宴のありさま
「かっかっかっ、シュージ、ヌシもちゃんと飲んでおるか?」
ベルナンディアが俺の首に腕をまわして無理やりエールを飲ませてくる。
まずい、力が強くて抗えない。
「飲んでる、飲んでるからやめれ!」
結果から言ってエールの飲み比べはベルナンディアの圧勝だった。
大柄の男はエールを20と数杯飲んだところでダウンして今もテーブルに突っ伏している。
男も自信があったのだろう。
ただ、相手が悪すぎたみたいだ。
酒に強いと言われるドワーフ族のベルナンディアは底なしにエールを煽りつづけ、おそらく50杯以上は飲み干しているはずだ。
それでもなおとどまるところを知らず、こうして俺に酒を飲ませながら自分もガンガン飲みつづけている。
酒豪なんて言葉じゃ足りない。
まわりの観客たちも酔いつぶれた連中がテーブルや床に突っ伏し、死体の山のようになっている。
わずかに冷静さの残っていたやつらは帰っていった。
ケイウッドはとっくに酔いつぶれて床の上の住人に成り下がり、ネムリは疲れていたのだろう、三つのイスをベッド代わりにすやすや寝ている。
こういう光景はなんていうんだ、地獄絵図か?
とりあえずベルナンディアは酒癖が悪いということはわかったので、俺が酔いつぶれる前に他の生け贄を探す必要がある。
俺が右に左にと視線をめぐらしていると偶然にも目が合う人物がいた。
店の奥からこちらを見ていた金髪の女性。
この視線、もしかして飲み比べがはじまる前に感じた視線か?
この際、どうでもいい。
「あ、あんた、もしよかったらいっしょに飲まないか? 今ならそこにいる男のおごりでいくらでも酒が飲めるぞ」
俺が声をかけると、その女性はびっくりしたように目を丸くし、おずおずと席を立ってこちらに近づいてきた。
「わ、わたしがご一緒していいのですか?」
「ああ、できればこっちのベルナンディアって子となかよく飲んでやってくれないか?俺はこっちの子を宿屋に寝かしつけてくるから」
金髪の女性は頬を紅潮させて、
「ベルナンディア、ちゃん……」
「なんじゃ、ヌシも飲むのか? 飲め飲め、食え食え!」
「は、はい! お供させてもらいます!」
意外とあっさり受け入れて女性もエールを煽りはじめた。
よし、生け贄作戦成功!
俺はネムリを抱きかかえ、そそくさと酒場を後にした。