大酒飲み
そのとき、ふとどこからか視線を感じた。
冒険者で騒がしい酒場、敵意は感じないが何か見られているような気配を感じる。
そう感じた直後、
「よう、イカサマの兄ちゃんたち! ゴキゲンそうじゃねえか!」
声のほうを向くと、あ〜見覚えがある。
そして、あまり見たい顔ではなかった。
今日、午前中にこの酒場でケイウッドにイカサマ勝負で負けた大柄な男だった。
なんで楽しくメシ食ってるときにこんなやつの顔を拝まなくちゃいけないんだ。
しかも、俺は巻き込まれただけでまったくもって無関係なのだからたまらない。
「おいおい、イカサマにだまされたやつの顔は覚えてないってか?」
「わからないか? いま取り込み中だ」
メシがまずくなるからさっさと消えてくれ。
だが、そんな俺の願いはもちろん易々と受け入れてもらえるはずもなく、
「ああ? おめえのせいで金を巻き上げられたんだぞ! 落とし前つけるのが筋ってもんじゃねえか?」
正論だがそれは俺じゃなくてケイウッドに言ってくれ。
当のケイウッドはエールをがぶ飲みしていて男の話どころじゃない。
となりのテーブルの冒険者パーティと意気投合して今日の冒険の話をそれはもう気持ちよさそうに脚色マシマシで熱弁していた。
となりで食べているネムリを怖がらせてもよくないし、どうあしらうかと思案していたところ、
「なんじゃ、揉め事か?」
エールを片手にベルナンディアが首を突っ込んできた。
正直、話がややこしくなりそうだから勘弁してほしいんだが。
「この兄ちゃんがよ、イカサマ勝負で俺から金を巻き上げたんだよ。ひでえ話だろ嬢ちゃん」
「なんじゃ、そんなことか。だったらわしと飲み比べをせぬか? わしが勝ったらこの件はチャラ、支払いはヌシ。負けたら金は十倍にして返す、これでどうじゃ?」
「ほほう。いいねえ、乗ったぜその話」
あー、やっぱり話が変な方向に転がっていく。
ベルナンディアはすでに顔が赤らんでいて酔っ払っているのがわかる。
そこに男がつけ込むのもわかる。
だが、もし勝負に負けたらせっかく得た報酬がパーだ。
ケイウッドはとなりのテーブルにお邪魔しており、俺はネムリを連れてテーブルから離れた。
俺たちの座っていたテーブルはこれから大男と少女による大酒飲み対決の場と化す。
「そこの若いおなご、わしとこの輩にエール10杯じゃ」
ウェイトレスがかしこまりましたーと去っていき、すぐにエールに満ちた杯が大量に運ばれてきた。
店側も飲み比べ対決が行われると察して優先的にエールを用意したのだろう。
こういった勝負やケンカは酒場の花のようなもので、酔っ払いばかりの冒険者たちにとって一種のレクリエーションみたいなものなのだ。
酒場が盛り上がれば注文も増える。
酒場もこうしたいざこざを利用しようという商魂たくましい考えがあるのだ。
「用意はいいかの?」
「俺はできてるぜ」
頬が赤らんでいるベルナンディアに余裕の笑みを浮かべる大男。
酒場のウェイトレスが待ってました、と言わんばかりのタイミングで「はじめ!」と開始の合図を告げた。
まわりの連中もなんだなんだと注目してくる中、ゴクゴクとエールを飲み干していく渦中の二人。
俺はサラダの皿を抱えながら、もうどうにでもなれとなかばヤケクソ気味に離れて見学することにした。
となりのネムリは何が起こっているのか、よくわかっていないようだったので気にしないでごはん食べな、と教育によろしくないものからその目を遠ざけた。
当の張本人であるケイウッドはとなりのテーブルで「いいぞーいけーベルナンディアちゃんー」と無責任な声援を送っている。
お前が原因だからな!とつっこむ元気もない。
酒場中の注目を浴びながら、まさに浴びるようにエールを煽っていくベルナンディアをひっそり見守ることにした。




