21話 感じる気配
魔族との戦争のためチームが組まれた。
Sランク冒険者は2チームに分かれた。
S1チームが6名、S2チームが5名の少人数だ。
クリスとルナはS1チームになった。
個々の実力が素晴らしく、機動力に優れている。
冒険者ギルドから個人に馬が支給された。
村で少し馬を騎乗したことある2人は問題無く扱えた。
勇者と先鋭騎士、SSランク冒険者は既に魔族領へ向かっているようだ。
その後に聖騎士が並び、騎士、冒険者と続く。
Sランクチームは遊撃部隊のような役割で魔族領で暴れる役目だった。
魔族領は人族の半分ほどの広さだ。
長期間の戦争になると誰もが予想した。
そして魔王が動くかもしれないと、その存在を把握している人間は様々な事を考えていた。
勇者が帝国を出発した次の日、Sランクチームは出発した。
休憩中に軽く自己紹介をした。
男性が3名と女性が3名がこのS1チームだ。
クリスとルナ以外の4人はSランクパーティーで『雨嵐』と呼ばれ有名らしい。
バランスの良いパーティーだと感じた。
その後馬を走らせ3日間かけて魔族領前まできた。
───
何かに抉られたような……
大陸の裂け目とも呼ばれる場所《絶縁の谷》に着いた。
強い風が吹く。
気を抜いたら体が飛ばされそうな気がしてならない。
このS1を任されたリーダーが風に負けないように大声を出した。
「この先の大地が魔族領だ!この場所を普通に渡るのは不可能と言われている。だが、帝国魔道士が力を合わせて風に負けない橋を作るそうだ」
この谷の強風は凄まじい。
そして魔族領まで1キロ以上離れているようにも見える。
先行して出発したSランクチームはその橋を渡ることはできない。
クリスが風を緩和して普通の声でリーダーに話しかけた。
「じゃあどうやって渡るのですか?」
その技術に少し驚きながらリーダーは答えた。
「それを今から決めるのだ。上の人達からSランクなんだから何とかなるだろ、と言われた」
これには皆リーダーをジト目で見た。
「いやな、先に言っとくかと思ったが、実際に目にした方が早いと思ってな」
手っ取り早く魔族領へ渡るためクリスは提案した。
「じゃあみんな一緒に私の風で飛ぶ?」
「そんなことできるのか?」
これにはリーダーが驚いた。空を飛んだら風に呑まれると言われているからだ。
そして普通じゃない事をクリスが言った。
「この中突き進むのもできるよ?風邪を打ち消せばいいだけだし。他に方法は……風の向きを変えて曲げて流してあげるとか?ん〜、でも1番簡単なのは上空500メートルくらい飛んじゃえば巻風はおきてないから楽かな?」
『雨嵐』の皆は驚いていた。空を飛ぶ風魔法を使いながら別種類の風魔法を使うというのは高等テクニックだ。そして上空500メートルなんか普通は飛べるわけがないからだ。
そしてルナは呆れていた。
驚きはしたがお互いSランクという事で順応が早かった。
そしてクリスに任せることになった。
夜が近いので明日《絶縁の谷》を渡ることにした。
───
その夜、クリスとルナは小高い丘上にある岩に腰掛けていた。
星明かりが程よく見晴らしが良い。
周囲は軽く木々に囲まれており、深くどこまでも続く大地の裂け目が強調していた。
その奥には魔族領、生い茂った密林がどこまでも続いているように見えた。
「……風が気持ちいいね、クリス」
「うん、そして夜なのに明るいね」
《絶縁の谷》の方向から程よい風が流れてくる。
空気がとても透き通っており、上空は満天の星空に飾られていた。
心地よい時間が流れる。
「こうして2人だけになるのは久しぶりだね」
「うん、いろいろと忙しかったからね」
王都からウェルダルまでの1ヶ月間は護衛依頼のため、2人きりになる事はなかった。
帝国についてからも宿では2人きりだったが、周囲に誰もいない環境は無かったのだ。
「ルナ、ごめんね。こんな戦争に付き合わせちゃってさ」
「ううん、大丈夫だよ。
結局まだ《彼》を見つけられてないね」
「……うん。この戦争中に会えるような気がしたんだけどな」
「Sランクの人達だけじゃなくて、勇者と同行した先鋭騎士や聖騎士、そして普通の騎士に冒険者のA〜Bランクの人かもしれないね」
クリスは何故かわからないがこの戦争で彼に会える気がしたのだ。
同じSランクの人達の中には《彼》はいなかったのでルナと同じように考えていた。
「うん、ルナの言う通りだと思う。
《彼》は戦争に参加しているんじゃないかな」
「そっか、彼を感じたらすぐ教えてね」
「うん。……ルナに言いたいことがある」
「なに?」
「あのね、自分で言うのはおかしいと思うけど、《彼》に会ったら私は、私でいれるか……わかんない」
クリスはそれが怖かった。
武術大会の時、《彼》を感じた感覚は……理性を越えていた気がしたのだ。
そして転生した《私》の過去を振り返ると何かがおかしい。
「その時は、もし私が何かを間違えそうになったら、止めて欲しい」
ルナが私を呼んでくれた時、とても安心した。
ルナなら《私》を止めてくれる。そう信じていた。
「そんな事、言われなくても貴方を止めるわ」
ルナは即答した。
そして優しくため息をついた。
「私が貴方を守ってあげるからね」
穏やかな風と温かい感情に辺りは包まれた。
時間の流れがとても遅く感じた。
───
朝日が昇り、温かい風が舞う。
S1チームの6名は《絶縁の谷》の前に集まっていた。
「いや〜この谷の風は本日も絶好調だねぇ」
リーダーが軽い口調で言った。
衰える事の無い風は今も螺旋状に渦巻いている。
そしてリーダーが今日の予定や作戦を話し始めた。
「まず、昨日までとは違うこと。
魔族領に入るということだ。いつどこに魔族がいるかわからない。各自警戒するように。
そしてかなりの密林となっている。魔族への奇襲をするので音を変に立てないように頼む。
魔族を見つけた時はなるべく皆でかかるようにする。合図はこうだ」
様々な合図をリーダーはクリスとルナに教えた。
『雨嵐』でもつかうサインだそうだ。
クリスとルナはそれを1回で覚えた。
「夜はまとまって過ごす予定だ。見張りを立てるのでその時に話し合う」
皆はリーダーに頷いた。
「よし、とりあえずこんなところかな。では《絶縁の谷》を渡ろうか。クリス頼んだぞ」
「はーい」
クリスは魔力を練った。
すると全員の身体に渦巻く風の繭のようなものが纏った。
クリスの魔力操作で浮かび上がり、一直線で魔族領へ飛び立った。
『雨嵐』の連中は驚きを口にしているが、風のせいで聞こえない。
クリスは上空から谷の奥底を見たがとても深く、闇に包まれていた。
魔族領には1キロ程度だったので直ぐに到着した。
風の繭を解くとリーダーが皆に言った。
「クリス、感謝する。そしてここからは皆緊張感を持てよ」
それに黙って頷くと一同は徒歩で密林へ侵入した。
ちなみに馬は人族側へ置いている。
この密林を馬で突破できると思えなかったからだ。
おかしな程に太い幹、そして生い茂りジャングルジムのような根っこが頻りと空間を占めていた。
魔法は使うと環境に少なからず影響を与えるのでクリスは剣で根を切り進み、ルナも槍で器用に切り裂いて進んだ。
2時間程進むと少し開けた場所に出た。
密林もここで終わりのようで、この先からは普通の森林となっていた。
数分の休憩の後、また進むことにした一同は、魔族のものらしき足跡を複数見つけた。
「ここから近いかもしれん。皆、油断せず進め」
リーダーの指示の元進むが途中で足跡は途切れたので、そのまま前進する事になった。
しばらく進んだが、この日は魔族を見つけるに至らなかった。
リーダーが程よい洞窟を見つけたのでそこで日を越す事に決めた。
道中拾った果物等を食し、順番を決めて睡眠をとる事にした。
皆が食事を済ませた後、1番初めの見張りはクリスとルナがする事になった。
残りの皆は早めに睡眠を取り始めた。
周囲はとても静かで虫の鳴き声すら聞こえない。
偶に木々の間をすり抜ける風の音がするくらいだ。
「ねぇ、クリス。ここは静かだね」
「……うん。この後戦場になるのかな」
2人はしみじみと呟いた。
「『雨嵐』の中に魔族を憎んでいる人がいたから言えなかったけど……
やっぱり平和が一番だと思うよ」
「そうだよね。私もそう思うよ」
だが、それができるとは思えない。
それがSランクの人と関わって思った事だ。
魔族は人族を襲う。魔族は人族にとっての悪だ。
皆がそう口にした。
魔族は残酷な生き物、帝国で関わったほぼ全ての人はそう言っていた。
───
周囲を警戒しながら穏やかな気持ちでいると、リーダーが眠そうな目を擦り洞窟から出てきた。
「そろそろ見張り交代だぞ、お疲れ様な」
もう交代の時間になったのかと、クリスとルナは錯覚を覚えた。
「少し川で体洗ってきますね」
「じゃあ、私も」
クリスがそう言ったのでルナが続いた。
「早めに帰ってこいよ」
リーダーは欠伸をしながら持ち場へついた。
近場の川へついたクリスとルナは軽く汗を流すことにした。
ルナが周囲に結界を張り、クリスが地魔法で枠を作り、水魔法と火魔法で湯を作った。
濡れないように服を脱いで2人は風呂に入った。
「あぁ〜いいねぇ〜」
「うん〜眠くなるねぇ〜」
「お風呂はやっぱいいね〜」
「できたら明日も作るよ」
充分温まった後、新たな湯玉を空中で生成したクリスは脱いだ服をその中に入れ、お湯で揉んだ。
最後に水気を全て飛ばし、綺麗になって乾いた少し暖かい衣服が完成した。
それに着替えた後、湯気は目立つかもしれないので風魔法を使いかき消した。
「じゃあ早く寝て明日に備えよう」
クリスがそう言い、ルナが結界を消した。
──瞬間、物凄い衝撃音が鳴った。
「!?」
「クリス!行くよ」
それを聞いた2人はすぐに洞窟へ走った。
だが、洞窟には誰もいなかった。
そして森の奥で衝撃音がする。
2人は武器を持ち、戦闘が行われていると思われる方へ向かう。
何かに急かされる気がした。
途中で誰かの悲鳴が聞こえた。
そして誰かが絶叫した。
──そして私も……絶叫した。
《ド・ク・ンッ!!》




