表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム フトシ
第4章 転生そして転移
44/58

42話 勇者の役目

 



 その後、何も知らない私はレイラからこの世界の事情について訊いた。

 そのことを予定していたのか、手元の資料を広げて丁寧に説明してくれた。


 まず、この大陸の名前はアスティルカというらしい。聞いた事があるような気がした。デジャブ……?



 この大陸は海に囲まれており、三つの種族が存在する。大陸の西側に魔族領があり、暴風が荒れ狂う《絶縁の谷》を境界に人族の領が広がる。そして大きな山脈を越えた東の大陸に獣族の領があるのだ。


 山脈を超えられない壁とされ、大陸の中央に位置する人族は魔族からの迫害を受け、窮地に立たされた。そんな絶体絶命の状況から人族を守ったのが異世界からやって来た神の遣いの初代勇者らしい。


 人族の代表と初代勇者が力を合わせ、魔族を従える諸悪の根源、魔王を討伐した。

 その人々の代表の家系が《朱雨血の一族》、今代まで続く王族だ。


 魔王討伐後、《朱雨血の一族》は精神的にも身体的にも疲労していた人族を集い、力強い演説をした。

 二度と魔族から迫害されないように。人族の栄光ある未来のために。


 そこから誕生したのが現帝国と王国だ。

 王国は人族の休地とし戦地から遠い北へ。帝国は魔族と対抗するために南へ建国された。


 ──これが大陸の歴史。帝国の王族が所有する記録によるものだ。



「我々帝国騎士は魔族との戦争に勝利し、人族の民を守るために剣を掲げているのです」


「魔族か……。そんな、歴史があったんですね」


 それを説明するレイラから、気高き誇りと勇ましい気迫を感じた。

 私はレイラを()()()だと認識し、その人なりが好ましく思えた。


「勇者様、他に知りたい事などありますか?」


「うん、……勇者ってそもそも何ですか?」



 この質問にはいろんな意味が、疑問が含まれていた。


 まず、勇者の役目は?


 勇者は私だけ?初代勇者って?


 というよりなんで私が?


 そもそも……何をもって勇者とするの?



 この世界に来てからずっと考えていた。レイラはそんな(わだかま)りをひとつひとつ解消してくれた。




 勇者とは、それは人族代表の力の象徴。そして英雄である。

 即ち、魔族との戦争の最前線に立ち勝利する事。

 武力と戦術をもって、悪の魔族を駆逐する事。

 先代の悲願を晴らし、これからの人族の平和を掴む事。

 それが、勇者の役目である。



 初代勇者はこの世界の者ではなかったらしい。数千年前世界が危機に立たされた時、神が遣わしたのが初代勇者だったそうだ。

 つまり初代勇者は転移者。異界の勇者にして人類初の勇者。


 本来、転移者という者はこの世界には存在しない。

 自然発生するものでは無いのだ。

 初代勇者が例外だったのだ。つまり、転移者とは神の意志なのだ。


 初代勇者の死後、転移者ではなくこの世界の者から新たに王族公認の勇者が誕生した。


 何をもって勇者とするのか……それは王族しか知らない国家機密らしい。



 勇者は現代まで代を繋ぎ、そして初代勇者と同じく異界の勇者であるリルが転移された。

 それは神の意志であり、世界の危機を意味するのだ。



 神の意志……確かに私は転移する時、神様に会った。ここまで大きな事になるとは思わなかった。

 まるで私がこれからの歴史の中心にいるかのように。


 ゾッとした。



「じゃあ、私は。私に世界を救えって?人族を守るだけじゃなく?」


「私も詳しい事はわかりませんが……勇者様が転移者である限り、何かしらあるのかと」


「そんなっ!私は!私はそんな力なんてないよ!!」



 まるで騙された気分だった。とてつもなく重いものを背負わされていたのだ。

 これが運命とでもいうのだろうか。



「いえ!勇者様には特別な力があります!」

「……私に特別な力が?」


 それには心当たりがある。


「はい……現に私を倒されたじゃないですか」

「……あれは何だったのか私もわからないよ」


 左眼が鼓動するかのように波打った。


「勇者様、それは魔力です。普通ではない質ですが……」

「え、この世界には魔力ってものがあるんだ」



 この世界に来てから感じていた不思議な力。私の中で渦巻く力の奔流。左眼やこの髪を流れる青の輝き。

 魔力というものが何故かすんなりと理解できた。


「あぁ、これが魔力ね」


「はい。ですがあの時、勇者様の魔力は暴走していました。多分コントロールが上手くできていないのかと……」



 確かにあの時、左眼にこの力が垂れ流れていた。今ならわかる。魔力が暴走していたんだ。

 そういう事だったのか。


「勇者様は、他にも才能があると思います。私は教育係として勇者様とこれから沢山訓練します。この世界の事、剣技、戦い方。そのような事を私から盗んでもらいます。今日はその挨拶に来たのです」



 悪い詐欺にあった気分だ。いきなり神様に誘拐されたし。報酬も聞いてないし。そもそもスケールが大きすぎる。とても私ができるとは思えない。

 でも、私が勇者らしい。

 勇者にしか、私にしかできないことがあるらしい。


 元々逃げ道や拒否権なんてないと思うが、今までの生活を考えるとこれもいいかもしれない。


 そして私には力があるらしい。その使い方もわからないし、あのような激痛を毎回負うなんてごめんだ。

 だから力をつけないといけない。



「わかりました。レイラさん!これからよろしくお願いします!」


「はい、よろしくお願いします。勇者様」


「あ、さっきから思ってたんだけどさ、勇者様って呼ぶのやめて欲しいなぁ」


「……では、リル様でよろしいですか?」


「呼び捨てでもいいけど……ま、いっか」



 ここから私の人生は大きく変わるんだろうな……


 人族を守って英雄になったら、私は幸せになれるかな?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ