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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム フトシ
第4章 転生そして転移
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48話 遠征開始

 


 草木や人々が眠りにつき、静まり返る静寂の夜。

 王城の一角で、ある密会が開かれていた。そこには椅子に腰掛ける者、黒いローブを羽織った者、剣を携えた者がいる。


「それで、よからぬ事は起きなかったのか?」


「はい、無事休暇を堪能できたとリル様も喜ばれていました」


 片膝を着いてハキハキと答えた女性は、微動だにせずに頭を下げていた。椅子に座った者はグラスに入った液体の香りを、楽しむように邪気のある笑みを浮かべる。


「宰相よ、貴殿はどう思う?」


「どう、とはなんの事でしょう」


「なに、惚けなくてよい。魔族へいつ仕掛けるかについてだ」


「あぁ、でしたら遠征が終わった後からでもいいのではないですか?」


「何故だ?当初の予定では遠征で洞窟に勇者を送り、そのうちに戦争を仕掛け魔族に殺された人族の残骸を見せつけた方が効果的だと」


「なっ!なんて非道な事を!」


 鳥肌が立つような事をサラッと耳にした女性は勢いよく顔を上げた。


「いちいち突っかかるなよ、副団長。いつまでも甘い事を言ってくれるな」


「その通りだ。勝つには犠牲はつきものであろう?」


「しかし……」


 片膝を着いた女性に対し、黒ローブや剣の男は見下すような視線を送った。


「まあ良いだろう、宰相も団長も攻めてやるな……副団長のおかけで勇者は戦力として数えられるのだからな」


「まあ、そうですな」


「……違いない」



「ありがとう、ございます……」


 女性は悔しそうに、それを顔に出さないように俯く。

 すると、黒いコートを羽織った男が嬉々とした表情で言った。


「何も知らない副団長に教えてやってはどうですか?今後の計画を」


「あぁ、それはいいな。勇者は魔族を駆逐させてくれれば用済みだ。存在魔力は高くても使えなかったら雑魚極まりない。何かをきっかけに魔族諸共花火のように散ってくれればよいと話しててな」


「そんなっ!……お願いします。リル様は」


「リル様はなんだ?昔死んだ妹のようだから慈悲をってか?」


「いえ、そんなことは!」


「……もうよい。副団長よ、勇者が遠征でさらに力をつけることができるのなら計画の実行は遠征後にしよう」


「はい……必ずや」


「よい、では出ていけ」


「はい……」


 女性が書斎から出て行く。静寂に響く足音が徐々に遠くなっていく。



「陛下、計画の実行が遠征後で良いといった理由ですが……」


「そんなこと、言われなくてもわかる。随分副団長は勇者を気に入っているらしい……もう少し経験を積ませるという事だろう?」


「はい、その通りです。勇者と副団長の、ね」


「ははは、さすが宰相だ。如何せん趣味が悪い。しかし……いいきっかけになりそうですな」


 野望と貪欲に満ちた密会は、深夜遅くまで続いた……

 自らの計画の為には手段を選ばない。

 陛下のグラスに注がれている真っ赤な液体が、より一層と不気味さを(かも)し出していた。




 ───


 早朝、私はメイドに起こされた。

 部屋から窓を開けると、心地よい風と眩しい太陽の日差しが一日の始まりを告げる。

 城下町を覗くと、既に商人や店主と思わしき人々が支度を初めていた。


 この世界に来て4ヶ月、いつもの変わらぬ朝を感じたが今日は違う。

 この都市の外へ遠征だ。

 それは私の未知。不安もあるが、それよりも期待で胸が踊っていた。


 朝食を済ませ、流れるように訓練所へ行くとレイラが待っていた。


「おはようございます、リル様」


「おはよ!どうしたの?レイラ」


「……いえ、今日は遠征です。王族専用の馬車に乗ってこの都市を出ます」


「うん、わかった。何時頃?」


「あと1時間後です。今日は稽古は行わないので準備をお願いします」


「はーい」


 私に要件を伝えたと、レイラは訓練所から出ていった。副団長としての準備が色々あるのだろう。

 馬車には一緒に乗るらしいからその時に遠征の内容を聞く事にした。

 準備って言われても……持っていく私物といったら昨日ガルさんからもらった剣くらいか。


 遠征では魔物を倒すと聞いている。実際に魔物は人族の害悪であり、殺すべき敵である。モンスターのようなものだ。冒険者ギルドでも魔物討伐の依頼があり、魔物を殺して生活をしている人も沢山存在する。

 強い魔物が出てきた時の事を考えると心配であるが、レイラがそばにいるし大丈夫だろう。


 生き物を殺すという先入観に嫌悪感や拒絶感はそんなにない。

 というより、私はまだ殺す事が身近なことだと体感的に感じてなかった。



 自室に戻ると専属メイドが遠征の準備をして待っていた。用意してくれた戦闘服のような動きやすいものを着付け、ガルからもらった白銀の剣を携える。


 一息つくと、馬車まで案内された。

 今回の遠征は秘密裏(ひみつり)に行う為、カーテンのような布で覆われた積荷のような馬車に乗る事になる。

 前方に3乗の馬車と後方に2乗の馬車が配置して進行するそうだ。

 その中には帝国騎士の中でも手練の集団だ。レイラの部下でもあり戦力は申し分ない。

 もっと詳しい事を説明すると、1乗の馬車に4名の騎士が乗り、各自交代で運転手を務めるそうだ。


 私とレイラの乗る馬車の運転手を含め、騎士総勢21名。多すぎる気もするが丁度良いらしい。


 馬車に乗り込むと、そこには既にレイラがいた。

 やっぱレイラは行動が早いイメージがある。

 そしてレイラのフル装備、ガチ装備を初めて見た。一見重そうに見えるが薄く硬い鎧を身につけている。濃い青と黒が入り交じったデザインがされており、とても手練の騎士のようだ。かっこいい。



「お待たせレイラ!その鎧カッコよくない!?」


「ありがとうございます。こう見えて結構動きやすいのですよ?」


 レイラが上半身を軽く動かすが鎧特有の金属が擦れ合う音がしない。とてもスムーズである。金属と金属の合間には丈夫な伸縮性のある布のようなもので繋がれており、その効果かと納得した。

 確かにレイラの剣術では重い鎧や面積をとる鎧は邪魔でしかない。あれか、特注のオーダーメイドか!



「これもガルに造らせました。私の部下達は濃い青で統一させてますが、指揮官である私は一目でわかりやすい方が良いとなったので」


 確かに指揮官は見た目でわかった方がいいだろう。じゃなきゃ色々と混乱する。


「ちなみに団長の身の回りの武器や防具もガルが造ったのですよ。腕だけは良いので……あぁ、そちらに座ってください」


 レイラはそういって笑った。

 昨日の今日のようなものだからとてもわかる。ガルさんの腕前は素晴らしい。

 レイラに言われた座席は柔らかいクッションが置いてあった。座ってみると……あぁ、沈む。

 この遠征でお尻が痛くなるといったことは避けられそうだ。


 そうしてクッションの感触を楽しんでいる私に、レイラが丈夫な布袋を差し出した。



「これは私が用意したリル様の鎧です」


 鎧というのでずっしりしてるのではないかと思ったが、受け取るとそうでもない。というより軽い。そしてジャリっといくつもの金属音がなった。


 若干不思議そうに布袋を開けると、そこにはいくつもの金属の部品が入っていた。

 その鎧と言われたそれは……見た目はとても鎧では無い。組み立てする前の未完成かと思った。



「これが鎧?」


「はい。鎧というより防具に近いですが……」


 鎧というものは全身を金属で包み込むようなイメージがあるだろう。実際に全身や上半身を完成されたひとつのパーツで覆うのが鎧と言われる。

 では防具とはなんだろうか。それは部分的に、自らの行為で攻撃を守るための道具の事である。一般的に盾や籠手などを防具と表すのだ。


 布包みから全ての部品を取り出してみた。一個一個が軽く、とても丈夫だ。


「四肢や胴体の各所に身につけられる物にしました。リル様はその魔力と身体強化がとても強力なので鎧でも良いと思いましたが、防具の方が戦闘スタイルに合うと考えこれにしました」


 遠征の話が決まってから、レイラに鎧については任せてくれといわれたので考えていなかった。

 レイラが私に合うとこの防具を選んでくれたのだ。疑う必要が無いだろう。


 レイラに着付けを手伝ってもらい、防具を各所に身につけた。

 重さは感じなく、四肢から防具の存在感を感じる。嫌悪感も無く、すんなりと体に馴染んだ。

 馬車の中だが軽く手足を動かしてみたが、特に動かし辛い所はない。


「レイラ!とてもいいよこれ!いつの間に、どこで準備したの?」


 遠征と知ってから数日しか経っていない。その間もレイラと付きっきりだった為、いつ用意してくれていたのか不思議に思った。


「私のお下がりなのですよ。戦闘スタイルが同じリル様なら使えるのでは無いかと」


「おー!この籠手にある小さな傷はそういう事だったのか!」


「あぁ、それは申し訳ありません。毎日のように手入れをしていたのですが……」


「いや、そんなこと気にしてないよ!レイラ、ありがとね!」


「良かったです。その防具は何度も私の命を救ってくれました。リル様のお役に立てると私も嬉しいです」


 帝国騎士の副団長としての鎧だと、先程レイラがいっていたのでそれまでに使っていた防具だろう。手入れはしっかりと行き届いていて、艶や光沢は未だに健在だ。レイラが今日まで手入れを欠かさずに大切にしてきた防具……。それを使わしてくれて何だか嬉しかった。



「鎧は攻撃を受けるものではありません。身を守るための道具にすぎないのです。鎧を着ると過信してしまう。そうして死んで行った者を沢山見てきました。

 しかし防具は違う。攻撃を自らの意思で受け、それを起点にする。そのような違いがあります」


 レイラの教訓。ふとした時に、とってもためになる事を教えてくれる。


「いいですか。遠征では、どんなに弱そうな敵でも命落とすまで決して油断してはいけません。過信してはいけません。それを肝に銘じてください。」


「うん、わかったよ。ありがとう、レイラ」


 甲高い笛のような音が響き、城門が開く音がする。ゆっくりと馬車が進み、私にとっての異世界初の冒険が始まろうとしていた。




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