ギャルかヤンキーか
「まぁ、誤解は解けたから自然とピッチはあがると思うぞ」
「……ったく、何をどう誤解したんだか」
「やっぱりヤンキーって誤解されやすいからやめた方が良いよ」
「は……?」
「……ん?」
「ヤンキーって誰が?」
これは絶対に間違っていないと思いながら俺は無言で山之内を指差した。すると山之内は大いに喚き散らしながらそれを否定したのだった。
「ちょっ……!! ヤンキーじゃないわよ!! そんな事言われたの初めてだし!!」
「金髪で授業サボるってヤンキー以外の何者でもないだろ。ヤンキーじゃなかったら何て言われてるんだよ」
「ギャルよギャル!」
「ギャル……?」
「そうよ! ラコにヤンキーの友達なんか相応しくないでしょーがっ!」
「ギャルの友達も相応しくないと思う」
「ギャルは良いの!」
「だとしてもやっぱりお前はヤンキーだと思う」
「違うってば!!!」
実を言うと正直、ギャルとヤンキーの違いは良く分からない。どっちでもあまり良い印象はないし。
「どっちでも良いや」
俺は面倒臭くなってそう言ったが、断固山之内はそれをうやむやにする事を許さなかった。
「良くない! ちゃんと見て!」
こいつの見た目なんて毛ほども興味ないのに……。
とりあえず派手な金髪……と思ってたけど金髪じゃないのかな。何て言うのか分からんちょっとピンクっぽい、カフェオレみたいな色。毛先に行くにしたがって緩いウエーブがかかっている。で、これまた良く分からんふわふわピンクの髪飾り。
胸元のボタンは二つ外してる様だ。そこにだらしなく、首の後ろでカチリと留めるだけの簡易リボンをぶら下げる様に付けている。何色か選べる筈だがピンクベースのチェックだな。
背は……ラコより低め。スカート短め。髪飾りと同じ色の爪。手首に細い金色の何か。無駄に綺麗な足。
まぁ確かに、俺の中のヤンキーのイメージよりは華やかな感じがするかな。でも、何よりあの目付きがもうヤンキーだろとしか思えないし。
「ヤンキーもそんな感じじゃないか?」
「どこを見たら……!」
みゃーお。
ガサ、と音がして、茂みから真っ黒な子猫がやって来た。山之内を見上げて文字通り猫なで声を出して甘えている。
「あっ、バカ! 出て来ちゃダメだってば! 分かった分かった今あげるから」
山之内はサッと子猫に視線を合わせてそう話し掛けると、ポケットからスティック状の何かを出してそれを与えた。
「お前まさか……」
「な、何よ」
「サボってるんじゃなくて子猫に餌をやりに来てるだけじゃ……」
「仕方ないでしょ! この子、親猫が育児放棄しちゃってるみたいでどんどん痩せてっちゃうんだから! 放っておけないじゃん!」
「昭和のヤンキーか」
「令和のギャル!! もぉ~っ! どうしたらギャルだって認めてくれるのよ……」
俺に認められようとられまいとどっちでも良いだろうに、山之内はどうしてもそれが気に食わないらしい。
「どうしたらって……そうだな、俺の中のギャルは何か変な言葉遣いをする」
「あー、ギャル語? あたしあーゆーの嫌いだし良く知らないよ」
「……」
「……あれ? あれれれ?」
やっぱりギャルじゃないじゃないかと思った俺の目線に気付いた様だ。それにコイツ、自分でもギャルじゃなくてヤンキーなんじゃないかって思い始めてないか?
「~~~分かったわよ! ギャル語を使えば認めるのね?!」
そんな事一言も言ってないけど……。
逆にこの一歩も引かない感じがヤンキーなんだよな。ギャルならとっくにどうでも良くなってそう。偏見だけど。
「了解道新幹線! 今のはギャル語で分かったって意味よ」
「へぇ」
初めて聞いた。こいつオリジナルで適当言ってないか? ただのオヤジギャグじゃん。だいたい一つ言ったくらいでなんでドヤ顔してるんだよ。もう良い。認めてやらないとそっちの方が面倒だ。
「ギャルだったね」
「思ってない!!!」
面倒過ぎるだろ。
「……まぁ良いわよ、とりあえずその件はじっくり認めさせていくわ」
いらん。いらんなぁ。
「じゃ、そういう事で、分かったわね?」
どう言う事だったんだよ。
「分かったらさっさとどっか行って良いわよ」
「今更のこのこ授業戻れるかよ。俺にも猫撫でさせろ」
勝手極まりないコイツの言いなりになんてなってやるもんか。ラコを悲しませないなんてのはコイツに言われるまでもない事だし、俺は猫が好きなんだよ。
「あっ……」
俺が猫に手を伸ばした事に少し意外そうな声を出した山之内だったがそれを咎めはしなかった。
「良かった、合格」
「何が」
「ラコの彼氏になる奴が猫嫌いだったらイヤじゃん」
初めて山之内が笑顔を見せた。ちゃんとラコ以外の人間に対しても友好的な感情は持っているらしい。何だか初めて、コイツの輪郭がくっきり見えた気がする。




