表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神未亡人の復讐帳簿ー祈りで人が生き返るなら、私なんていりませんー  作者: 紺桔梗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

第十話:審判の声は高らかに



『私たちの血は高貴なものではありません。でも、関係ないでしょう?

受け継がれ、託されてきた人々の記憶が宿っている事に違いはない。

学べば良い。実践すれば良い。態度で示せば、きっといつか証明できます』



――――――――



セリアンと話をつけてから、四日後。予想通り、使用人の候補が全て挙がったようだ。


15名の簡単なプロフィールを受け取り、目を通していると、書類を手渡してきた男から不躾な視線を感じる。


「あなたがクロティル様ですか。あの、今王都で有名な…」


「ええ。あなたが思っている通りの人物で、間違いはないわ」


淡々とそう返すと、男は眉をひそめて、私の格好を上から下まで観察し始めた。


「断糸の未亡人。公爵家の夫人にもなるお方が、なぜーー」


「こんな侍女みたいな格好をしているかって?これから面接するためよ。

婚約を発表するまで、正体がバレないこと。閣下との大事な約束ですから」


私の言葉に分かったような分からないような顔をして、グッと押し黙った。


彼の言いたいことは分かっている。


貴婦人とはどんな時でも優雅にあるべし。いつでも綺麗に着飾り、富と権力を誇示し続ける存在でなければならない。


それが貴族としての宿命。常識だ。


だが、私に手段を選んでいるような余裕はない。

それに私はもともと、そんなにご大層な身分ではないのだから。


そんな慣習に、好きに囚われてやる必要などない。


まあ逆に、必要な時はいくらでも利用させてもらうが。


「大丈夫ですよ。見ていてくだされば、きっと分かりますから」


真紅から淡い色に変えた口元の紅で弧を作り、貴婦人らしき微笑みを作る。


手元で書類を整理し、トントンと角を揃えた。


「私の価値を証明してご覧にいれましょう」


まだ不満そうな顔をしている男を引き連れて、応接間へと向かった。



――ここもか。


候補達を招き入れるための準備をしている応接間に入ると、一斉に私に視線が集まり、笑い声のようなものが聞こえてきた。


長年女主人がいなかった弊害か、ここアイセントールの臣下たちは次期公爵夫人に対する敬意が足りない。


特に顕著なのが騎士達だった。


歴史ある公爵家に使え、国境を守り、セリアンの指揮の下戦い続けてきた騎士の中の騎士。王国の盾としての誇り。


その自負があるからか、余計に私への風当たりが強い。


「閣下もなんでこんなのを選んだんだ?いくらでも他に選択肢があったのに」


「噂じゃ夫達を四人も食い殺したんだって?ただの平凡な侍女にしか見えないけど」


「そういえば閣下、また指に傷をつくったらしいな」


私の話から、どうでもいい公爵の会話まで。まったく、教育が足りていないんじゃないか。


はあ、と息を吐いて、前を向く。


「お黙りなさい。それと、これからくだらない会話は慎むことね。あなた方の大切な、公爵閣下の評判に、傷がつくわよ」


ピシャリと下して、冷徹な仮面を被った。


「候補者達を入れなさい。今の私は侍女長だってこと、忘れていないわよね?」


堂々と椅子に座り、足を組んで待ち構える。



――演劇の時間の、始まりだ。



「皆さん、こんにちは。この屋敷で侍女長を務めております、クロエです」


ニコリと笑い、一人一人の名前を読み上げる。背後に強烈な騎士たちの非難を感じながら。


「今日ここにいるのは、この方々で間違いありませんね?」


「「はい!」」


「ではまず、そこのあなたから」


「私は北部の子爵領が一つ、グレース領で働いていました」


「グレース子爵のお話は聞いたことがあります。あそこで働いていた友人とは今でも仲が良くて。グレース子爵の立派なヒゲは、まだ健在ですか?」


「はい、毎日手入れに気を使っていらっしゃいます」


なるほど。不採用。


ニコリと微笑んで、次の男性に目を向ける。


「あなたは?」


「私は経験がありませんが、幼い頃公爵様に憧れておりまして。騎士になることは叶わなかったのですが、使用人を募集していると聞いて応募しました」


「前職は何を?」


「レストランで給仕係として働いていました」


忠義に厚いタイプ。背後の権威を利用する気がない純粋さ。

事前情報との整合性もとれている。彼は採用だ。


「そうですか。では、次の方」


それ以上の追求がなかったのを、少し不安そうにしているのも面白い。


「私は王都のレストランでシェフとして働いていました」


「なるほど、正確にはどこで?」


「マニーニです。路地裏にありますが、隠れた名店なんですよ」


「カンティーナ通りの?」


「はい。よくご存知ですね」


ふ、と私は笑う。


「ええ。王都の路地には、詳しいもので。では、次の方…」


次々と人々が経歴を語り、軽く会話を交わしてゆく。


問題は、この次の二人だ。


「あなたは確か、隣国から来たのよね」


「はい。街でバルテル商会の噂を耳にしまして。これから公爵領は伸びるんじゃないかと」


「その情報、誰かに流しましたか?」


「いいえ。流したら、損になりますから」


そうか。まあ、こちらも舐められたものだ。


「次のあなたは、王都からでしたよね。バルテル商会の名に聞き覚えはありますか?」


「はい。王都で働いていた時に、そのお噂はかねがね」


「では、こちらの名前はどうでしょう?サビア伯爵家」


ヒュッと息を呑む音がする。顔色が変わり、ガタガタと震え始めた。

…当たりだな。


「二人とも不合格にします。即刻、出て行ってください」


「どうしてですか!?彼らは身元も保証されていますし、経歴も素晴らしいものです」


「あなたに一体、何の権利があってーー」


「静かに!」


声を上げる騎士達をキッと目でキツく睨み、黙らせる。


「あなた達こそ、何の権利があって反対しているのですか?

この公爵家に堂々と、ネズミを入れろとでも?」


「どういう、ことですか?」


「先日、私は街に出てある噂を広めました。

そう。バルテル商会が来る、という噂です」


重なった書類の中。レチナから送られてきた報告書を指先で叩いた。

下から上にゆっくりと、すうーっと紙の表面を撫でていく。


「この世の中、紙より口で伝わる速度のほうが何倍も速い。

たどった先を追えば、自ずと答えも出てくるものです」


あくまでも、にこやかに。でも少しだけいつもより低い声で。

空気を震わせろ。部屋の中に存在しない風を吹かせて。


「あなた方の雇い主にお伝えください。

バルテル商会は、不確かな方々とは取引できません」


堂々と自信を持って話すことで、説得力は何倍にも膨れ上がる。


「望むモノがあるのであれば、正々堂々商談で迎え討ちます。

私たちはお客様に物を売る、商人なのですから」


カタリ、と誰かが身じろぐ音がする。

触ってもいない紙が揺れてページをめくった。


「そう、バルテル商会が言っていたと。

新提携先であるアイセントール公爵家が証言したことを」


ずりずりと壁まで後ずさって、扉を開けて逃げてゆく。


「飲んでしまった甘い蜜。その責任は、取らなきゃね?」



二人の男たちが出て行った後。私は立ち上がって、一人一人に結果を言い渡す。



「一番目のあなたは不採用で。グレース子爵はヒゲがコンプレックスでして。あそこで働いていた使用人には、きつく口止めされているはずですが」


――元勤め先の機密情報の口外。


「三番目。単純な理由です。王都路地に、カンティーナという名の通りは存在しません。マニーニは確かに隠れた名店ですが、面しているのはカンティルネ通りです」


――経歴の詐称。


「後の方々。もう言わなくても、自分自身がよく分かっていますよね?」


コツリコツリと音を立てて歩く。

騎士たちの瞳が、大きく見開かれているのが分かる。


「私が見ていたのは、主に三つ。分かりやすいように教えて差し上げます」


三人目の後ろに立って、静かに告げる。


「第一段階。

事前に上がっていたプロフィールと口頭の自己紹介。そして、裏で集めた情報と取れない整合性」


次は一人目と二人目の間に立って、ゆっくりと一人目の顔を覗き込んだ。


「第二段階。

勤め先への忠誠心と、唐突な質問への返し方。そして私の言動への反応」


もういない、立ち去った二人がさっきまでいた場所で、歩みを止める。


「第三段階。

バルテル商会の噂――私が用意した甘い蜜の罠に、ハマるかどうか」


その場でくるりと身をひるがえし、皆の顔を見渡す。


青ざめる者。感激したように、目を輝かせる者。反応はさまざまだ。


案の定、騎士たちは呆気に取られて微動だに出来ない。


「では皆様。心当たりのある方々は、どうぞお帰りください。

後の方はここに残って下さいね」


候補者の半数が去り、部屋に騎士たちと六人だけが残った後。

私は背筋を整え、指の爪先までピンとまっすぐに伸ばす。

ふわ、と愛嬌のある笑みを浮かべて、綺麗なカーテシーを披露した。


「皆様、初めまして。

この屋敷の女主人になる、クロティル・ヴィル・アイセントールですわ」


あくまで貴族に見えるように、優雅に。あの人が教えてくれたことを証明するのだ。

私を着飾る宝石など、必要ないと示せるように。



――本物は、行動だけで分からせる。



「これから、よろしくお願いするわね」



もう誰も、反論する人などいなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ