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エピローグ

「じゃあ、行ってきます」

 サンカリは大きな鞄を背負い直し、玄関を振り返った。

「気をつけてな。ときどきで良いから、連絡しなさい」

 父のイーサに見送られ、サンカリは出発した。

 自宅を囲む森を抜け、アフォン川に沿って川下へ向けて歩く。最寄りの船着き場から定期船に乗った。

 鞄の中には必要最低限の旅の装備が入っている。今度は突発的に家を出るわけではないので、しっかりと準備が出来た。ところが、どれほどの長旅になるか分からないから、どこまで入念に準備するかという問題に直面して、余計に悩むことになった。

 父には今までにあったことはすべて話した。旅に出たいというサンカリを、父は快く送り出してくれた。いつか、良い知らせが出来ればと思う。

 船がカノリデーの駅に着いた。

 ティテが駅舎の待合室でベンチに座って待っていた。片手でサンカリに手を振り、もう片方の手でフィッシュフライサンドを口に押し込んでいる。

「久しぶり」

「うん、久しぶり」

「駅の中に待合室なんてあったのね。この前は中まで入らなかったから知らなかったわ」

 ティテはフィッシュフライサンドを食べきると、隣に置いてあったリュックを背負った。

「髪、切ったんだね」

 金色の長かった髪がばっさりと切られて、サンカリと同じくらいの長さになっていた。

「うん、旅をするのには邪魔かなと思って」

 首筋や襟足まですっかり露出していて、飾り気のないシャツとパンツルックと相まって、随分と活動的な見た目になっていた。

「ここまではどうやって来たの?」

「ソティラスさんに送ってもらっちゃった」

「え? 軍の飛行艇で? すごいね」

「すごくないわよ。あんな目立つもので乗りつけるから目立ってしょうがないったら」

 ティテは腰に手をやって憤慨してみせた。

「手の指はもう大丈夫なの? サンカリ」

「元通りにはならないかもしれないって。でも、そんなに不便じゃないから。ティテは? 足はどうなの?」

「もう全然。ほら」

 そう言ってぶらぶらと動かしてみせるティテの右腿には弾丸で貫かれた箇所が痕として残っている。もしかしたら、一生消えないかもしれないそうだ。サンカリは右手の小指がうまく動かない。あの男に、手に持った虹の石を撃たれたとき、骨折してしまった後遺症だ。

「行こうか」

「うん」

 時刻表を確認すると、次の便がちょうど出発するところだった。サンカリたちは終点までの切符を買って乗船した。

 アフォン川の流れは穏やかで、船は揺れない。

 真上にある太陽の光が川面をきらきらと照らしている。

 風は静かで、雲は少なく、空は青い。

「ね、これ見て」

 ティテは服の襟元から紐につながれた小瓶を取り出した。中には石がたくさん入っている。大小様々な石が瓶の中で転がる。大きいものでも親指の先ほど、小さいものは砂粒ほどしかない。

 石は太陽の光を受けて緑色に輝いていた。

 サンカリも首にかけた革紐を取り出す。そこには竜の翼の形の石──虹の石がくくりつけられている。

 サンカリの石もティテの石と同じ色をしている。

 虹の石は、竜の台座から脱出したサンカリとティテの手の中にいつの間にか握られていた。

 二人は石と小瓶を近づける。緑色の輝きが二人の顔を照らした。どうしようもなく嬉しくなって、二人は笑い合った。

 竜と竜守の絆の証。どれほど時が経とうとも、どんなに離れていても、姿が変わっていたとしても、虹の石が緑色に輝く限り、サンカリとシーヴェンの、ティテとトゥスクの絆が途絶えることはない。


 ──また会おう


 シーヴェンはそう言った。だから、会いに行こう。いつか、ではなく、今すぐに。だって、明日も明後日も、これからずっと先も、毎日ブラッシングすると約束したのだから。

 この空のどこかで、また会おう。

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