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見上げる高みに


 グレイルが足を止めたのは、なんの特徴もない場所だった。


「……ここ、ですか……?」

「ああ。ほら」


 グレイルが指し示す目印は、今までの馬上からの位置ではなく、馬から降りて手を伸ばした高さになっている。


「待ってりゃ戻ってくるだろ。適当にテント張っとけ」


 特に拓けた場所でもないので、木々の間を通すように各自テントを張る。


 日が落ちきる前に姿を見せたのは六人。レジストと、おそらくいるだろうと思っていたデイン、ふたりは初めて見る顔だったが、残るふたりはリーが知る人物であった。


「色々巻き込んでしまってすみません」


 馬から降りてそう頭を下げる朽葉色の髪の男に、リーは驚いて駆け寄る。


「モートンさん? どうして……」

「元々うちの案件なのですから。何もおかしいことはないでしょう?」


 そう言い穏やかに笑うモートンは、外套も保安(セリド)の団服ではなかった。


請負人(コート)ほどは戦えませんが。何かの役に立てればと」

「何言ってんだ。お前が請負人(コート)なら上級確定だろう」

「そうだよなー。昔は結構血の気の多い奴だったよな」

「おい、お前ら」


 笑い合うレジストとデインを、渋面で窘めるグレイル。柔和な顔でその様子を眺めてから、モートンはリーたちに昔の話ですよと変わらぬ声音で告げた。


「……その、皆さん昔からの知り合いなんですね……」


 慣れた様子の四人に戸惑いながら思わずそう尋ねたリーに、そうだとグレイルが頷く。


「まぁ保安(セリド)との連携も多いしな。お前らだってそのうち顔見知りの保安員(セリド)のひとりやふたりできるだろ」


 ふと浮かんだ顔に、いつかは一緒に任務に就く日もあるかと思いながら。


 楽しそうに話す四人に、いい関係だったのだなとリーは感じた。


「俺ら纏めてアニキに怒られまくってたからなー」

「久し振りにお会いできて嬉しかったですよ」

「お、噂をすれば」


 控えめな馬の足音とともに現れた男は、リーが予想もしない人物であった。


「なんだ、俺が最後か」

「イアンさん!」

「おぅ、リーも来たな」


 馬から降りて最後の目印を外したイアンがそう返した。





 初対面同士の挨拶を簡単に終えたあと、それぞれが探索結果をレジストへと伝えて地図に書き込み、それを全員が共有する。


 人数も増えたし意見交換するか、とレジストが言い出し、皆で顔を突き合わせてああでもないこうでもないと話し合った。


 物資の補給に関しては既に議論されていたようで、これ以降は位置がわかりやすい海岸沿いを重点的に探索する予定だという。


「南よりは東かな」

「南側は龍からもまだ見える場所が多いからな」


 イアンの口からさらりと龍という言葉が出たことに驚いてから、リーは己を含めた共通点に気付く。


 初対面のふたり、タフルとソジェッツもイアン同様請負人(コート)としての勤務歴のある事務員とのこと。モートンも含め、組織内に龍がいると知る者なのだろう。


「東側は上空も飛べないからな」

「寒いんだとよ」 


 怪訝そうなリーとアーキスに気付いたデインがそうつけ足す。


「ヴォーディス内は気温が低すぎて、龍はある程度の範囲にしか入れない。施設の場所がわかればエルフにも来てもらう予定だが、東側なら多分間に合わないだろうな」


 自分たち以外にはもう知らされている内容なのだろう。レジストはまっすぐリーとアーキスを見据えて続ける。


「その時は、ここにいる者だけで制圧することになる」

「今はまだ施設の規模がはっきりとわからないですが、無謀そうなら止めますので」


 毅然として言い切るモートンに。


「なら、お前がいいと言うならいけるってことだな」


 怯む様子もなく、レジストは口角を上げた。





 この付近での調査は中断し、翌日は朝から一日かけて東の海岸まで移動した一行。明日からは海岸を背に拠点から扇状に広がり手分けして調べていく。


 なるべく海からの風を避けられるように少し森の中ほどに各自張ったテント内で、防寒具にくるまりながらリーは地図を眺めていた。


 今は二の月半ば、暖かくなってくるころだというのに、辺りの気温は低く。マルクに追加で渡された防寒具がなければ、就寝時は寒さに震えていたかもしれない。


 見せてもらったレジストの地図にはこれよりもっと多くのことが書き込まれていた。


 前回の調査範囲と龍が入ることのできる範囲は写さなくてもいいと言われた。

 毎回の拠点の位置と目印になりそうなものは写してあるが、見事に等間隔で並んでいる。もしかしたらレジストもグレイルのように、距離と方向の把握を得意としているのかもしれない。


 目の当たりにした実力の差に、まだまだ先は長いなと嘆息する。


 喧嘩相手の同期生(あのバカ)のように恥ずかしげもなく大っぴらに公言するつもりもないが、それでもいつかは上級請負人(コート)にと、憧れる気持ちはもちろん自分にもある。


 知れば知るほど遠い背中。尤も、今自分が見ているのは上級の中でも最上位の面々だろうが。


 間違いなくこの人員の中では実力不足だろう自分。それでもこうして呼んでもらえたのは、少なくとも足を引っ張るとまでは思われていないからだと信じて。


(やるしかない、よな)


 アリアとライルに少しでもいい報告ができるように。

 そして何より、これ以上エルメたちのような思いをする子を出さないように。


 足りないなりにもやるしかないと、リーは改めて奮起した。





 翌日は午前と午後の半日ずつで調査をした。


 迷わぬよう目印をつけながら、人為的なものや特徴的なものを探していく。


 人手も増え、東に海岸を背負う分調査方向も半分になったからと、レジストは単独で調査範囲の外側を見回ると言い出した。目印もつけずに馬で駆けていき、全く別の方向から戻ってくる。それなのに正確に皆の探索範囲の外側を回っているのだから、もはや特殊能力としかいいようがない。


 その日は何も進展はなく、その場で夜を明かした一行。次の日は朝一番で拠点を移動してから調査に取り掛かった。


 三度目になる調査も特に目立ったものはなく、荷物の先に吊るしていた香炉からの煙が消えていることに気付いたリーは、抹香が燃え尽きていることを確かめてから来た道を引き返す。


 ここまで一時間半。帰路も同じく周りを警戒しながら進んだ。


 各自結果をレジストに報告し、揃えばすぐに移動となる。次の拠点は先程の探索区域と被らないように、レジストが距離を考えて決めていた。


 午後の拠点に着くと、報告の残りと食事の準備、そして周辺捜査を手分けして行う。

 その日はグレイルと一緒に食事の準備をすることになったリー。少し離れてモートンと話し合うレジストと目の前のグレイルの姿に、ふと疑問が浮かんだ。


「グレイルさんもレジストさんみたいに森の中で動けるんですよね」


 興味本位でそう聞くと、きっぱりまさかと返される。


「あれはあいつだからできることだな」


 そう言ってから、グレイルはじっとリーを見た。


「ああ、そういやお前も――」


 割り込んだ慌てた足音に、グレイルとリーは顔を上げる。

 視界の先では、海岸を見に行っていたデインが駆け戻ってきていた。



 はみ出た説明。


 作中リーが使っているのは香時計です。

 煙と香りが立つので、普段はあまり使いません。


 デインはイアンのことをアニキと慕っているだけで、兄弟関係はありません。

 下っ端っぽく「アニキ〜」とアテレコしてあげてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  なかなか大変なお仕事ですよね。体力勝負だし、さまざまな知識も必要性。その上に危険な仕事なら命懸け……。コートのパートナーを持ったら、心配が絶えないなと思ってしまいました(‘’;) ラミエ…
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