34話 私が守る
「【ブ・ルーツソウル】」
その巨大な青の根は枝分かれを繰り返し、半径1キロ程のドームを作り上げた。
星聖女の能力を本気で使ったためか、クリスの髪は青が既に八割程変色が進んでいる。
「なっ……クリス、大丈夫なのか!?」
マティルは羽を使い、クリスの横に並んだ。
青の根を使うと力に飲み込まれると言っていたことをついさっき聞いていたからだ。
「うん……大丈夫。さっきより力が馴染むよ」
するとキルラが辺りを見渡して皮肉気味に笑った。
「あはっ、すごい綺麗ねぇ?
でも……こんなので私を捕まえることなんて出来ないわよ?」
だがクリスはキルラに見向きもしないでマティルに優しく伝えた。
「マティル……あの女は私が処理するから下の方で待ってて?直ぐに魔族の首都へ向かうからその用意もしといて」
マティルはクリスの言葉を聞いて頷いた。
「あぁ、わかった。無理するなよ」
マティルは勢いよく降下して行った。
クリスの覚悟と冷静さを確認したからだ。
地上へ降りたのを確認してクリスは青の根でマティルの周りに青の根の壁を作った。
「よし、これで思いっきりやれるよ……」
地中から青の根がうねり、柱のようにキルラへ向けて突き上げた。
キルラはそれを短距離転移で躱す。
「だからさぁ、そんな攻撃じゃ私にかすりもしないよぉ?
というより早くマティルと遊びたいんですけど?」
キルラはへらっと笑いクリスの懐へ転移した。
そして手にしたナイフを突き立てた。
しかしクリスには届かなかった。
「【魔力ノ釜】」
青の根の空間にクリスの魔力が充満し、濃い魔力が満ちた。
それにより、キルラは身動きをまともにとることができなくなった。
そこへクリスは幾多の黒き火種を投下する。
「【ヘル・フレイム】」
「あはっ、【転移】」
それをキルラは笑いながら躱す。
クリスはさらに魔法を繰り出した。
冷たく暗い、深海の水を大きな礫にして。
「【ディープ・シー】」
それは業火と直撃してドーム内全域で大規模の爆発を起こした。
「あはっ、だから私にはそんなの気かな……あれ、え、いやあああああ」
その被害から逃れようと転移したはずだった。
青の根のドームの外へ転移できなかったキルラはその爆発に直撃した。
爆音が空間内を支配した。
爆発が収まると、上空へ留まっていたキルラはボロボロになり地へと落ちていった。
それを確認したクリスは上空に掌を掲げ、腕を振り下げた。
すると青の根は地中へ戻っていった。
地面に寝転がるキルラの手足を青の根で固定した。
そしてそばに降り立つ。
「な、んで……」
クリスに気がついたキルラはクリスに問いかけた。
「私の空間だったから転移を許さなかったの。
貴女は殺すよ?嫌だったらルナを早く連れてきて」
クリスは突き放すかのように答え、そして要求をした。
「じゃあ、この根っこを、解いてよ……」
「そしたら逃げ出すでしょ?」
クリスは冷たい目でキルラを睨みつけた。
そしてそれすら許さないために、青の根を使い残りの魔力を根こそぎ奪い取った。
「私を、ルナの元へ連れて行って?」
するとキルラはへらっと笑い言った。
「あははっ、もう手遅れだと思うわよ?……っ!ぎゃあああああッ!!」
魔力を込め過ぎて、うっかり腕を1本へし折ってしまった。
「どういう事?ルナに何かしたの!?」
強い口調で問い詰めた。
「ぐぁ……ふふ、もう一人の幹部に渡したからね?」
そう言っていやらしく笑ってきた。
つい足を2本折ってしまった。
「ぎゃああああああああああっ!!」
あまりにもうるさく騒ぐので口の中に土を詰め込み塞いだ。
「頷くか、横に振るかのどっちかね?私を、ルナの元へ連れて行って?」
キルラは首を横に振り目で笑ってくる。クリスにはそう感じた。
「……もういい、さようなら」
するとキルラは騒ぎ出した。
鬱陶しかったので地中深くに埋めて潰した。
地に手を当てると死んだのを確認したのでマティルを囲っていた青の根を解いた。
クリスに気がついたマティルが駆け寄ってきて驚いたかのような声を発した。
「クリス……その髪」
「マティル、ルナは魔族の首都にいる。案内して」
「あ、ああ。わかった」
マティルの言葉を遮り、クリスはマティルに告げた。
クリスの髪の毛は、より青へと変色していた。
クリスはマティルを風で包み、おかしな程の魔力を込めて、魔族の首都へと飛び立った。
途中、一筋の光がクリスとマティルを追い抜いていった。
「……ルナ、待っててね。私が、ルナを守るから」
───
薄暗い地下の研究所に1人の魔族の幹部がいた。
今回の獲物は大物だ。
若い人族の女だ。
キルラから運ばれてきた時は思った以上の上物で興奮したものだ。
まず死なないように首の止血をした。
モノに傷つけることなく、自身の力では外すことの出来ない釘を四肢に打ち付け壁に貼り付けた。
魔力を練るとその魔力を吸い取ることができる手錠も付けた。
思った以上に魔力との順応反応を感じる。
カールの目指す研究にとって逸材といえる程のものを感じたのだ。
「まず、拒絶反応が無いように……ピクトルを打ち込みますか」
ピクトルとはカールが開発した拒絶反応を無くすものだ。つまり免疫力の死を意味する。
ピクトルを打ち込めばどんな魔物化も可能であろう。
そして今回は取っておきの魔物の因子がある。
その因子を打ち込むつもりだ。
「あぁ、楽しみです」
カールは先の事を考え笑みを浮かべる。
直ぐに理性的になり、ピクトルをルナへと打ち込んだ。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁああッ!!」
気を失っているにも関わらず、体の細胞を破壊するピクトルという薬品の効果は激大で、ルナは絶叫を上げた。
そして無理矢理意識を覚醒させられた。
頭は働かず、体は思うように動かせない。
体内の魔力回路はぐちゃぐちゃに混ざり、肉体の細胞の組織は内部で崩れた。
虚ろな目を開き、辺りを見渡す。
(ここは……どこ?)
そして再び激痛が駆け巡り、気を失った。
「あ〜あ、またおねんねですか。
まぁ、細胞の組織が安定するまで待ちましょう」
ピクトルを打ち込んだ注射器を台に戻し、再びルナへと向いた。
その時、背後に青白い炎が現れた。
「ん?……なっ!?誰のですか!」
その【ソウル・テル】に触れると情報が伝わってくる。
「まさか……あのキルラが殺られたのですか。信じられませんね……そして今向かってきていると」
頭の中で打開策を探る。
「星聖女とはここまで……とりあえずルナさんとやら。貴女はここでお留守番です」
そう言ってカールはこの研究所の入口に結界を張り、薄暗い階段を登って行った。
静寂の後……不意に影が揺らめいた。
「ここにいたのか……ルナ」
───
真空波のような爆風を撒き散らし、恐ろしい速さでクリスとマティルは魔族領の上空を飛行していた。
ルナを奪われた。クリスにとって有り得ない事だった。あってはならない事だった。
ルナは絶体絶命であろう。
……もしかしたら、もう。
その早まる気持ちが、焦りが飛行を更に加速させていた。
「……ねぇマティル」
飛び立ってから今まで無口だったクリスが口を開いた。
「マティルには魔族の首都に大切な人はいる?」
その質問は何を意味しているのか。
「……俺の大切な人はもう、死んでしまった。
魔王様の慈悲で、本来潰れるはずだった家名と家を残してくれた。」
魔族の幹部は基本的に代々の名家から選ばれる。
幹部だったマティルの親は同じ幹部の者に暗殺されたのだ。
その裏の事情を知った魔王が見兼ねてマティルを正式に時期魔王幹部としたのだ。
「もう、あそこには俺の大切な者は魔王様以外いない。」
「そう……わかった。」
普段ならそのマティルの境遇に非難していたであろう。だがクリスにはその余裕は無かった。
(良かった。手段を選ばないで済む……)
クリスはルナを助けるためなら道を塞ぐもの全てを殺す事を視野に入れていた。
(ルナ……どうか無事でいて。)
そうして……魔族の首都が見えて来た。
「っ!?」
クリスの進行方向、そして首都に入る前の上空に30名程の魔族の兵が立ち塞がっていた。
私達が来た方向に明らかに密集している。
その事からルナの何かを知っているかもしれないと考えたクリスは50メートル程距離を開け上空に停止した。
兵の一人が声を上げてきた。
「来たなっ!星聖女に裏切り者のマティルっ!」
すかさずクリスは叫ぶように問いた。
「ルナはどこにいるの!?」
「ああ?そんなやつ知らないな。俺達は幹部のカール様の命令の元お前達を殺すために待っていたんだ!」
何も知らされてないらしかった。
「こんな簡単な仕事とっとと終わらせるぞ!」
何も知らないなら必要ない。
今のクリスにとって邪魔でしかない。
「なら、消えて【ウェブ・テンペスト】」
その言葉と共に魔族の兵達がいた空間が目に見えない刃物に切り刻まれた。
血肉が自由落下し、30の蒼白い炎が魔族の首都に降り注いだ。
「ここなら、届くかな……【ウェブルマナ】」
魔族の兵の死体や【ソウル・テル】に目もくれず、ルナの魔力を探知する魔法を放った。
ルナのために作り上げた魔法。これはクリスの魔力に長年当てられたルナにしか反応しない特別な魔力。
ルナの体内にあるルナとクリスの魔力に合わせて練り放出する。
気を失っていても、魔力がほぼ無かったとしても自然と反応を感じ取ることが出来るはずだ。
しかし、何も感じ取ることができなかった。
「なんで……ルナ、どこにいるの?」
「ちゃんと私のお家にいますよ?」
虚空から声が聞こえた。
それにマティルが反応した。
「っ!カール!」
「おお、よくわかりましたね?裏切り者のマティルさん」
ルナの話が出てクリスが反応する。
「どこいるの?ルナは無事だよね?返して」
「私は恐れながら隠れさせてもらっています」
「だから!ルナはどうなのっ!!」
クリスの叫び声に自然と込められた魔力が帯び、周囲に響いた。
「ふふふ、そんなに慌てないでください。
まだ、生きてはいると言っておきましょう」
「……まだってどういう事?ルナを早く返して」
爆発的な魔力が巻上がる。
もう限界だった。
「では、こちらを防いでください。
逃げたら私は無事ですが、ルナさんは巻き添い食らって死んでしまいますよ?」
周囲が一瞬で暗闇に包まれた。
「なにが……ッ!!」
何かを感じ、上空を見上げると……そこには魔族の首都すら呑み込むであろう、まるで隕石のようなとても大きな岩石が、ゆっくり地上へと接近していた。




