20話 始まる戦争
夕暮れ時、気持ち良い風が流れ込んでくる。
色鮮やかな草原の中、馬車はガタガタと音を立てながら進んでいた。
すると、大きな壁が見えてきた。
「さぁ、着いたぞ!
あのでっかい壁に囲まれている街が帝国の首都、ウェルダルだ」
夕陽を化粧した高く聳える壁が、帝国の力強さを示していた。
───
クリスとルナは帝国の首都、ウェルダルに来ていた。
《彼》を探すためである。
王都から出る時、様々な事があった。
帝国へ行くことに決めた2人は、お世話になったガゼフの自宅へ訪ねた。
アベラへ行く覚悟を決めて待っていたガゼフだったが、2人がアベラへ行かないという事、帝国へ行くことに決めた事を聞いて、とても心配そうにしていた。
どうしても行かなければいけないと、そう説明した。
ガゼフは何も聞かなかったが、帝国へ送って行くと自ら提案してくれた。
だが、ガゼフにも生活がある。そして国の旅商人だ。
それを考えた2人はとても優しいガゼフの気遣いを丁寧に断った。
そしてガゼフに別れを告げた。
またいつか。そういう約束を交わした。
次にギルド長エナとのお話だ。
武術大会が終わったばかりでかなりの注目を浴び、期待されているのがクリスとルナだ。
王都にいて欲しいと、そう言われた。
だが、クリスとルナにはやる事ができた。
そして冒険者ギルドは冒険者の自由を決める事はできない。
エナは渋々その申し出を受け入れた。
そしてSランクの依頼を頼まれた。
帝国の首都、ウェルダルへの護衛の依頼だ。
帝国からわざわざ武術大会を見に来た貴族の護衛だそうだ。
馬車に乗って共に帝国へ向かうらしい。
足が無かった2人は丁度良かったのでその依頼を受けた。
最後に毎日お世話になっていた宿屋『くまさん』の店主、ダイルに帝国へ行く事を告げた。
そして依頼が次の日なので本日が最後になると伝えた。
出発の時、ダイルはお弁当を作ってくれていた。
「気をつけてな」と言ってくれた。
この温かさがとても嬉しかった。
最後に何故か南門にいた兵士のグランドに別れを告げ、2人は王都を旅立ったのだ。
「あぁ〜、特に何も無かったね」
「うん、本当にSランクの依頼が逆に不安に思ったよ」
護衛依頼では盗賊やAランク程の魔物が出てきた。
護衛をしながらという条件の元、充分Sランクの依頼だが2人は瞬殺してしまったので脅威に感じなかったのだ。
ウェルダルに着いた後、冒険者ギルドへ行き、依頼完了手続きと滞在報告を済ませた。
すっかり夜になってしまったので急いで宿を取ろうとしたのだが、どこの宿屋も部屋に空きが無く、少し高い値段のする宿に泊まることにした。
それが幸いだったのかとても設備が良く、依頼を受け小金持ちの2人はこの宿に暫く滞在する事にした。
そして今後の予定を話し合う事にした。
「また情報屋を雇う?」
「うん、それしかないよね。手がかりないから」
まず、《彼》らしき人を探すには情報が必要だ。
候補を絞り、そこへ向かうしか方法はない。
偶然会えるなんて確率的に2人は考えていなかったのだ。
そして王都の時とは違いSランク冒険者という肩書きがある。
明日冒険者ギルドへ向かう事を決めた2人は就寝した。
───
早朝、朝食を終えた2人は冒険者ギルドへ向かった。
まだ朝だというのに何故か冒険者ギルドには人集りが出来ていた。
そして受付嬢のような人が大声で冒険者に訴えていた。
「ウェルダル冒険者の皆さん、朝早くの招集に応じて頂きありがとうございます。
緊急です!帝国王からの勅命がでました。
勇者リル・ナスタシアと共に魔族を駆逐しに行く事になりました」
周囲に緊張感が走った。皆驚愕している。
クリスとルナも驚きが隠せなかった。
「冒険者ランクがB以上の方はこの戦争に出てもらう事になります。Cランク以下の方は冒険者ギルドが判断させてもらいます。詳しい事は昼頃に掲示板へ記載しておきますので各自で確認の方よろしくお願いします。」
勇者リル・ナスタシアといえば1ヶ月前ほどの武術大会で魔族との休戦、そして共存を望んでいた。
その目論見が失敗したのかとクリスとルナは考えた。
武術大会の後、リルと話した2人は少なからず好印象を持っていた。詳しい事情はわからないが、少し悲しく思えた。
受付嬢が忙しそうにギルド内へ入っていったのでクリスとルナは後を追った。
「あの、少しいいですか?」
「はい、なんでしょう」
受付嬢は立ち止まって振り返った。
「私達は王国の王都から来たSランク冒険者です。
その魔族との戦争に私達も戦う義務はあるのですか?」
私達には目的がある。
冒険者ギルドにはお世話になっているが魔族との戦争に行く気は無かったのだ。
すると受付嬢は驚いた表情をした。
「Sランク冒険者なのですか!?」
クリスとルナは金色のSランクカードを見せた。
「本当にSランク冒険者なのですか!
戦争に参加してくださるととても助かります!」
ルナが的確に問い正した。
「私達は魔族との戦争に付き合うつもりはないよ。
別に目的があるから。そのために今日冒険者ギルドに来たのに……
私達はこの国の冒険者では無いけど戦争に行かないとダメなの?」
すると受付嬢は難しい表情を作った。
「どうか参加してもらえないでしょうか?
冒険者ギルドに国は関係無いのですが、それが人族のためとなれば話は変わります。帝国冒険者ギルドとしては、優先的に戦争へ参加してもらっています」
「そうですか……」
するとクリスがルナに言った。
「ねえ、ルナ。戦争に参加しない?
学べる事が多いと思うんだ」
ルナはクリスの意図が一瞬理解できなかったが、気がついた。
(そうか、戦争となれば実力者が集う。《彼》がいるかもしれない……)
クリスの参加の意思を聞いた受付嬢は喜んだ表情を作った。
「参加してくださいますか!?
でしたらこちらへ案内します。別にSランク以上の方はギルド内に招集しているので」
クリスが選んだならついて行こう、と考えたルナは黙ってついて行った。
───
案内された部屋に入ると10名程のSランク冒険者がいた。
そして一番奥に座っているのがSSランク冒険者らしい。
名はゲイムといって物凄い風格を放っていた。
軽い自己紹介を済ませた後、極秘の情報や戦争の詳細を聞いた。
最近魔族の動きが活性化しているらしい。
その理由として魔王と呼ばれる魔族の存在が誕生したからだそうだ。
これが極秘の情報。
魔王とは人族にとって脅威だ。存在すると知れば混乱状態になる可能性があるとの事で極秘だそうだ。
魔族領へ戦争しに行くのは五日後だそうだ。
主に帝国騎士が先陣を切り、冒険者が続くそうだ。
そしてSランク冒険者は奇襲やら好きにして良いそうだ。
その方が本来の力を発揮出来るという国の決まりと教えられた。
そして魔族は殺さず拘束するそうだ。
自害させるのもやってはならないと言われた。
これに不思議に思ったクリスとルナは質問した。
「話の途中すみません。気になった事があって。
なんで魔族は殺さず拘束させるのですか?」
その質問を聞いたゲイムは笑って答えた。
「なんだ、2人は歴史を学んでないのか?
良いだろう、詳しく説明してやろう」
歴史を学んでないと言われて不思議に思いながら頷いた。
「魔族はな、男女比率が偏っているんだ。
8:2くらいで男が圧倒的に多い。子孫を残せる者が少ないんだ。
今まで人族と幾度の戦争を繰り返しているのに魔族は何故未だに生き残りがいると思う?」
この質問にルナが答えた。
「さっき言っていた魔王の存在?」
するとゲイムは手を叩いて笑みを浮かべた。
「半分正解だな。
確かに魔王の存在も大きい。
覚醒した勇者じゃないと太刀打ちできないからな。
だが、1番大きな問題は別にある。」
するとクリスが言った。
「何かの術?」
「そうだ。ある術で今まで魔族は生き延びてきた。
それは禁術《ソウル・テル》というものだ。」
するとSランクの数名が険しい表情を浮かべる。
「ソウル・テル?」
「ああ、魔族に伝わる禁術だ。
詳しい仕組みはわからんが魔族が成人になると使うんだ。
それも、死んだ時にな」
するとSランクの1人が話し始めた。
「魔力を使っているわけではないんだ。奴らが死ぬとその体から魂のようなものが出る。それは真っ直ぐに魔族領へ向かうんだ」
ゲイムが続ける。
「奴らは死ぬとその者が持っていた情報を同族へ伝えるんだ。その禁術でずっとしぶとく生き残っている」
クリスとルナは殺さずに拘束といった理由を把握した。
「拘束をし、ある程度目処が立ったら一斉に殺す。
これが魔族領駆逐作戦の重要事項だ。」
「だが成人していない魔族はその術が使えん。子供は見つけ次第すぐ殺すんだ」
子供だからって関係ない。そう言っていた。
Sランクの1人が語る。
「俺の家族は魔族に殺されたんだ。
俺は奴らを決して許せない」
皆が同情する。
するとゲイムは皆に告げた。
「いいか、この作戦は成功させる。
皆同じ気持ちだ。持ち場を決めるぞ」
場は殺意や憎しみに溢れていた。
これは勇者リルの言っていた魔族との休戦は難しいなとクリスとルナは思った。
人族から戦争を仕掛けるほどに、人族は魔族が憎いことが凄く伝わってきた。




