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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム
第3章 私に必要な者
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35話 星聖女の全力

 



 まるで隕石のようなとても大きな岩石が、ゆっくり地上へと接近してきた。


「なっ!?」


 マティルが驚いた声を上げた。

 気がついたら頭上に首都と同じくらいの大きな岩石が落下してきているのだ。

 あのクリスの速さなら避ける事はできるだろう。


 こんなものどうすることもできないと、瞬時に悟った。


 だがクリスはひかなかった。


「はぁあああっ!!」


 魔力を練り、纏い、圧縮する。

 逃げる事はできるが、ルナを巻き添いにすると聞いた。その可能性が少しでもある限り、受け止めなくてはならない。



「クリスっ!!」


「……大丈夫だよ、マティル。

 私はね、ルナを守らないといけないんだ」


 クリスは背を向け優しげに呟いた。

 マティルは拳を握り締め、悔しそうな顔で告げる。


「……クリスはすごいよ。俺はクリスに助けられてばっかりだ。クリスがいなかったら死んでいた。今もそうだ。」


 マティルが想いのうちを告げた。

 ずっと考えていたのだ。クリスの実力にはマティルは適わない。

 こうして魔王幹部に手も足も出ない。

 足でまといだと、考えていたのだ。



「……ルナとマティルはね、私にとって大切な人なんだ。絶対に()()()()なんだ。ずっと居たいんだ。また、3人で笑いあったりしたいんだ。

 だから……そのためだったら私は抗うよ。

 どんな理不尽な事だとしてもっ!」


 だが、クリスの気持ちは単純だった。

 大切な人だから、自分に必要な者だから戦う。全力で抗い続ける。

 それだけだった。



「【アップワード(上昇し続)・テンペスト(ける暴風)】ッ!!」


 ──ゾオオオオオンッ!!!!──


 クリスの本気の魔導が巨石に衝突した。


 巨石は一瞬落下が止まったかのように見えたが再び重力と共に地上へと近づいてくる。


 巨石を砕くと、質量や密度から二次災害が予想される。それを防ぐためには風で追い返すしか方法が無いのだ。



「もっとっ!もっとぉぉおお!!!」


 更に、更に全力で魔力を込める。

 内なる力を全て解放し、それを暴風へと性質変化させ、ぶつける。


 青の髪がより一層輝き、青の光の波が鼓動するように流れる。

 左眼は濃く青く、その瞳から魔力が溢れ出る。


 その巨石は非常に質量と密度が高い。

 およそ半径6.7キロはある先の見えない岩を、崩さない程度の風で上昇させるには……そしてそのための風の流れを作るにはどれ程の精密な操作を、そして計算を必要とするであろうか。

 それを一人で維持するにはどれ程の魔力が必要とするのであろうか。


 これは転生を繰り返し、最強の能力を得たクリスの全身全霊を込めた魔導だ。



 ゆっくりと巨石が上昇し始めた。


「なっ……信じられない」


 虚空から驚愕の声が漏れた。

 そしてそれは、マティルも同じ気持ちだった。


「……頑張れ!クリスッ!」


 マティルの声援に連れて、より魔力が増した。

 クリスの髪が、全て綺麗な青に染まっていく。


「はぁあああああああッ!!!」


 風を巻き上げ、巨石は勢いよく遥か上空へと舞い上がって行った。



「やった……っ!?」


「うん、あの質量だもん。また落ちてくる」


 バランスボール並に小さく見えるほど上空へと打ち上げることができたが、直径が10キロ以上もある巨石だと、質量がありすぎて重力の影響を直により勢いを増して落ちてくるだろう。


 そうなる前に何とかしなければならない。

 だが、それはクリスの計算通りだった。



「ふふふ、このままお手玉みたいに打ち上げ続けるのですか?位置エネルギーを考えると、先程より手がつけられなくなりますよ?」


 虚空から馬鹿にしたかのような声が聞こえる。

 それを聞き、マティルは心配そうにクリスをみた。

 だが、クリスは軽く笑ってマティルに問いかける。



「マティル、私の本気凄いでしょ?」


「……あぁ、とってもな。アレ、何とかなるのか?」


「もちろん。なんであんな上空まで吹き上げたと思う?」


「……あぁ、そういう事か」


「ふふ、さすが(私の好きな人)」


「ん?なんか言ったか?」


「なんでもない。

 ッ!?今ルナの魔力を感じた。早くこれを片付けて迎えに行こう」


「そうなのか!……クリス、やっちゃえ」


「うん!」



 クリスは更に魔力を込めた。

 それを右腕に集め、圧縮し密度を高める。


 右腕を上空へ掲げる。


 手のひらに小さな無色の球が誕生した。

 右腕に魔力を集中させたため、その周囲の空間が魔力で歪み無数の稲妻が走った。



 魔力を更に流し込み、大声で叫んだ。


「今の私にできる最大威力の魔導だ!

 消滅しろッ!!【プラズマナ(崩壊の魔力魂)】ッ!!!」



 掲げた無色の球が放たれた。


 物質を原子から崩壊させる球。

 魔力を軸として電離した気体のような血漿(けっしょう)

 それを信じられないほどに凝縮した魔力で人為的に生み出したのだ。



 何故、わざわざ遥か上空へと巨石を打ち上げたのか。

 それは巨石を崩さずに消し去るためのクリスの魔導(プラズマナ)の被害にあわないようにするためだ。


 その魔導は上空で巨石にぶつかり、拡大した。

 それは巨石やその周囲の雲諸共を呑み込み、まるで何も無かったかのように全てをかき消した。


「なっ!?有り得ない……」


 虚空から驚愕の声が聞こえてくる。

 クリスはマティルを連れて、ルナを感じたところまで急いで飛んで行った。




 ───


 ヨルドがマティルと星聖女を仕留め損ない、マティルに過剰反応したキルラが魔王の命令を無視して追って行った。

 その1日後に、魔族の首都で前代未聞の事態が起こった。


 それは人族の、勇者の奇襲だ。


 戦場は遥か先のはずだ。つい先日まで最前線にいた勇者が首都まで来ている意味がわからない。


 (戦場に旅立った幹部達は何をしているのです。まさか殺されたのですか?)


 勇者は兵を次々に薙ぎ倒し、魔王城にいる魔王に向けて空中を駆け上がり崩壊音と共に衝突した。

 丁度研究に必要なものを揃えるため魔王城近くにいた私は、魔王と勇者が力のぶつかり合いをしている最中に伝言を預かった。


 "首都にいる幹部達で民を守れ、全権をカール、お前にやる"


 まだそんな甘いことを言っている。今首都にいる幹部は私しか居ないのに。

 ただ、全権を一時的だが貰えるらしい。


 そして魔王城の崩壊共に魔王が勇者に吹き飛ばされた。その後を勇者が追って行った。


 姿が見えなくなったと思ったら、激しい轟音が鳴り響き、暫く続いた。

 魔王城は見るも無残な瓦礫と化し、民たちが次第に混乱を始める。



「鎮まれッ!たった今、魔王様から全権を預かった魔王幹部のカールです。貴方達にはこれから、新たな命令を聞いてもらいます」


 そして2日間程、表に立ち指揮を執った。

 今の魔王は明確に嫌いだが民たちが憎い訳では無い。

 後々面倒事にならないためにだ。


 残りの作業を兵に任せ、久々に研究所に戻る事にした。


 すると、解剖台の横に人族の女が首から血を垂らして倒れていた。


「何が……あぁ、ヨルドから知った人族の女をキルラが持ってきたのですね。一応何かに使えるかもしれませんし、生かしておきますか」


 そして近づいて感じた。


「なっ!?なんですか!その人族は!?

 とてもいい魔道体をしている!逸材ではないですかっ!!」


 召喚士であるカールは様々な魔物から強力な因子を組み込み、合成生物を作るのが趣味だった。


 その体は魔力に浸透していればしているほど優秀なものになる。

 この女は魔力の浸透がとても良く、理想的ともいえた。


「これは……久しぶりに楽しめそうです。まず、四肢を固定して……」



 そしてピクトルを打ち込んで細胞の組織を安定させるのを待っている間、厄介事が起こった。


 キルラの【ソウル・テル(魂の遺言)】から星聖女とマティルが首都へルナという名の人族を奪い返しに来ることだ。


「まさか……あのキルラが殺られたのですか。

 そして今向かってきていると……」


 それを知ったカールは、優秀な実験体を大人しく差し出すつもりもなく、どのように仕留めるか考えを巡らせた。


「星聖女とはここまで……とりあえずルナさんとやら。貴女はここでお留守番です」


 しかし、あのキルラを殺すとなると普通の戦い方では勝てないだろう。そもそもどのようにしてキルラを殺す事ができたのか検討がつかない。


 正直に言うと魔王に丸投げしたい程の強敵と思えた。

 しかし、今魔王はここにはいない。


 楽しみの研究を一旦棚に上げ、星聖女とマティルが来るであろう方向に兵を配置させた。


 そして研究所に戻り、観察する特殊魔法を使いどれ程の実力なのか判断する事にした。



 が、一瞬で全滅した。


「なにっ!?そんな事ありですか!?」


 これには心底驚愕した。多分魔法を使われたのだと思う。

 普通に出て行ったら瞬殺されると直感した。


 だが、何もしなかったら殺されるのは同じであろう。


 何か突破口は無いか……そう考えをめぐらせていると後ろでルナという名の女がうめき声を上げた。


「今はまだ寝ていてください……

 どうにかしないと……そうだ」


 星聖女は病的な程にルナを求めている。

 人質になる、と思った。


 しかし、下手に刺激するだけではダメだ。

 確実に殺さなければ確実にやられてしまう。


 ……アレを使うか。


 思い立ったのは、保険だった切り札中の切り札。

 もし、何かあればアレがある限り魔族の首都に居るものを脅迫で支配できると考えていたとっておき。

 絶対に首都を滅ぼす事ができる大技。


 予めマーキングしていた上空に、直径10キロ以上ある巨大な岩石を落とすという非情な召喚魔法。


 ただ召喚するだけだが、あの質量と密度を考えると消費魔力は馬鹿にならない。

 しかし、今こそルナを人質にすればかなりの有効打だと考えた。


 特殊魔法を使う。


「なんで……ルナ、どこにいるの?」


 星聖女の泣くような声が聞こえてくる。

 立ち回りを優位にするように話しかける。



「ちゃんと私のお家にいますよ?」


 するとマティルが反応した。


「っ!カール!」


「おお、よくわかりましたね?裏切り者のマティルさん」


 すぐバレることはわかっている。



「どこいるの?ルナは無事だよね?返して」


「私は恐れながら隠れさせてもらっています」


「だから!ルナはどうなのっ!!」


 星聖女の魔力を乗せた声がこの研究所まで響いた。



「ふふふ、そんなに慌てないでください。

 まだ、生きてはいると言っておきましょう」


 ピクトルを打ち込んだため、死にかけているが死んではいない。


「……まだってどういう事?ルナを早く返して」


 今にも暴れだしそうな魔力を放ち、星聖女は私が見ている虚空を見つめて言ってきた。

 これには冷や汗をかいた。



「では、こちらを防いでください。

 逃げたら私は無事ですが、ルナさんは巻き添い食らって死んでしまいますよ?」


 そう啖呵を切り、全魔力を練り上げる。


「【召喚(コール)超巨大岩石(ラージストーン)】」


 そして巨石が召喚された。


 もし、砕かれたとしても被害は絶大であろう。

 魔力が少なくても自衛の手段くらいある。

 ルナの人質効果が上手く効けば星聖女は受け止めるという馬鹿な行動に出るだろう。まぁ、さすがにないと思うが、何かしら致命傷をあたえることができるだろう。


 だが、星聖女はそれを受け止め打ち上げた。


「なっ……信じられない」


 星聖女を侮っていた。

 だが、このままではまた落ちてくる。

 自身の平穏を保つため、星聖女を罵った。


「ふふふ、このままお手玉みたいに打ち上げ続けるのですか?位置エネルギーを考えると、先程より手がつけられなくなりますよ?」


 しかし、星聖女に慌てたような様子は無かった。


「え、まさか、いやそんなわけ……」


 最悪の予感が過ぎる。だが、あの質量と密度の巨石を消し去るなど星聖女だとしても不可能だ。


 次第に身震いするほどの魔力が込められる。

 そして放たれた。


 それは一瞬で巨石を欠片も残さずにかき消した。


「なっ!?有り得ない……」


 口が塞がらなくなった。

 考えたくもない。

 そんな馬鹿な事……


 何かの破壊音が聞こえ、気がついたら目の前にそれを引き起こした星聖女とマティルがいた。


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