初心者はナルシスト
「簡単な話さ。オレとストルフのダンジョンに潜ってくれ」
「ストルフのダンジョンって、あの初級冒険者向けのダンジョンか?」
「知ってるなら話は早い。オレ様もそろそろ初級冒険者を卒業しようと思ってな」
ケイウッドはどうよ、とばかりにウインクをした。
先輩風を吹かせているのが最高にうっとうしい。
ストルフのダンジョンは駆け出しの冒険者が潜るのにもっともお手頃なダンジョンだ。
というのも、実は冒険者ギルドがダンジョン管理を行っているというウワサもあり、要するに初心者向けのチュートリアルダンジョンみたいな場所なのだ。
ダンジョンとはどういう場所なのか、モンスターと戦うとはどういうことなのか、パーティで連携を取るためにどう動けばいいか、などなど。
そういった初歩的ないろはを学ぶためのダンジョンなのである。
さらに初心者向けに低レベルのボスモンスターが設定されていたり、そのボスを倒して踏破すると冒険者ギルドから報酬をもらえる初心者専用クエストもあったりする。
この盗賊はそこをクリアしたいということらしい。
「ところでお前、レベルいくつなの?」
ケイウッドはよくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに髪をかき上げた。
うん、うっとうしいからそういうのはいいぞ。
「聞いて驚け! オレ様はなんとレベル3だ!」
「……そ、そうか」
「驚きすぎてリアクションも取れないか。うんうん、わかるぞー」
ケイウッドは勝手にうんうんうなずいて自分に酔っているようだ。
いや待て。レベル3で威張るってどんだけ自信過剰なんだよ。
初心者に毛が生えた程度のものじゃないか。
別の意味で驚いたよ。
でもそうするとあれか、酒場であれだけ余裕ぶっていたのって別に冒険に慣れているとかではないってことか?
この自信過剰っぷりといい、対人においては自信がある初級冒険者、と認識を改めておいたほうがよさそうだ。
「それで、なんで俺なんかを誘うんだ?」
冒険者ギルドに行けばもっと高いレベルの冒険慣れした連中だっているだろう。
「なんでって決まってるじゃないか。オレよりレベルが低いからだ」
言ってる意味がわからない。
「いや、レベル1の俺がついていっても大した戦力にならないだろ」
「シュージ、もっと柔軟に考えるんだよ」
いちいち腹立つな、こいつ。
「オレよりレベルが高いメンバーがいたらオレ様が輝けないだろ?」
「なるほど、お前バカだろ」
「バカとはなんだバカとは! オレはオレ様がもっとも輝けるシーンを演出するために冒険をするんだ」
ケイウッドは自分で自分を抱きしめて「ああ、オレはこれから最高に輝くよ」とナルシスト全開のセリフを吐いていた。
ダメだ、頭が痛くなりそうだ。
というか、こんなのと冒険に出て無事に帰ってこられるのだろうか。
激しく不安だ。
だが、冷静になって考えるとこのナルシストと冒険に出るのはそれなりにメリットもある。
そもそも俺のようなレベル1のずぶの素人とパーティを組んでくれる冒険者など、それこそケイウッドのような同じ初級冒険者くらいしかいない。
冒険者ギルドに毎日、通いつめたとして、そうそう都合よく俺の前に初級冒険者が現れてくれるとは限らない。
あまつさえ俺とパーティを組んでくれる保証なんてどこにもない。
そして、俺はそんなに何日も悠長に初級冒険者が現れるのを待っていられるほど懐に余裕がない。
つまり、偶然にも目の前にいるイカサマ盗賊は初心者の俺にとってパーティを組むにはもってこいの人材というわけだ。
……あまりこのナルシストに価値を見出したくない気持ちはあるが。
まあ、しかたない。状況が状況だ。
まとまった金が手に入ったらさっさとパーティ解消しよう。
「しょうがないか。わかった、その話、のるよ」
「さすがだな、シュージ。このオレと冒険に出ることを選ぶとは最高に賢い判断だ」
ああ、最高にパーティ解消したい。
俺は思わず天をあおいで目頭を指でつまんだ。