37話 再死
木々からの木漏れ日が見え隠れする頃、深緑の風が一人の少女の絶叫をかき消した。
辺りの木々が、少女の悲しみを優しく包み込むように感じ取れる温かい空間。
少女は大切な者を、自身にとって必要な者を失った悲しみを嘆く。
その儚く脆い背を、一人の青年が支えていた。
何度も転生を繰り返し、何度も彼を失った。
その悲しみは計り知れないものだ。
そして今生ではルナと出会い、失った。
彼とルナと一緒に暮らしていく幸せが待っていたのに。
なにが戦争を止めるだ。一番大切な人を守ることもできないで。
……ルナ、もういないなんて、考えられないよ。
私は……これからどうやって生きていけばいいの?
体は冷え切っていた。心も冷めていた。
精神が疲労していた。
全部忘れて、全部なかったことにして、ずっと寝ていたかった。
口が開いたままルナを見つめる。
ルナの想いは……でも、それを認めたら、ルナが死んだと認めるようで、それがとても嫌で。
本当は全部、頭では理解しているんだ。
涙が止まらない。すると、背中に衝撃と温かい重さを感じた。
「クリス、俺がいる。
……お前にはまだ、俺がいる。
だから……」
マティルが私を後ろから抱きしめてくれた。
まわされた腕は小さく震え、不思議と力強く感じた。
じわじわとその想いが、温かさが心に染み渡り、とても安心した。
だんだんと、体に感覚が戻ってきた。
ゆっくりと体を動かし、マティルを見つめる。
頭を優しく撫でてくれた。
マティルは、なんとも言い難い表情をしていた。
「クリス……ひどい顔してるぞ?」
「それは、私だけじゃないよ……」
私は思いっきり、マティルに泣きついた。
力いっぱい抱きしめた。
ゆっくりと、心が解れていった。
───
少し肌寒い場所。
薄暗く、頭上いっぱいの星が照らし出す光が眼に馴染む。
『森の家』から少し移動し、辺りを見渡せる小高き丘まで移動した。
星がとてもよく見える、ルナとの秘密の場所だった。
今日はもう遅い。明日、ルナの両親に死を伝えに行くつもりだ。
いつまでも泣いていられない。覚悟を決めた。
ずっと悲しいと思う。それでも、ルナの想いは……しっかり聞いたから。
私は幸せに生きるんだ。そして胸を張ってルナにまた、会いに行くんだ。いつか、絶対に。
星空を見上げる。
空気が冴え、手を伸ばせば届きそうな星が流れる。
幻想的な、心地良い時間がすぎていた。
「ねぇ、マティル。とっても綺麗でしょ?」
「あぁ、とっても綺麗だ」
自然と寄り添ったクリスとマティルは、手を重ね合わせた。
「昔ね、ルナと見つけた秘密の場所なんだ。
マティルになら教えてもルナは怒らないと思うから……」
「……教えてくれてありがとう。本当にとってもいい場所だよ」
ズキズキ痛む胸と、高まる鼓動。
相反する気持ちが複雑に絡み合っていた。
ルナは応援してくれた。
マティルの事が"好きだ"と改めて自覚した。
「マティル……これからも、ずっと一緒にいて欲しい」
一層風が強まった。
消えそうな声で想いを伝えた。
離れ離れは嫌だった。
ずっと一緒にいたかった。
「……もちろんだ。ルナとの約束でもあるからな」
ルナに"そばにいてあげてね"と言われた。
そんな約束させられなくても、そうするつもりだった。
なぜなら……
「だって俺は、クリスの事が、██だからな」
「え?今なんて──っ!」
──ゴオオオオオオオオオオオンッ!!!──
クリスにマティルの声は、想いは届かなかった。
クリスの耳に響いたのは空気を割く轟音。
その上空から星が降りてきた。
それはクリスの僅か500メートル程の上空まで、迫ってきている。
その圧力と暴風がクリスを突き飛ばす。
「なっ!?くっ【アップワード・テンペスト】ッ!!」
夜の暗闇に、クリスの青が輝いた。
瞬時に魔力を最大まで練り上げ、青の根を伸ばし対抗する。
だが、あまりにも巨大すぎる。
先が見渡せないほど、地平線へと広がっている。
まるで上空に迫り来る天井が現れたかのような……大陸が降ってきたかのような規模だ。
カールの"召喚"とは比べ物にならない。
「クリス、何を」
「動かないでっ!守りきれない!!」
マティルの言葉を遮り、更に魔力を練る。
「【リーバース・マナ】ッ!!!」
魔力の出力を限界以上に引き上げ、魔法を放った。このままでは魔力の出力の負荷で体が壊れる可能性がある。
「クリス、だから何を!?」
クリスの体内の魔力全てが、一瞬で魔法へと性質変化し放つ。
とめどなく体を経由して、青の根から星の魔力を引き上げる。
その魔力すらもおかしな勢いで魔法へと変化させ、迫り来る星にぶつけた。
その物凄い負担がクリスの体内を急激に蝕んだ。
だが、少し地に近づく勢いが弱まったに過ぎない。
「このままだと……っ!」
体が悲鳴をあげている。
腕が上がらないほどに痛い。
まるで体内の筋肉全てをやすりで擦られたかのように。
立つこともままならなくなったクリスはマティルの腕の中に落ちた。
「はは、ごめん。このままあの隕石に潰されちゃうね」
煮え切らないような、しかし諦めた表情でマティルの顔を見つめた。
ルナに会いに行くのはさすがに早すぎたかなと思った。
だが、次にマティルが言ったことに対してクリスは恐怖を覚えた。
「こんなボロボロになるまで何してたんだクリス!?
隕石だって!??そんなものどこにもないじゃないか!」
「え……っ!?」
何を言っているんだと、再び上空を見上げたクリスは驚愕した。
その目に写っているのは、綺麗な星空だけだった。
「なっ……どうして」
先程まですぐ側まで迫っていたはずの隕石が、綺麗さっぱりに消えていた。
「なにが……くっ!?」
強大な魔力を体に巡させ過ぎたためか、その激痛が襲ってきた。
そのままクリスは気を失った。
───
「ここは……」
目を開くと暗闇中、幾多の光の粒が一面に広がっている。
「起きたか……本当に心配したぞ」
草原の中、隣にマティルが座っていた。
私は仰向けになって寝ていたらしい。
「心配かけてごめんね」
心地の良い風が流れてゆく。
まだ陽は明けていない。
「心配するのは当たり前だろ?」
そう言って笑ってくれた。
自然と頬が熱を帯びる。
「ねぇ、さっきマティルが言ったこと……聞こえなかったの。」
すると次はマティルが頬を赤らめ、斜め上を向いて言った。
「だから……俺はクリスの事が██だと言ったんだ」
「……え」
頭に一瞬ノイズが走った。
まるで……あの時と同じように。
「だから、クリスとずっと一緒にいたいと思った。だから、これからも一緒だ」
「っ!!うん!とっても嬉しい!!」
何故か、ノイズの事を忘れてしまった。
ただ、一緒にいてくれるという嬉しさが、好きという気持ちが、クリスの心を支配した。
《ドクンッ!》
嬉しい。嬉しい。
彼とずっと一緒にいれる。
痛む体を無理矢理に起こし、マティルの背中に右腕をまわす。
《ドクンッ!!》
あぁ、好き。好き。大好きなんだ!!
貴方を求めていた。
貴方が好きだった。
ずっとずっとずっとッ!!
《ド・ク・ンッ!!!》
貴方は私が好きなのかな?聞きたいなぁ。
ねぇ、止められないよ。溢れちゃうよ。
我慢してきたのに……我慢?なんで?
私は……ずっと、貴方が。
貴方だけが!!
……大好きだよ。
「ねぇマティル……私《ドクンッ!》貴方のことが……」
マティルの手を取った。するとマティルの手が私の手を優しく包み込んでくれた。
精一杯の笑みを浮かべた。
想いを……感情の昂りを……
大切にしていた"愛"を伝えた。
「誰よりも……す███████」
──世界が止まった──
そこで……クリスは正気に戻った。
(まさかっ、まさかそんなっ!?)
悪夢を思い出した。
前世での記憶……訪れる確かな死を。
(嫌だ!嫌だ嫌だ!!嫌だよッ!!)
声が出ない。体が動かない。身動きが全く取れない。
まるで、時間を1ページとして切り取られたかのような……
魔力を練る……しかし、魔力を感じることすらできない。
頭を働かせる。打開策を考える。
星聖女として力を手に入れた。
転生を繰り返し、この呪いに抗う術を考えてきた。
だが、非情にも抵抗は虚しく終わった。
(なんで!なんでよ!!)
唯一の救いはマティルの手を握ったままだった事だ。マティルの熱を感じる。
(マティル!起きて、お願い!!)
マティルは目を開いたままクリスを優しげに見つめている。
──ピシッ──
そして……始まった。
彼の顔に亀裂が走る。
(っ!?嫌だ!やめてっ!!)
亀裂が勢いよく分岐し、それが全身へ広がる。
(あぁ、なんで!なんでよ!!)
そして、崩れ始めた。
(嫌だあぁぁぁぁああああっ!!!)
目を瞑ることすらできず、泣くことすら許されない。
ゆっくりとマティルのパーツが、顔からボロボロと地に崩れ落ちていく。
私の手を包み込んでいたマティルの手は、急激に熱を失い壊れていく。
マティルの破片は足元まで崩れると、砂粒のようになり、小山を作った。
「─────っ!!!───────────────────────────ッ!!?!?──────────ッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?!?!!!???」
マティルが死に、その空間から解放されたクリスは声にならない声を、絶叫をあげた。
彼の遺体の破片に膝をつき、それを片腕で必死に集め胸に抱く。
全てを失った。
(なんで……嫌だよ。マティル、ルナ……)
辛いなんてものじゃない。目の前でマティルが死んでいった。クリスは何もできなかった。
そんな事より……何よりも……この運命に対しての気持ちが、怒りが、憎しみが、悲しみが溢れ出した。
「私が……私が何したっていうんだっ!!」
どこへ叫んだのか、自分でもわからない。悲しくて、辛くて、涙がとまらなかった。
「……なんでよ、なんで私から全部奪うの?なんで!?なんで私なのッ!?
……私は、彼を好きになる事すら、想いを伝えることすらできないの?」
──ピシッ──
私の死が来たらしい。
目の焦点が合わなくなり、体が崩れて行く。
不思議と痛みを感じない。
指先から砂のように崩れ、首が落ちた。
頭が割れた。
(マティル……ルナ……また会えるかな)
彼の遺体の上でクリスはゆっくりと崩れて行った。
そして……
死んだ。
本来ならここで終わるはずだった。
ここで生を終えるはずだった。
──その運命は、再び世界を欺いた──
一つの蒼白い炎が揺らめいた。
ここまでご愛読ありがとうございます。作者の秋華です。
さて、無事3章を終わらせることができました。
この小説は、勢いで書きあげた私の独特な世界観でしたがいかがでしたでしょうか?
心に訴えかける、そして感動を呼ぶ作品を目指して執筆してきました。
何より気をつけたのが矛盾点を生じさせないことです。全ての行動に意味をもたせています。
まだ小説を書き慣れている訳ではなく、文章の表現力が拙いため、上手に文字に起こせていない所が多々あります。
私はこの作品を執筆してる内に大好きになりました。私に出来る完璧なものに仕上げたいと思っていますので、文章の訂正、改稿と誤字訂正などを時間が空き次第行いたいと思います。
そしてストーリー内容は絶対に変更しない事を約束します。
非愛転生はこの程度の感動で終わらせません!
以上です!次回から新章がはじまります。
今後ともよろしくお願い致します!




