72話:神の領域
王女が失敗した次の日、日中からの王子奪還作戦は俺主導として動きだした。
…………どうしてこうなった?
共和国に来たの、観光気分だったのに…………。
(結局見るところないし、イテルは予想外だし、変な探索者にからまれるし、王女なんか拾ったし、挙句王子を助けろってなんだ?)
そんなつもりで来てない。
だからって期待してる相手にできないとは言えない。
(実際できるから、できないって嘘吐くには理由付けいるし、そうなると考えるのが面倒だし)
見た限り共和国に旨味はないけど放っておいたら勝手に滅びそうだ。
そうなると山脈越えて逃げ出す人間が増えるので、それはまた問題だろう。
俺がここで共和国見捨てたせいで、大地神の大陸が見つかるのもな。
殺して口封じもやりすぎると誤魔化せなくなるだろうし。
『血塗れ団』は犯罪者だから消えても問題ないと思ったのに今回こうして面倒ごと引き寄せてしまったしなぁ。
(そう考えると共和国を安定させる方向でどうにかしたほうがいいのか? けどそれに王子救出いるか? ここで王女に恩を売って何かいいことあるか?)
突き出したら共和国側にアピールできるんだろうが、すでに向こうにはトリーダックたちがいる。
今から行っても面倒ごとにしかならない未来しか想像できないな。
俺にはやる理由もやらない理由もどっちも思いつかなかった。
「あの、いつまでこうしているのでしょう?」
王女が怯えた声を漏らしたので、俺は考え込んでいたのを中断して顔を向ける。
ここは幽閉塔近い路地であり、今は放火襲撃の翌日である。
もちろん周辺は厳戒態勢で、犯人である王女からすれば居心地は悪いだろう。
「心配はない。私には全てが見えている」
「まぁ、さすがは賢人。では、先ほどから運良く誰にも見つからないのもまたあなたの差配ということでしょうか?」
俺が頷くと王女は安堵の息を吐き、称賛の目を向けて来た。
それをやめてほしいんだよな。
どうしても思い出すファンの視線は、芋づる式にめちゃくちゃディスられたあの時を思い出す。
その後にメインのシナリオライター降ろされたし、ここで退くとトラウマから俺の何かがぽっきり行きそうだ。
「…………全ては、私の掌中だ」
やり遂げるだけの力がこの神の体にはあるんだと、自分に言い聞かせる。
実際悪い状況じゃない。
本当にすべてが見えているのだから。
(マップ化って運営側が使うツールなだけあって、チートだったな)
リアルタイムで見えない場所にいる人間の動きがわかるのだ。
しかもマーカー機能もついてるから同じ動きしている奴は特定できるし、どれが巡廻かも一目瞭然。
幽閉塔に近いこの路地も、警備の側の死角をついてるし、近づく者がいればアラームが鳴るように設定した。
(そのアラームってどう聞こえるか試してないのがちょっと不安だけど、ここまで来て考えてるほうが問題か)
煮え切らないのに、やりだしたら猛進する。
その辺りのバランスの悪さが俺の問題だったんだろう。
それが仕事にも表れていたと、今さら昔の自分が考えた設定に悩まされてわかる。
いや、これがいけないんだ。
くよくよして腐っても駄目なんだよ。
「イテル」
「は!」
犬が尻尾振って喜んでる姿が幻視できそうな勢いで返事をされた。
「心意気は買うが、声を抑えろ」
「は、し、失礼いたしました」
赤くなったイテルに、王女が親しみの視線を向けている。
「トリーダックたちがいない。考えられる動きはあるか?」
マップ化は一度スキルを使った場所がアーカイブとして残っていた。
そこを見れば幽閉塔は今もリアルタイムに情報を得られる。
ただ、どう見ても幽閉塔の中にトリーダックたちはいない。
前回遭遇した時に面倒からマーカーつけたのだ。
けれど幽閉塔周辺も見るがやはりトリーダックたちを示すマーカーは見えない。
「この狭い間隔で二度はないと浅慮を起こしたのでしょう。またはこの数の警備を配置したなら安心だと。つまりあなたさまのお知恵に勝ることのない愚者であるだけです」
「余計な世辞はいい。相手を下に見過ぎるな。窮鼠猫を噛むというだろう、足元をすくわれることがある」
とは言え、そんなものか。
実際それを狙っての日中襲撃だ。
(駄目だな。後ろ向きになってて不安しかない)
そこに王女が思わぬことを言い出した。
「もしかしたら拘束されているかもしれませんわね」
「何故だ? あれだけ堂々といたのだから許可を得て幽閉塔内部にいたのだろう?」
「だからこそでしょう」
王女が皮肉げに笑う。
「わたくしの襲撃は失敗。それでも襲撃されたということ事実が、権威を貶める罪として糾弾される。それを逃れるには代わりのスケープゴートを必要とするのが今の議会なのです。他国の探索者などいい生贄。そう言う醜い争いばかりをしてきた者たちなのですわ」
憎しみ溢れるご意見だ。
とは言え、情勢に詳しい者からの言葉なら一考の余地はある。
「つまり、協力し合ってということはないんだな? ここにいるだけが全てと」
「そうでしょう。陛下を誅したなどと嘯いて、その後は議会の主導権を巡って殺し合いと聞いています」
俺が頷くとイテルが王女に確認する。
「それは誰からの情報なの?」
「伯爵と暗号でやり取りしたのですわ」
「処刑を知ったのは一年前と言っていたのに、そんな政治的な話を?」
「…………私を思う以上に、本人が辛く言い出せなかったと言っておりました」
「イテル、良い。詮索してやるな」
うん、この話やめよう。
雰囲気が暗くなるばっかりだ。
(ここにいる人数以上にはすぐさま増えない。それに放火のことで周辺に人はほとんどいない。だったら今が好機だ)
嫌われ者らしい共和国だが、そこで犯罪行為を行ったとしたらどう思われる?
例えば、この世界の何処かにいるかもしれないプレイヤーに。
(王女がいるからと言って正統性を主張しても悪感情は生まれるわけだ)
こっちは元からエネミー。
プレイヤーがいたとしたら恰好の攻撃理由にされる。
(だったら、目撃者がいなければいい)
トリーダックがいれば一緒に始末しようと思ったが、奴らの主張する『血塗れ団』は冤罪だ。
仮面が同じだけだという言いがかりを信じる奴がいるとは思えない。
(ようは俺たちエネミーがやったという奴がいなければいいんだ)
俺はマップ化で見える3D地図を改め直し、言い訳のためにも狙うは巡廻のみに絞る。
そして俺は神のスキルを発動した。
「神域作成」
その瞬間、人間の胸ほどの高さがある光の囲いが幽閉塔を中心に音もなく現われる。
これはゲームでも見た神のスキルであり、回避不可能で強力な魔法をこの範囲内に降らせる前段階。
レベルマプレイヤーさえHPが足りないと即死する攻撃の前触れとして警戒されたスキルだ。
「これは、いったい…………?」
王女は初めて目にする神のスキルに戸惑う。
隠れる俺たちに見える範囲でもぐるっと囲っているので、巡廻たちはもっと良く見えてる。
けど騒ぎはしない。
身構えたがすぐさま危害がないと知って近寄る者たちもいる。
「あれは神の檻。なん人も逃げることはできないわ。あぁ、こんな卓抜したお力を当たり前のように操られるなんて」
イテルが惚れ惚れするように言うと、王女も感動のまなざしを俺に突き刺す。
だからそのファンの目をやめてくれ。
無闇に力むじゃないか。
(いや、力んで失敗するのもあれだけど、ここってどれくらいの魔法使うべきだ? 派手にしたほうがいいのか? 撃ち漏らしとか格好悪いだろうし。けど、即座に異変があったとばれるのも駄目だろうし)
そこで俺は思い出したスキルを発動してみた。
意味としては現状に有効に働くのではないかと思ったのだ。
「天網恢恢」
発動すると俺にだけ見える3Dマップに、銃器の照準に似たマークが現われる。
それが光の結界内部にいる人間すべてについた。
(当たりだ。これは結界内部のプレイヤーをマーキングするスキルだ。プレイヤー限定のところがこれは人間に限定されるということか?)
しかもこのまま魔法を放つべきだと何故かわかる。
たぶん一つの魔法を発動でマーキングした全員に、その魔法が襲うんだろう。
一々一人一人を狙って何度も魔法を連発する必要はない。
ただし魔力の消費が激しいようだが、これで魔法は回避不可能になる仕様らしい。
(さすが神のスキルか。逃げられもしない、避けられもしない、隠れられもしないとは)
だが、素早く静かにことを終わらせるには、屋内の人間を狙うべきかは迷う。
(神との戦いってボス戦仕様で広い空間確保されてたし。あ、いや待てよ? 商人ジョブで馬車か何かを持ち込んでる強者がいたな)
商人ジョブは乗り物を操ることができるスキルがある。
攻撃によってはその乗り物に防がれて攻撃が届かないことがあり、それを狙って持ち込んだらしい。
まぁ、結果は馬車が大破した上に即死したのだが。
たぶん同じように建物を壊した上で屋内の人間も殺せる。
となると、物音が立つわけだ。
「ふ…………屋内の者は命拾いしたか。では、さらばだ。第六魔法慧炯」
俺は念のためLv.6の追尾機能を持った光魔法を放った。
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