本当に初心者
気になっていたことをあらかた聞けて落ち着いた。
死ぬことだけは気を付けなければならないが、それ以外はだいたい理解しているので何とかなりそうだ。
「で、ストルフのダンジョンはいつ行くんだ?」
チキンサラダを食べ終えたケイウッドはきょとんとした顔で、
「え、これからだけど?」
おい待てよブラザー。
お前、何の下準備もしないでダンジョンに潜るつもりか?
「あ、あー、そうだな。たしかに準備が必要だったな。忘れてた忘れてた」
あはははは、と笑ってごまかそうとする初心者を俺は見逃したりしない。
「……お前、ダンジョン潜るのはじめてだろ」
「ギクゥ!」
大げさに驚いてみせるのは果たしてわざとなのか。
「……というかお前、モンスターと戦ったことないだろ」
「ギクギクギクゥ!!!」
こいつ、本当に大丈夫なんだろうか。
「な、なにを言っているのかなー、シュージくん?」
「冒険者のクエストはモンスター討伐に限らないからな。迷い猫の捜索から、たき火の薪拾いまで、雑用だろうと報酬が出るなら請け負うなんでも屋だからな。しかも、モンスターと戦わなくても経験値が入らないこともないし」
「……もうそのへんにしたまえよ、シュージくん」
一方的な口撃にケイウッドは燃え尽きた薪のように真っ白になり、口から煙があがっていた。
「お前、モンスター討伐しないでレベル3まで上げたって逆にすごいぞ。いったい何ヶ月かけたんだよ」
「それ以上、聞かないでくれ、マイブラザー……」
なんか急にかわいそうになってきた。
うっとうしかったり、かわいそうだったり、めんどくさいやつだ。
はじめはうさんくさいやつだと思ったが、ここまでくるとただのお調子者で人並みに臆病なふつうのウザいやつなのかな、と思い直した。
「まあ、これから潜るにしても、とにかく準備は不可欠だ」
俺は燃え尽きたケイウッドの肩を拳でこづいて、ちょっとだけ元気を分けてやった。