五限目サボってくれない?
「……と、言う事でさ、取り急ぎどこかデートに誘いたいんだよね」
合流した大輔とナポリタンパン(やっぱり言うほど美味くない)を食べながら俺は言った。
「はぁ、お前まだ桐生さんの事諦めてなかったの?」
ナポリタンパンを有難く食べながら大輔が応える。
「諦める必要ないだろ? 他から見てもラコって俺の事好きって思わない?」
「思わないよ、怖がってるじゃん」
「鈍感だな大輔。目がハートマークになってるんだぞ?」
「俺もお前が怖いわ」
何を言ってもとんちんかんな事を返して来る大輔に俺は肩を竦めた。まぁ、男なんてこれくらい鈍感な方が可愛げがあるのかも知れないけどな。俺は鈍感じゃないし絶対両想いなのは間違いじゃない。
「まぁ桐生さんは可愛いし好きになるのも分かるけど、それってアイツにも近付く事になるじゃん」
アイツ、と言うのが誰の事なのかすぐに分かった。
「山之内?」
間違いない筈だが一応疑問形でそう確認すると大輔は深々と頷いた。
「そうだよ。アイツは中学時代から良くない噂が立ってる。なんで真逆の存在である桐生さんと仲が良いのか分からない」
「え、大輔ってラコと同じ中学出身? そう言う事早く教えてくれよ。ラコって昔からアンダーサーブ空振りするの?」
「いや一番気になるとこそこ?」
「そこだろ!!!」
「いや分かんねぇよ。でも良く体育の授業後は鼻の頭に絆創膏付けてたよ」
「盛るな」
「盛れてないだろ」
鼻の頭に絆創膏とか、女子中学生で鼻の頭に絆創膏とか、需要あり過ぎると思うんだが。
「そんな事より山之内だってば」
ラコの可愛いエピソードをそんな事と言われて手が出そうになったが我慢した。悪気はなさそうだったからな。
「援交してるとか、半グレと繋がってるとか、とにかくあんまり深く関わんない方が良いって」
「山之内とは一ミリも関わろうとしてない」
山之内が中学の頃どうだったか、どう思われていたか、驚くほど興味がないな。なんならどんな顔かもぼんやりしている。毎日睨まれているのに。
「それでも桐生さんと一番仲が良い存在なのは山之内だぞ」
「そうだな」
それが? と続きを促すと大輔はやれやれと言った様に溜息を吐いた。
「お前が山之内と関わるつもりはなくても、桐生さんはお前が山之内にどう思われるかとかを気にせざるを得ないだろ」
「何で?」
「友達だからだろ。お前今まで友達居なかったのか? 俺の事なんだと思ってる? 特にな、女子は余計そーゆーところを気にすんだよ」
ふぅん? こいつただのサッカー少年と思わせておいて案外女子の気持ちが分かる奴なのか?
「お前家族構成は?」
「婆ちゃんと、父ちゃん母ちゃん、姉ちゃんが二人、妹が二人だ」
大輔の方も俺が何を確かめたいのか気付いたのだろう。この突然の質問に淀みなく、何ならドヤ顔でこう答えた。
俄然信憑性が増した。少なくとも一人っ子の俺より断然女心を理解してそうだ。
「つまり……俺と山之内が仲良くなれば、ラコもちょっとは安心してくれるかな。今のままじゃ俺の事が好き過ぎて緊張感が致死量なんだよね」
「……お前……話し聞いてるけど聞いてないな」
しっかり必要な情報だけを吸収しているんだ。
そんな噂なんかより、ラコが中学時代からアンダーサーブを空振りし、鼻に絆創膏をしていたのこそが事実なんだから。
そうだ、今度大輔に中学の時の卒業アルバムを持って来てもらおう。重いから嫌がるだろうけどナポリタンパンをやると言えば持って来てくれる筈だ。鼻に絆創膏貼った写真とか載ってたらどうしよう、ナポリタンパンもう一つやれば切り取らせてくれるか。
「なぁ大輔、今度……」
昼飯を済ませ、大輔と二人で教室に戻ろうとしていた時だった。後ろからガッシと肩を掴まれる。一体何だと後ろを振り返れば、そこには明るい金髪。
「撫山、五限目サボってくれない?」
山之内リンネに悪いお誘いを受けてしまった。
断られるなんて微塵も思ってなさそうな自信に満ちた顔で、ピンクの爪を肩に喰い込ませてくる。
昨日までの俺だったらガン無視安定だっただろうが、ついさっき家族に姉妹二人ずつ居ると言う大輔から女の習性みたいなものを学んだばかりだからな。
「良いよ」
「おっ……! お前!」
「あんがと!」
驚く大輔をよそに、山之内は軽く礼を言って颯爽と歩き出した。短いスカートからスラリと伸びた足が、一歩一歩自信に満ちた力強さで前へ進む。コイツの顔はぼんやりしてるが足だけは印象的だ。
「んじゃ行って来るな」
「あんた友達なんだから代返してやってよ! 田中の授業だし余裕っしょ!」
俺が大輔にそう言うと、さっさと歩き出していた山之内は振り返って大声でそう言った。田中とは、定年間近の日本史教師である。こういう事は大きな声で言うものではないと誰にも教わらなかったのかな。
「うえぇ……?」
「しなくて良いぞ! ……どこでサボる?」
困惑する大輔にそう言って、俺は山之内を追い掛けた。
「良いとこ知ってるから付いて来て」
コイツと仲良くなっておくべきかなと思ったタイミングで向こうから来てくれるとは。ここは大人しく従おう。




