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暗がりを進む

「どうした?」

 気付いたレジストとモートンが、走ってきたデインを迎える。

「ちょっと見にきてくれ」

「ほかの皆には俺が」

 まだほかにも探索に行っている者がいる。全員でこの場を離れると余計な心配をかけるかもしれない。

 リーが申し出ると、頼むと短く返してグレイルも立ち上がった。

 戻ってきた皆に事情を説明して待つこと暫く。戻ってきたレジストたちは、さほど慌てた様子もなく集まる一同を見回した。

「まぁ見ればわかるだろ」

 レジストにそう言われ、案内をするというモートンについて海岸へと出る。

 この付近は森を抜けるとすぐ崖になっていた。右手側に陸地が霞んで見えるほかは、視界にはどこまでも空と海が広がるだけで。

 果てのないその景色に、一体どこまで続いているのだろうかとふと思う。

「ここです」

 モートンの声に我に返ったリーは、モートンの隣で地面に伏せるデインに気付いて再び固まった。

 デインはうつ伏せのまま崖から顔を出すように一点を見続けている。

 近寄った皆が下を覗き込んでいる様子に、目的のものが崖下にあると確信した。

 見た方がいいのかもしれないが見たくはないなとためらっていると、傍へと来たアーキスに見てきたよと報告される。

「崖に舟で入れそうなくらいの穴が空いてるんだ。海面からここは二階建ての屋根くらいの高さかな」

 どうする、と言外に問われ。

「……見てくる」

 甘えたことを言っている場合ではないと己を叱りつけ、リーはモートンの下へと近付いた。

 吹き上げる風があるのか、近付くほどに強くなる潮風。あおられるほどではないが、突然強くなるので心臓に悪い。

 せめてと膝と手をついて崖縁から覗き込む。

 真下は岩場で少しだけ幅がある。少し先、割れ目のようにも見えるが確かに穴があった。

「手前、あれならなんとか立てるか?」

「回り込める場所はなさそうですけど、ここから直接降りるならいけるかもしれませんね」

 イアンとモートンの恐ろしい会話を耳にしながら、リーはそろりと身体を退く。大きく息を吐いたところで、目の前に手を差し出された。

「大丈夫?」

 小声で聞いてくるアーキスの手を借りて立ち上がる。

(わり)ぃな」

「何言ってんだよ」

 高所恐怖症(これ)に関しては色々と―――本当に色々と迷惑をかけている自覚があるのでそう謝ると、呆れたように返された。



 拠点に戻ると、やはりレジストたちもイアンたちと同じ考えだったらしく、準備を整えたら崖を降りて様子を見に行くと立案した。

「外から覗いて、入れそうなら入ってみるか」

「じゃあ俺が行く」

 軽い調子でデインが即決する。

「レジストとグレイル以外であとひとりかふたり来てくんねぇかな」

「レジストはともかく。なんで俺以外なんだ」

「引き上げんの重いだろ。でかい図体しやがって」

 仲のいいデインとグレイルの会話が一区切りするのを待ってから、アーキスが手を挙げた。

「俺行きます」

「ならあとは私が」

 動こうとしたイアンより先に、モートンが言い切った。

「現役に任せてくださいね」

 自分を見てにっこり笑うモートンに、請負人組織(こっち)に任せたんじゃないのかとぶつくさと呟くイアン。

 その様子を見ながら、気合を入れ直したばかりなのにとリーは内心嘆息する。

 本当なら小柄な自分が行くべきだろうと思いはするが、足を引っ張るのが目に見えているので手を挙げられなかった。

 そんな気持ちを見透かすように、アーキスに少し強めに背中を叩かれる。

「リーの方が力あるんだから。登り降り、頼りにしてるよ」

「……わかってる」

 理解されていることが嬉しくも恥ずかしく、アーキスを見ないままぶっきらぼうに返した。

「気ぃつけろよ」

「もちろん」

 決まったな、とのレジストの言葉を皮切りに、皆でこれからの動きを話し合い、組み立てていく。

 概要ができたところで簡単に食事を済ませ、いざ行動開始となった。

 ロープを何本か繋ぎ、森の端の木から岩場へと垂らす。上に残る者が手助けをしながら、デイン、アーキス、モートンの順に降りていく。

「先に行けそうだ。荷物も頼む」

 後続のふたりが降りている間に洞窟を覗きに行ったデインの指示に従い、三人の荷物も順に下ろした。

 ここからは中の状況次第。

 洞窟の中へと入っていくまで三人を見送ってから、交代で見張りを立て、残る人員はこまめに連絡を取りながら周囲の調査を進めることにした。



 滑る足元に注意を払いながら、アーキスはゆっくりとデインについていく。

 洞窟の入口の半分以上は海水の流入口で、足場となるのは僅かに半歩分。入口からの光とランプの灯りを頼りに、壁に手をつきながら慎重に進んでいく。

 この先にどこか風が抜ける場所があるようで、海から風が吹き込んでくる。通り過ぎていく海風こそ冷たいが、中は思っていたよりは寒くもなく。満ちる潮の匂いはあれど、淀んだ感じはなかった。

 たくさんの石が転がっていた足場もいつの間にか一枚板のような岩場になり、それにつれ足場も広がって壁に触れずとも歩ける余裕ができてきた。代わりに流れ込む海水の幅が狭くなっていく。

 初めての光景に、こんな時でもなければあちこち観察をしてみたいなと思いながら。アーキスは気だけは緩まぬように辺りを注視しながら進んでいく。

 歩くこと暫く、先頭を行くデインが振り返らずに先を指差したあと、ランプを前へと差し出した。

 少し先に海面の動きに合わせて揺れる影がある。それが何かに気付き、アーキスは息を呑んだ。

(舟……!)

 一気に濃厚になった疑いに、三人は顔を見合わせて歩を早める。

 そこには木製の舟が繋がれ、周りも明らかに人工的に整えられていた。舟の大きさは四、五人が乗れる程度。帆もないのであまり長距離には向きそうにないが、造り自体はしっかりとしていそうだ。

 両岸には擦れ防止か布が敷かれ、通路のように木の板が奥へと続いている。

 そのまま奥へと進むと、海水は途切れて少し広い空間となった。更に奥に続く通路らしきものは見当たらない代わりに、片隅に縄梯子が下ろされている。

 縄梯子の上からは僅かに光が漏れていた。風もどうやら上へと抜けているらしい。

 無言のまま差し出されたランプをアーキスが受け取ると、デインは軽い身のこなしでするすると登っていった。一番上までは先程の崖よりは低く、身長の倍ほどの高さだろう。

 天井に手を当てたデインが力を入れると、漏れる光の幅が広がった。徐々にそれを押し上げて辺りを見回してから、危なげなく降りてくる。

「地上に繋がってる」

 目を瞠るふたりに、デインはにやりと笑う。

「あたりのようだな」



 見張りからモートンが戻ってきたと連絡が来たのは、二時間ほど経ってからだった。

 レジストをはじめ、まだ周辺調査に行った人員は戻りきっていないが、その場にいるものに洞窟の中の様子が語られる。

「デインとアーキスは地上の様子を見にいきました。私は上から穴の位置を探そうと思います」

「俺もっ」

 思わず声をあげたリーに、モートンは応えず穏やかな笑みを見せた。

「まずは組織長に報告してからですよ」

 落ち着かせるようなその声音に、リーは続く言葉を呑み込んで頷く。

(……アーキス…)

 進展への喜びもあれど、何よりも先を進む友人の無事を祈りながら。

 焦る気持ちを抑えるために、グレイルの指示の下すぐに拠点を畳めるように準備を始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こんなところに……!  リー、気持ちはわかるよ。想像しただけで、すでに手のひらに汗が(´-`;)  観察したいとはアーキスの性格がよくわかります。    レストア大陸以外にも大陸や島…
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