死の軍勢
俺たちは街の南門に急いだ。
そこはすでに王国軍の騎士が右へ左へと慌ただしくうごめいていた。
門はまだ開いていない。
だが状況もわからない。
俺は近くを通りがかった騎士をつかまえて、
「おい、敵が攻めてきたんじゃないのか? いま外はどうなっているんだ!」
「うるさい! 冒険者風情は引っ込んでろ!」
手をふりはらわれてしまった。
「なんだよ、あの態度!」
ケイウッドが悪態をついた。
ケイウッドの気持ちもわかるが騎士たちも動揺して余裕がないのだろう。
冷静さを保ちながらあたりを見まわして、騎士たちに指示を出している人物を見つけた。ガルドだ。
「ガルドさん!」
「貴殿らか!」
俺はいったいどういう状況になっているのかたずねた。
「魔侯爵の軍勢の襲撃だ。まだボルゲン丘陵を下ってきているところだが、できれば都市の城壁にまで近寄らせたくない」
やはり敵襲か。
「規模はどうです? 敵の種類は?」
「大軍だ。だが問題は……敵はアンデッド、スケルトンだ」
大軍なのは厄介だな。
というかアンデッドでもただのスケルトンならさほど強くないのではないか?
おそらくゴブリンやスライムとならんで最弱のモンスターに挙げられるはずだ。
俺の疑問に答えるようにベルナンディアがたずねた。
「数の戦いには慣れていてもそれは人間相手のこと。モンスター、特にアンデッドとの戦いには慣れていない、ということじゃな?」
「恥ずかしながらそういうことだ」
話の筋は通るが納得がいかない。
ボルゲン丘陵の西の沼地からはアンデッドがわいてくるはずだからアンデッド戦には慣れていてもおかしくない。
これはイムネマの酒場でも思ったことだが、あの丘で帝国と戦争をしているということはもしかしたらこの世界ではアンデッドが自然発生しないのか?
いや、あの丘の沼地からは発生しない、と限定して考えたほうがいいか。
それはさておき。
「騎士団は迎え撃たないのですか?」
「準備はさせている。だが、どうにも混乱しており動きが鈍い」
ガルドは苦々しげに答えた。
安定した身分に腰掛けておいてこんなものかよ!
「なら俺たちが先行して戦います」
「しかし、それでは貴殿らに負担が掛かりすぎる」
「ガルドさんは騎士の連中を煽ってください。冒険者にできることができないのかってね」
騎士団が本格的に動き出すまでの時間稼ぎができればいい。
「……わかった」
「かならず騎士たちを動かしてくださいよ。来るのが遅かったら俺たちは逃げますからね」
「もちろんだ。身の安全を最優先に考えてくれ」
俺は仲間たちの顔を見まわした。
俺の作戦に異論のある者はいないようだった。
俺たちはガルドさんの指示で通用門を開けてもらい、都市の外に出た。