性に関わる物語となります。
嫌悪感を持たれるかも知れません。
性に関する物語に嫌悪感のある方は、読むのをお控えください。
街の食堂の看板娘、ルシアは美しい娘だった。
客商売に慣れていて、いつも愛想の良い笑顔を浮かべている。
けれど、ルシアの胸の奥には、冷たい泥のような諦めが澱んでいた。
かつては、ただの素朴な村娘だった。
田舎には珍しく白い肌に、ミルクティー色の髪は緩く波打ち、整った顔立ちをしていた。
瞳は珍しい若葉色。
祖父の母親が、かつて避避地にある貴族の屋敷に働きに出た。そこで身ごもって村に帰ったという。
ルシアの美貌は、その貴族の血筋が表れたのだろうと噂されていた。
村一番の美しい娘、ルシア。
村長の息子との婚約が決まり、ルシアはささやかな幸せを疑わなかった。
家族もみんな、ルシアの婚約を我がことのように喜んでいた。
しかし、一番の親友だったサリーに騙されて連れ出され、人さらいに売り飛ばされた。
その日から、すべてが暗転した。
「イチゴがたくさん生っている場所を見つけたの。一緒に取りに行きましょう? ジャムも作れるわ。家族には内緒よ、びっくりさせましょう?」
そう囁いたサリーの言葉を信じて共に行った先には、薄汚いゴロツキ達が待っていた。
ルシアは猿ぐつわを噛まされ、そのまま連れ去られた。
それから、人買いに売られ、行き着いたのは地方都市の高級娼館だった。
地方領主、地方の高官、地方の豪農、裕福な商人――それが客層だった。
ルシアは「娼婦の焼き印」を手首に押された。
ジュウジュウと焼けたコテを、男たちに身体を押さえつけられて、手首に刻印された。
その熱さ、痛みにルシアは悶絶し、気絶した。高熱を出した。
熱が下がって、包帯が取れた自分の手首に、堕ちた女の烙印があるのを目にしたルシアは絶望した。
それでも、最初は逃げ出そうとした。
けれど、すぐに捕らえられて凄惨な折檻を受けてからは、心を殺して従順に客を取るようになった。
見映えが良いルシアをさらに高く売ろうと、娼館はルシアにマナーや教養、学問を徹底的に仕込んだ。
『没落貴族の令嬢』として箔を着け、より高値で客に宛がうために。
数年間の娼婦の生活。
そんなルシアの娼婦生活は、ある日突然、終わりを迎えた。
どこかの貴族の娘がお忍びで出掛けた先で誘拐された。貴族の命令で憲兵たちがあちこちの街の娼館を徹底的に調べ上げたのだ。
そのガサ入れの最中、ルシアの容姿がその貴族の娘に似ていたため、事細かに素性を調べられた。ルシアの家族が当時『行方不明』として捜索届を出していた記録も見つかった。
娼館側も、既にルシアで十分に元を取り、しっかり儲けていた。
ここで憲兵に睨まれるよりは、「人身売買に加担していない。被害者救出に協力的」との形を見せる方を選び、ルシアを解放した。
ルシアの胸に、消えかけていた希望が小さな灯火となって宿った。
(お父さん、お母さんが私を探してくれていたんだ。心配してくれていた。
やっと、やっと村に帰れる。みんなに会いたい……!)
震える手で、ルシアは憲兵に家族への手紙を託した。
しかし、憲兵から手渡された故郷の家族からの返信には、想像を絶する冷酷な言葉が綴られていた。
『村長の息子はとっくに別の娘と結婚して子供もいる。
娼婦に堕ちた娘の帰宅など、家族の誰も望まない。
家族のために、二度と戻ってくるな。
お前が戻ってきたら、やっとまとまりかけた弟と妹達の結婚話がなくなってしまう。
お前が居なくなったせいで、村長からは「ルシアが婚約から逃げた」と思われ、私達は村での信用をすべて失くした。
村長の息子からも冷遇され、無視されて辛い日々だったんだ。
これ以上私達を苦しめないでくれ。私たちの中では、お前はもう死んでいるんだ』
手紙に溢れていたのは、被害者であるはずのルシアへの恨み言と、酷い拒絶だった。
膨らんでいた希望は、一瞬にして絶望へと叩き落とされた。
故郷を失い、帰る場所を失った。
(そんな、どうして?私は、どこへ行けばいいの……?)
絶望したルシアを、憲兵は「期限だ。置いてやった事に感謝しろ」と一時保護の宿舎から追い出した。
お読み頂きありがとうございます。
16話で完結します。




