本当は商会長なのに、ただの商会員の振りして営業に行っていたんだよ
名前借りました
バーミーズの両親の惚気話です
フィクションです
私は、バリニーズ・ガット
伯爵家の嫡男。
まだ独身で、父である伯爵の手伝いをしている。
幼馴染の、隣の領のマチカ侯爵の子息と、それぞれ商会を立ち上げて、協力して売り込んでいる。
何故、それぞれ商会を立ち上げたかって?
売り上げを、そのまま自分の領地の収入にするからだ。
そして、お互いに商会長ではあるが、ただの商会員の振りして営業に行っていた。
何故か。
「帰って商会長から怒られます〜」
と、無茶苦茶な注文をする客を躱す為だ。
父の社交について行った時に、一筋縄ではいかない貴族達を相手にするには、何か対策が必要だと思ったからだ。
普段は、ただの商会員が商談をして、ここぞという時に、商会長が出る…
商会長がわざわざ相手するから、相手を重要視している、と示す事ができる…
まぁ、同一人物なのだが。
それから、ただの商会員だと、見下して横柄な態度をしてくる貴族もいる。
そういう相手とは、関わらない。良い判別方法になっていた。
ガット伯爵家の商会では、陶磁器のティーセット類。
マチカ侯爵家の商会では、紅茶葉を扱っている。
茶葉を紹介し、この茶器はどうですか、と勧める。
素敵な茶器をお持ちですね。それにあうこんな茶葉もありますよ、と勧める。
試したところ、相乗効果があったのだ。
ある貴族家に、売り込みに行った。
夫人は乗り気だが、令嬢は乗り気じゃないようだ。
胡散臭い目でこちらを見ている。
仕方ない。新興の商会なので、信用が無いのだから。
「何か問題でも?」
私は令嬢に聞いてみた。
「うちは、裕福ではないので、紅茶はお客様が来た時にしか飲みません。こんなに大きな入れ物だったら、中々減らなくて、茶葉が劣化しちゃいます。高いティーセットなんて、落として割りそうで触るの怖いし…」
令嬢の言葉に
「確かに…そうですね。では、小さい入れ物なら、考えていただけますか?」
私は言った。
ただの商会員だから、と、見下したり、横柄な態度にならない。ありがたい。
「ま、まぁ…」
気不味そうに言う令嬢。
買う気が無いんだな。
裕福じゃないと言うから、仕方ないけど。
「他に、何か不都合があれば、何でも言ってください。改善します」
「あ…考えときます」
社交辞令だろうけど、本気にした振りしてまた来よう。
何故なら、令嬢が可愛いからだ。また会いたい。
「ありがとうございます!」
私は、笑顔で令嬢に言った。
社交辞令だよ!って顔をしている令嬢。可愛らしい。
※※※
「お嬢様!ありがとうございました!」
商会の男は、私コラット・バーミラの顔を見るなり言った。
新興の商会なので、詐欺を疑っていた。
母はおっとりしているから、よく詐欺に引っかかりそうになり、私や父が食い止めている。
「な…何ですか!?」
私は驚いた。突然何なの?
「お嬢様の言葉通り、小さい入れ物に茶葉を入れるようにしました。そうしたら、売り上げが上がりました!お嬢様のお陰です!ありがとうございます!」
男…バーミーズ・ガットと名乗った…はお辞儀した。
え?そうなの!?買いたくなくて言っただけなのに…!?
「そ…そうですか…」
私は戸惑っていた。
「それから、高そうに見えるけど本当は安いティーセットも作っているところです」
「え…?」
買いたくなくて言っただけなのに!?
わざわざ作っちゃったの?
「他に何かご意見があれば、と、お聞きしたくて参りました!」
「あ…」
そういえば、前にそんな事を言っていた気がする。忘れてたけど。
本当に聞きに来るとは思わなかった。
「考えときます」
その場しのぎで、そう言っておいた。
…まさか…また来るとか無いよね…?
え?これフラグ?
「ありがとうございます!これはお礼です!」
男が言いながら、差し出したのは、小さい入れ物の茶葉。
「え?でも…」
お礼が欲しくて言ったわけじゃないのに…
買いたくなくて言っただけなのに…
「中身は、そんなに高くない茶葉なので、気にしないでください!それでは、今日はこれで!」
「え!?」
何か売り付けられるのかと思ったのに…
さっさと帰っていく後ろ姿を見ながら、次にいつ来ても良いように、何か考えておこうと決意した。
その後、その男が商会長だと知ったし、更にその後、結婚するとは思いもしなかった。
※※※
「ってな事があってね」
娘の将来の夫ラグドール様に、妻との出会いを話したのだった。
「本当に、可愛らしくて、聡明で、何度も会いたかったから、あれこれ理由をつけて会いに行ったんだ」
「無理矢理買わされると思っていたのに、改善して見せにくるから…どうしようかと思ったわ」
妻が、社交辞令だよ!と表情で言った時と同じ顔をした。
妻は、今でも可愛らしい。
「買う気が無いから気不味そうにしていて、とても可愛らしかったんだ」
「なるほど…惚気ですね」
私が言うと、ラグドール様が、真顔で言った。
「惚気に決まってるだろう」
私は、ニヤリと笑ったのだった。
ラグドール様は、どうやら娘を好いているようだ。
こちらに来たばかりの時は、娘とは距離を取ろうとしていたのに…
私と妻が、親戚のおじさんとおばさんだよ、と言ってから、私達には少しずつ心を開いてくれていた。
娘と一緒に、猫の模写をするようになってから、娘を見る目が優しくなった。
それから、段々と、愛おしい者を見る目になっていった。
娘が、公爵子息を匿ってほしいと言い出した時は、どうなる事かと思ったが、ラグドール様は、真面目で、勉強熱心で、領地経営を学んだり、剣術の稽古をしたり、絵を描いたり、商売のアイデアを出したり、と一生懸命だった。
王女様から婚約破棄されて、王都を追放されたラグドール様。
こんな、王都から離れた田舎でひっそりと暮らすなんて、嫌ではないかと思っていたが、性に合ったようだ。
猫の模写を見た時は、才能を感じた。
娘は、人を見る目がある。
マチカ侯爵の娘バーマンの、刺繍の才能を見抜いたのも娘だ。
匿われている、という後ろめたさを感じない為にも、役に立っているのだと自信を持ってほしい。
そんなラグドール様は、やっと、娘と結婚する気になったらしい。
愛おしそうに娘を見るラグドール様に対して、娘はどう思っているのやら…
今まで、全く男に興味が無かった娘。
猫や、商売の事しか話さなかったのに…
結婚するような年頃になったのだな。
「バーミーズがいなくなるなんて淋しいんだが!?」
ラグドール様が帰った後、私が叫んだら、妻が
「そのうち慣れるわよ」
と冷静に言った。
解せぬ。
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