後編
その後、イザベラと視察をする事になった。
王都の平民街をまわる。
「殿下、ここが、平民が一般的に利用する食堂ですわ」
イザベラが何を言っても、頭に入らない。
「市場ですわ」
あ、あのときの、冒険者がいた。
「おい、釘の曲がっているの持って行っていいぞ!」
「有難うございます!いや、助かったぜ」
「殿下、次は、孤児院ですわ。有名な聖女様がお作りになった孤児院ですわ」
☆☆☆王都、マザーユメヤ孤児院
「ヘンドリック殿下、イザベラ様、ご訪問、歓迎します!」
垂れ幕が掛かっている。
「歓迎のお歌を歌います」
「「「「ああ~、偉大な王国~~~~~」」」
ユメヤ孤児院、貧民と生きた伝説の転移聖女が作った孤児院で、10年前くらいに亡くなったと聞く。
「「「「ヘンドリック殿下!イザベラ様、歓迎します!」」」
ワーワーワー、
皆、笑顔だ。歓声の中で、「ゴホゴホゴホ」と聞こえてくる。
あの子だ。
「おい、君、大丈夫か?」
「ゴホゴホ、殿下、イザベラ様、来て頂いて有難うございます。ここの孤児院長とシスター様にはとても良くしてもらっています」ニコッ
「オホホホホホ、この子は、風邪ですが、殿下に会いたくて、無理をおしてきたのですわ」
違和感がある。
あの孤児院では、熱は強制隔離だった。
子供の笑顔が、気持ち悪い。
「シスター、ここでは、勉強はしているのか?」
「ええ、希望者には施しています。子供はのびのび育ているのが、一番と、聖女様が仰っていました。
自主性が大事です」
「ゴホゴホ、殿下、イザベラ様に私が作った造花をプレゼントします」
この造花は見覚えがある。
よい子孤児院で作っていた造花だ。
バシ!
「ヒィ」
子供の腕を取った。
違和感の正体はこれか?
「シスター、子供に、ムチの跡があるが、これは、どういうことか!」
後の取り調べで、ユメヤはとんでもない聖女だった。
寄付金を沢山もらうのに、子供に治療を受けさせない。
痛みは、女神様とのキッスされているとか言って喜んでいたとか・・・
許せない。
学業も施さない。
適当な年齢になったら、お金を寄付の形でもらって、孤児を養子に出す。
聖女ユメヤの孤児院出身で、箔が付くのだそうだ。
「ヘンドリックよ。お手柄だったな」
「・・・いえ。これは、サティ・・」
サティアのおかげであると、言ってしまうところだった。
ついに、裁定の日を迎えた。
☆☆☆裁定の日。
これは、どう見ても、サティア嬢の勝ちだ。
彼女は本物の平民の生活を見せてくれた。
しかし、
「グスン、グスン、私の負けですわ。私は、上っ面しか見ていなかったわ」
「イザベラ、私もだ。偏った正義感で物事を見ていた」
イザベラの視察は頭に入らなかったが、安らぎを感じた。
サティアは青冷めた顔をしている。
しかし、この勝負は、タイカイ殿の判定になるのだよな。
タイカイは腕を組みうなっていた。
彼は、悪役令嬢派である。
どうしても、イザベラの勝ちにしたい。
ふと、何かを思いついた顔をして、高笑いをはじめた。
「ア~ハハハ、サティア嬢よ。お前は、先に、どぎつい視察をして、イザベラたんの視察を消したな?
だから、不利な先攻にしたのだな。勝負に勝つためだけに視察をするとは」
【浅はかなり!】
「我は宣言するなり!イザベラたんの勝ちなり!」
「「「何故だ!」」」
一部のサティア派の貴族令息が詰め寄る。
「我が世界には伝説の校長先生がいたなり!
悪い遊びを12000人としたなり。全国の校長先生が10000人とすると、
統計上は、平均校長は一人、1.2人、いけない遊びをした計算になるなり。
果たして、そうか?」
ザワザワザワ~~~~
「否!断じて否!施策は、中央値を取るべきなり!サティア嬢の視察は極端なり。例外として考えるべきなり。
大勢の王都市民の中央値は、イザベラたんの視察なり!
よって、イザベラたんの勝ちを宣言するなり!」
パチパチパチ!
「ヘンドリック殿下」
「イザベラ・・・」
二人はがっちり手を取った。
「つまり、政策は平均的な平民を考えて、例外には、例外として対処するべきなのね」
「ああ、校長先生は分からないが、そういうことだろう。最下層の貧民は、平民の一割以下、決してないがしろにしてはいけないが、それを元に政策を考えたら、少数者の権利が通り。平均的な平民の生活がないがしろになるおそれがある」
「サティア、恐ろしい子・・・私に気づかせてくれたのね」
「え、よく分からないけど、イザベラ様、おめでとうだからねっ」
「うむ。サティアよ。所詮、浅知恵なり。次も、婚約破棄勝負があったのなら、我が判定者となって、お前に立ち塞がるなり!」
「また、婚約破棄なんて、あるわけないだろ!このク○転移者!便利グッズの一つでもつくりやがれだからねっ!」
バシ!
「ヘブン!」
私は、この男の頭をはたいた。
その後、私にイジメをした令嬢たちは、イザベラ様が、責任を持って、連れてきて、
謝罪をしてもらった。
イザベラ様の謝罪は断る。派閥の長の知らないところでの悪さなどで謝罪されたら、サティア派の貴族が、悪いことをしたら、私の責任になるからだ。
イザベラ様の派閥に入らないかと言われたが断った。
派閥に入ると、イジメをした令嬢と毎日、顔を合わせなくてはならない。
許したが、イジメをした奴とは仲直りなど出来ない。
が、イザベラ様は殿下と良く私のクラスに来る。
「あれ、殿下、この方は?」
「用務員として、来てもらった」
「へへへ、どうも、まさか、殿下とは思わず失礼なことをしました」
王子は、貧民街で知り合った元冒険者を学園の用務員として雇ったそうだ。
足を引きずっているが、学園では、ゆっくり出来る仕事が山ほどあるそうだ。
「次は、よい子、孤児院に視察に行きたいですわ」
「グヘ、あれは、あれで、極端なんだからねっ!」
イザベラは、サティアを、王子の側近、例外規定の専門家として登用しようとしているとは、思いもしなかったサティアだった。
最後までお読み頂き有難うございました。