境界線
11月22日。
俺たちは駅から出られなかった。
水時計が時刻を告げる。
午前10時10分。
駅正面口交差点前。
「ここも駄目か……」
キリンは拳を何もない空めがめて投げつけた。しかしそれは、ガツンと硬い音を立てて見えない何かに阻まれてしまう。
駅の敷地全体を包むように、透明な壁が張り巡らされていたのだ。
スガタミが呟く。
「西の裏口、北と南の脇道の向こうも駄目だった……」
彼女は小さく息をついて、処置なしといったふうに空を見上げた。
「閉じ込められちゃったみたいね、わたしたち。オープンワールドゲームの、マップ末端に追いやられた気分……」
駅を行き交う人々は、まるでゲームのNPCのように同じ挙動を繰り返している。
「見えない境界線か。この駅は広いっちゃ広いが、オープンワールドを名乗れるほどじゃないだろ。……どうしたもんかな、こりゃ。いったい何が目的なんだ……?
なあスガタミさん、ゼンナの意識を探って何か打開策を見つけられないのか」
キリンは焦る気持ちを落ち着かせるために、学ランのポケットに両手を入れ、地面に目を伏せる。
「それも駄目。ゼンナの意識はプログラムを伝って勝手に流れ込んできてるだけだから。探るなんて逆立ちしてもできない」
「……だよな」
「……待って。スキルツリーからこの世界に向けて、何かデータが送信された。気をつけて、来るよ」
「来る?何が──」
突如、背にツララの束を突っ込まれたような、酷い冷たさに見舞われた。
俺は目線を上げ、そして凍りついた。つい先ほどまで機械的な動きしかしていなかった周囲の人々は皆、脱力したように力なく、ダラリと腕を持ち上げ、人差し指でこちらを指していた。
その面は画素が爛れ、顔全体にモザイクを塗りたくられたかのようだ。
彼らは口々に、電子音のような声を発する。
『229203623132630492』
キリンは後退り、顔を引きつらせた。しかし、すぐに我に返る。
「スガタミさん逃げろ。ここは俺が──」
「キリンくん、戦闘準備」
そう言うとスガタミは唱えた。
「装備」
瞬きの間に、彼女の身体が黒のローブに包まれる。
「おい、戦うのかよ……。この数と」
「戦うよ。けど、相手はこの人たちじゃない。この駅の何処かに、プレイヤーが二人召喚された。わたしたちに殺意を抱く人が、二人も。……完全にゼンナに遊ばれてるわ」
俺はモザイクで潰れた人々の顔を見回した。どうやら、襲ってくる様子はないようだ。
「プレイヤーだと?嫌な情報は真っ直ぐに流れてくるんだな。畜生、便利なプログラムだよ、まったく……」
死なないためには、どうすればいい?
……決まってる。
キリンも装備品(白い作業着と斧)を身に着け、迎撃体制を整える。しかし、斧を持つ手が震えていた。
この駅の何処かに、自分を殺しにくる人間がいる。
俺はどうすればいい?
また、殺すのか──人を。
キリンの自問を掻き消すように、銃声が木霊した。
疲労と風邪で書くのをサボっていたら木曜になってました。
慌てて短時間で書いた短文ですがご勘弁を。




