41話 勇者の実力
王様との謁見が終わると体育館3つ程の広さがある空間に案内され、そして剣を持たされた。
「……え?」
剣を持つなんて初めてだ。幸い刃物がついてないが、それでも凶器だ。
私は少なからず、いやかなり怖気付いている。
そんな私を見兼ねてか、ひとりの鎧を身につけた男性が声をかけてきた。
「今から勇者の実力を測らせてもらう。あぁ、王の前での実演なので刃物は取り除かせてもらっている」
「え、実演!?私、剣なんて使ったこと」
必死に訴えるが聞いてくれない。
「あぁ、その通りだ。まあ安心しろ。お前の相手は手加減が上手と騎士達に言われている帝国騎士の副団長だ。ちなみに俺は帝国騎士団長のクゼンという。よろしくな」
「あ、はい。よろしくお願いします」
この実演を拒否することはできないのだろう。
すると王様が話しかけてきた。
「団長が言ったように安心してよい。ただ勇者の力を測るだけだ。なにも勝てとは言わん」
「……はい」
剣の振り方すらわからないのにいきなり実演だなんて無理だ。
勇者としての使命を受け入れるといったが、まさかこうもいきなりピンチになるとは思わなかった。
雰囲気からして皆、勇者の実力を知りたいのだろう。
本当なら今すぐにでも逃げ出したい。でも、何も知らない状況の中、それは愚策だ。
覚悟を決めるしかないと、私は強く剣を握った。
すると私の前に軽い鎧を身につけた女性の騎士がゆっくりとした足取りで現れた。
「私が帝国騎士副団長のレイラです。勇者様の実力を測るために立ち合いをさせてもらうことになりました。よろしくお願いします」
第一印象は丁寧な言葉使いをした20代後半程の大人の女性といった感じだ。
副団長というのだから男の人かと思っていた。
「あ、私はリル・ナスタシアといいます。」
知っていると思ったが、礼儀として自己紹介をした。するとレイラは軽く目を開き、優しく微笑んでくれた。自己紹介を返したことに良い意味で驚いたらしい。
「では、準備が整ったようなので始めようと思います」
団長が一連の指揮をとるらしい。
その言葉に王様が頷くと団長の視線は私達へと向いた。
私は剣を両手で持ち、震える腕で副団長のレイラに剣先を向けた。唾を飲み込み、歯をくいしばる。
「では、始めろ!」
開始の言葉と同時にレイラが走り近づいてきた。
自然と足が後退する。私の視線はレイラが手にする剣に釘付けだった。
「っ!?」
左肩に剣が迫る。ただただ怖く、私は必死に剣を盾にして初撃を防いだ。
しかし、攻撃は止まない。
「ひっ!」
情けない声が出た。再び剣を盾にして防ぐがバランスが崩れ尻もちをついてしまった。
「あっ、」
すぐにレイラを見上げた。その剣は空へと掲げられている。
私はレイラから目を離すことができず、転んだ拍子に落としてしまった剣を慌てて手探りで探した。
しかし見つけることができず、数秒ほど頭上に留まっていた剣は私の額に向かって振り下ろされた。
死んだと思った。
その恐怖から、死にたくないという感情から、私の中の何かが溢れた。
次の瞬間……私の左眼が青く輝き、その力の奔流と共にレイラが吹っ飛んだ。
──プツン──
「ぐぁぁぁあッ!!?」
絶叫した。左眼に激痛が走る。今にも破裂しそうな……そして眼から溢れ出る青の輝きと力の奔流が収まらない。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!)
必死に左眼を抑える。痛みが止まない。団長が駆け寄ってきた。
「あぁぁあああッ!!」
「大丈夫かっ!?おい!返事をしろ!!」
私は団長の声を聞きながら、激痛で気を失った。
───
「なっ、なんだったんだ……今のは」
勇者リルが絶叫し気を失った後、陛下が驚愕の面で呟いた。
陛下は主に戦略を練り、国を動かす事か務めのため戦闘面ではからっきしだか、それでも肌で感じ取ることができたあの膨大で濃密な魔力。その強大な質と量に畏怖を覚え背筋が震えた。そして同時に歓喜した。
「勇者を救護室へ連れて行けっ!そして副団長もだ!急げ!!」
団長は部下へ指示を出し、リルとレイラを救護室へ運ばせ陛下の元へ歩み寄った。
「なあ、クゼンよ……先のあれは魔力であろうか」
「はい……ただの魔力と言って良いのか、わかりかねますが確かに魔力です」
帝国騎士団長でたくさんの経験を積んできたクゼンですら、リルの魔力やその密度、その脅威を正確に把握する事ができなかった。
「ただ、あの力を我が帝国の戦力に加えられれば……魔族駆逐も夢ではないでしょう」
クゼンでも手を焼くレイラを魔力のみで一撃で仕留めた。幸い勇者リルは剣技もまともに扱えず、戦闘なれもしていなそうだ。上手く育てることができればどれ程のものになるのか。それを陛下へと熱弁した。
「ああ、確かにその通りだな。クゼンも忙しいだろうからレイラを指導係に任命しよう。副団長ならすぐに一人前にしてくれるだろう」
「それは良いですね。我が帝国の、人族の快挙を目の当たりにしている気分です」
「ふははは、そうだな!いや、まさか異界の勇者という者がここまで力を秘めているとは思わなかったな!」
「そうですな!この先が楽しみで仕方がない!」
「そして……くくくっ、あの計画も進めないとな」
勇者をどのように育てるか。どこの場面で利用していくか。魔族をどのようにして追い詰め駆逐するか。
そんな妄想話や計画が王と団長の会話を賑やかにした。
───
起きた。と自覚した。しかし眼はまだ開けていない。誰もが経験したことあるだろうアレのことだ。
光が眩しい予感がするのだ。もう少し寝ていたいという気持ちが勝った。
何よりこの毛布が気持ちいい……。
ん?
「……んん?」
初めてこの状況の経緯を考えた。この感覚……なんで私はベッドにいるのだろう。気持ちいい。
あぁ、そうだ。剣を持たされて戦ったんだ……っ!
剣が目の前に迫ってきたことを思い出し、飛び起きた。
「ぐっ、痛い……」
左眼がズキンと痛む。腫れたように痛い。
周囲を見渡すとソファや机が設置されている、少し広い寝室にいることを把握した。
「あぁ、そっか。左眼が痛くて、気を失って……」
意識がしっかりしてきた。今に至る状況に予想をつけるとその根本的な謎について頭を抱える。
「転移って……いや、ありえないでしょ」
ベッドに再び倒れ込んだ。仰向けで背伸びと大きな深呼吸を繰り返す。
いくら考えても転移なんて有り得ない。というより信じられない。
しかし、実際に転移でないと今ここに至るまでの説明がつかない。
謁見で勇者だと言われたが、何も知らない。
私なんかが人族を守る力なんて絶対ない。
でも、あの時感じたあの力は……
この左眼は……
ベッドから起き上がり、机に置かれた小さな鏡を手に取る。自身の顔を覗くと、いくつかの変化をみつけた。
地球にいた時、日本人として有り得なかった虹彩異色症。両親ともに純日本人で、髪や瞳が青なんて親族に存在していなかった。
誕生してから各所で騒がれ、テレビにあげられたこともある。
親は愛情こめてこの瞳と髪を綺麗と言ってくれた。だけど……私はこの髪と瞳が好きじゃなかった。
見た目が違うだけで差別された。友達もできなかった。呪われた子と呼ばれたこともある。
そんな自分が、この色が好きになれなかったのだ。
しかし今鏡を覗き込み、驚愕と初めての感情を覚えた。
「……綺麗」
その左眼は普段より濃い青で、瞳孔に青の光が流れている。髪は透き通っているかのような薄い輝きを放っている。
驚いた。でも何故か……嫌じゃなかった。初めて綺麗だと思えた。
鏡を手に取ったのはいつぶりだろうか。
「ここは……もう日本じゃない。王様の髪は赤かった。だからもう、いじめられない。のかな」
ずっと気にかけていた自分の中の障害が、許される世界なのかもしれない。そんな希望を胸に、今一度鏡を見つめた。
色々な表情を作ってみる。ここでは自分のことを好きになれそうだ。
──コンコン
「失礼します、勇者様。お目覚めになられましたか?」
「っ!!」
軽いノックの後、ドア越しに凛とした声が聞こえてきた。
鏡を机に置き、急いでベッドにダイブする。
鏡を見つめているところをみられたくなかった。
「は、はいっ!起きてますよ!」
慌てたせいか、少し浮ついた声を出してしまった。顔が熱くなる。
入室してきた女性はついさっき剣を交わした帝国騎士副団長のレイラだった。
自然と手に力が込められた。
「え、あ、レイラさん」
「はい、レイラです。勇者様に今後の予定についてお話をしに来ました。」
今後の事はとても大切な話だ。右も左も分かっていない今の状況は安心できないしとても不安だ。
また、試合などやらされるのかも知れない。
「まず私、レイラが勇者様の教育係として任命されました。よろしくお願いします」
「え、教育係?レイラさんが?」
これには驚いた。副団長といっても大層な役目だろう。そんな人が私なんかの教育係に……あっ、私は勇者なんだった。
「はい、そしてこの世界のことについて、勇者様の使命について説明させてもらいたいと思います」
それは私が今一番欲している情報だ。
すると、レイラが予想外の行動をとった。
「先程は申し訳ありませんでした」
急に頭を下げてきたのだ。意味のわからない事態に呆けてしまった。
「え、なんで謝るのですか!頭を上げてください」
それに困惑していると、レイラが顔を上げなんとも言い難い表情で口を開いた。
「最初、すぐに勇者様に戦闘経験が無いと気がつきました。ですが王の手間、命令を断ることはできません。寸止めのつもりでしたが……団長から聞きました。私のせいで、絶叫と共に気を失ってしまったと」
「……」
確かにレイラの剣技に恐怖を覚えた。本気で死ぬかと思った。そして……左眼が潰れたのかと思った。
あの時の痛みと感情は忘れることができそうにない。
初めて剣を向けられたのだ。攻撃されたのだ。今もレイラの腰にある剣が視界にちらつく。
だけど……レイラも仕事だったのだ。私は子供じゃない。それくらいはわかる。
不思議なことばかりだ。転生、神様、そして私の力。
私は、この世界に怖気付いているのかな……。
そういえば勇者って何をするのかもよくわかってない。
でも、ここから逃げてうじうじしているのは合理的じゃない。
私は、この世界で勇者として生きていくのだから。
「レイラさん。あの時私は死ぬかと思いました。でも、レイラさんを嫌うことはありません!だって……レイラさんが優しいのわかったから!」
私はレイラさんの手を取って伝えた。すると、レイラさんは安心したかのように笑ってくれた。
──後書き──
こんにちは。作者の秋華こと、オサムフトシです。
私の性格上、物語が非常に駆け足になってしまいがちだと気がついたのでゆっくり読んで頂くと幸いです。
この物語はまだまだ続きます!ここまで読んでくださった貴方様へ感謝を込めて!




