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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム
第3章 私に必要な者
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33話 刺客

 



 大地が馴染み、風が透き通る。

 水脈を肌で感じ取り、木々や植物の生命の魔力が体内へと染み渡る。


「私は……星聖女として覚醒したんだ」


 そう自覚した時だった。

 あの男が死んだ場所に、蒼白い丸い炎が生まれた。



「なにこれ……っ!まさか!!」


 それは物凄い速さで魔族の首都の方へ飛んで行った。


「……今のは、【ソウル・テル(魂の遺言)】」


 ソウル・テルの発生を初めて見た。あれが魔族の首都へ伝わるとしたら、確実に私達は狙われるだろう。


 2人を包んだ青の根に近づき、手をかざす。

 するとゆっくりと根が解けた。


 マティルは青々と腫れ上がっていた肌やえぐれたような傷が、健康的な肌へと回復していた。

 ルナもその焦げた体は元の肌色に戻り、血の巡りを感じる。



 まだ意識は戻らなかったが、安定した寝息を2人から聞けたので心底安心した。


「今度は私が2人を守る番」


 マティルとルナが起きるまでこの場所で休息をとる予定だったが移動しなければならない。


 青の根……生命の樹を使い過ぎるのは危険だと、何故かそう感じたクリスは2人を根で包むこと無く優しい風で包み、そこから飛び立った。




 ───


 ここは魔族の首都。

 ヨルドの【ソウル・テル(魂の遺言)】が魔王を良しとしない幹部のカールの元へ飛びその内容を伝えた。


「ヨルドが……死んだだと!?

 そしてマティルの確実な裏切りに伝承の星聖女ですか」


 それを知ったカールはもう1人の幹部……キルラへと情報を共有した。



「へぇ、ヨルドが死んだのね。

 これでマティルと遊べるのね」


 キルラはヨルドやカールに対して仲間意識など無かった。

 ただ、己の野望のために協定しているだけだ。



「ヨルドを殺した星聖女……本当にそんな者が存在するのでしょうかね」


「まぁ、どっちでもいいでしょ?

 ずっと遊びたいと思っていたのよぉ、マティルとね」


 キルラは手元の短剣を咥えて恍惚とした笑みを浮かべる。


「貴女の趣味はどうでもいいです。

 一応魔王様に首都に居るように命令されていますからねぇ?」


「そんな事こそどうでもいいじゃない?」


「まぁ、一応ですからね」


「ふふっ、それで今から行くけど?」


「いってらっしゃい」


「ふん、まぁいいわ。何か捕まえたら持ってくるわよ」




 ───


 クリスは川辺のある木々に囲まれた比較的上空からも見つかりにくい場所でマティルとルナを看病していた。


 食料などは近くにあったもので凌いでいる。


「ルナ、マティル……」


 2人の表情はとても健康的で無事に回復しているのが良くわかる。

 だが、2人が目を覚ましてくれないと安心する事はできなかった。



 そしてあれから3日程経過した。


 ルナより先にマティルが目覚めた。


「ぁ……クリス、無事で良かった」


 マティルはクリスを確認して安心したように声を上げた。

 寝かけていたクリスは直ぐに起きあがりマティルにしがみついた。


「マティル!起きたの!」


「うん……あの時俺を庇って、それで腕を」


 マティルはクリスの様々な変化に驚いた。

 そして何よりも……片腕が無い事が心を締め付けた。


「ううん、マティルは悪くないよ。体が先に動いていたの」


「……本当にごめん。そしてありがとう」


「えへへ、どういたしまして」



 マティルが無事に目を覚ました。

 クリスはそれがとても嬉しく、マティルに片腕を必死に伸ばして抱きついた。

 そしてマティルも優しく抱きしめ返してくれた。

 とても温かかった。


 マティルはルナにも話したように、何故ヨルドに追われていたのか。そしてクリスが倒れていた間の話をした。

 クリスはヨルドを殺した事、そして

ソウル・テル(魂の遺言)】が発動したので移動したことを告げた。



「そういう事だったの。」


「あぁ、だから迷惑かけてごめん。

 そして手を汚させてしまった……」


「それはいいの。だってマティルとルナをあんなにも傷つけた。私が許せなかったの」


 クリスはヨルドを殺した事は後悔していなかった。

 一時的に一緒に旅をした"雨嵐"の人達を殺してしまったことは今でも凄く後悔している。

 だが結局は過去の事……心を痛める感情は大切だ。しかしそれを引きずるのは良くない事なのだ。

 非情と思われるかもしれない。

 しかし割り切らないと生きていけない。

 生きていくというのはそういうものなのだ。



 マティルはクリスをまじまじと見つめ、気になった事を口にした。


「なぁ、クリス。その髪と左眼……」


 思考の溝にハマっていたクリスはマティルの視線に気が付き、その髪をなびかせた。


「私もよくわからないんだけどね、星聖女として覚醒したんじゃないかなって」


「覚醒って?」


「まぁ、見てて」


 クリスは掌を地に置き、魔力を高めた。

 するとそれに鼓動するかのように青の髪に魔力が流れ、その瞳は綺麗な和色の青が煌めいた。

 地中から新緑が湧き、その土地を癒した。


「……綺麗だな」


「そう?……ありがとう」


 マティルがクリスを見つめて思わず口にした。

 それに反応したクリスは顔を赤らめて下を向いた。

 静かな静寂が訪れる。



「な、なんで青い髪と眼になったのかわかるか?」


 ちょっとした気まずさを紛らわすためにマティルが話を振った。


「それは、わからない。でも力を使うと……更に力が体に馴染んでより力が使いやすくなるんだ」


 そう言ってクリスは小さな青の根を地中から伸ばした。

 その濃い魔力にマティルは唾を飲んだ。


 その根をクリスが操り、暫くすると小さな根の動く速さと魔力がより強まった。

 そして……クリスの髪の一本が、青満ちる魔力の髪へと変化した。


 マティルが驚いた声を出した。


「髪が青に!」


「やっぱりそうだったのね……自分じゃ見えないからハッキリとしなかったけど何となくそう感じていたんだ」


 クリスはそっと根を地中へ引っ込めた。

 その様子にマティルは心配した。


「大丈夫なのか?」


「うん。悪い感じとかは全くないよ。……ただ、強大な力に飲み込まれそうでさ」


「そうなのか……あまり使わない方がいい」


「うん、そうする」


 クリスはあの男が言っていた生命の樹というのが気になっていた。


 少し不安げな表情を浮かべ、空を見上げるとマティルが手を重ねてきてくれた。


 温かかった。嬉しかった。


 久々にマティルとゆっくり話した気がする。

 いつまでも続いて欲しいと、儚く願った。



 だが……非情にもその終りは訪れた。



 ()は酷く後悔した。


 自身を嘆いた。


 運命に絶望した。



 この時、少しでも早く異変に気がついていれば……と。




「ふぅん、星聖女といえどその力にはリスクがあるようね?」


「──っ、誰!?」


 急に気配を感じた。

 咄嗟に声のする方へ振り向くと、恍惚な笑みを浮かべる女の魔族がルナの首筋に黒に染ったナイフをそえていた。

 警戒はしていた。だが、話しかけられるまで何も感じなかった。


「っ!!ルナ!!」


「おっと、動かないでね?指しちゃうぞ?」


 魔族の女はナイフを首筋に軽く当てた。

 すると少量の血がルナの首筋をなぞり垂れる。

 その血を目にしたクリスは激しく動揺し、無自覚にとても濃い魔力が唸り狂う。


「っ!!あは、なんていう魔力量なの?

 これが星聖女というものなのね。

 その魔力も抑えてちょうだい?」


 魔族の女は冷や汗を流しながら、見せつけるようにナイフをルナに晒した。


「クリスっ!」


「っ!?」


 冷静になったマティルが声を上げ、クリスを止めた。

 そして驚愕と共に静かな怒りを込めた視線で魔族の女を睨みつけた。


「その手を退けろ……キルラ」


「あはっ、マティルぅ!会いたかったよぉ。

 やっと遊べるね?」


 マティルの声は届かなく、キルラは浮ついた声をあげ、そこからは狂気を感じた。

 そして無意識なのかキルラはルナの上に座った。

 クリスには耐えられなかった。


「っ!ルナから……離れろぉぉおおッ!!」


 爆発的な魔力を放ち、恐ろしい速さでキルラへと迫った。

 そしてキルラを殴り飛ばし、ルナを奪い返した……はずだった。


 そこには何も無かった。


「なっ!?」


 クリスの特攻は避けられるようなものじゃない。

 魔力を撒き散らし空間を捉え、音速を超えた。

 拳が当たったはずだった。


 魔力を周囲に散らし、魔力探知を行う。

 しかし……キルラの魔力も、ルナの魔力も感じられなかった。



「まさか、そんな……」


 マティルが頭を抱えながら震えた。

 その表情からは絶望を読み取れた。


「マティルッ!ルナは!?どうなったかわかるの!?」


 クリスは落ち着きも無くマティルへ責めよった。

 口元をワナワナと震えさせ、マティルは告げた。



「あの女は……幹部の一人、キルラという名の魔族随一の暗殺者だ。そして今使った技は恐らく……転移魔法だ。」


「なっ!?」


 驚愕した。ルナをどこかへとばされた!?

 その時だった。

 木の上から声が聞こえてきた。



「あはっ、ご名答〜。さすが私のマティルねぇ?」


「!?ルナを返せッ!!」


 クリスの鋭い言葉と共に、声のした木々一帯を暴風が吹き飛ばした。

 すると目の前にキルラが現れた。


「ふふ、危ないわねぇ。ルナってさっきの女?」


「ルナを返せぇぇえええっ!!」



 大地を震わし、風を呑み込んだクリスの猛攻が始まった。

 だがそれをギリギリでキルラは躱していく。


「あはっ、動きが単調過ぎて速くてもカンタンに避けれちゃうよ?」


 キルラは短距離転移を使い、クリスを煽るようにしていた。

 クリスの攻撃が勢いを増し、轟音が絶えず天変地異のように被害が拡大していった。


 その暴力的な破壊にマティルは参加する事ができなかった。



 キルラが上空へ転移し、その羽根で上空に留まった。それを追うようにクリスは空へと飛び立った。

 そしてさらに煽っていく。


「さっきの女……もう死にかけてたよ?

 ふふっ、私が怪我させちゃったからかな?」


「あぁぁぁぁあッ!!」


 クリスは上空一帯の風を操り、一気に圧縮した。

 真空と共に風が唸る。

 しかしそれもキルラは躱した。



「危ないわねぇ、気を抜いたら死んじゃうよ?」


「ルナをどこにしたっ!?」


「あぁ、あの女は魔族の首都に連れて行ったわ」


「っ!!」


 ルナを助けなければ……ルナがいないと私は。

 今すぐそこへ向かいたい。だけど、この女を何とかしておかないとまたルナを連れ出されかねない。


 ルナは気を失っていて無防備だ。私が守らないといけない。



 決めた。早まる気持ちを抑えて、私はこの女をここで確実に殺す。


 ルナを傷つけたんだ。


 許すものか。



 ルナを奪われた怒りを滾らせ、本気で魔力を解放した。


「【ブ・ルーツソウル(青の魂の根)】」



 轟音を立て、地中から上空へいくつもの巨大な青の根が聳え立った。

 それは無数の枝分かれを繰り返し、クリス中心に半径1キロ程の範囲を包み込んだ。



 クリスの髪は、より深く青へと変色した。



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