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007 スライムに転生したので 3

 その日、いつものように少し腹が減ったなと思いながら這いずっていると、聞き覚えのある鳴き声に混じって人のうめき声みたいなものが聞こえた。


 女の子の声ではないようだったが、ここに来てから初めて聞いた人らしき声だ。

 俺は「四足歩行」形態――キツネやオオカミを吸収して手に入れた――に姿を変えて駆けつける。

 すると思った通り鳴き声の主はゴブリンで、数匹の群れが二人の人間と対峙していた。

 こちらに背を向けている二人を半ば取り囲んだゴブリンたちは、時折奇声を上げながら手にした棒切れやら拾い物らしい(サビ)の浮いた剣やらを叩き付ける隙を窺っているようだ。

 二人の方は腕に自信があるのか、ゆっくりと囲みの中央へと足を進めている。


 近くまで駆け寄るとさすがに足音で気が付いたようで、何匹かが俺の方に目を向けた。

 オオカミモドキな俺の姿を見て、一旦は警戒したように身構える。

 自分が相手にした感覚だと、この辺で見掛けるオオカミとゴブリンではオオカミの方が強い。

 これがもし一対一なら逃げていくんだろうが、今のこいつらには仲間がいる。

 勝てると踏んだのだろう、二、三匹が俺に向かって得物を構え直した。


 俺は黙って――そもそも口が無いから喋らないんだが――「四足歩行」形態を解く。

 身体の輪郭が崩れてドロッとした姿に戻ると、奴らの表情が凍ったように固まった。

 次の瞬間、いきなりギエーと甲高い声を発すると、次々に背中を向けて一目散に駆け出していく。


 出合っただけで悲鳴を上げて逃げられるとか、相手がゴブリンでも微妙に傷つくな。

 とは言え、これは仕方ない。

 俺とやり合えば一方的に溶かされるだけなんだからこの反応も当然だろう。

 ゴブリンは森のあちこちでちょくちょく見掛ける上に捕まえるのが難しくないので、俺にとっては日常食みたいなものなのだ。


 奴らは数匹で連れ立ってうろついていることが多いんだが、俺が一度に捕まえるのは大抵一匹なので残った連中は逃げるに任せている。

 そうやって逃げたゴブリンが仲間に教えたのだろう。

 このところ、遭遇したゴブリンは向こうが先に気付くと大抵逃げ出すようになっていた。


 ともあれ、ゴブリン共がいなくなったので二人に意識を向ける。

 すると、斜め後ろにいる形の俺に気付いていないのか、まだゆっくりと前進し続けていた。

 初めて人を見つけて思わず近付いてはみたものの、今の俺はスライムだ。

 いきなり斬り掛かられてもかなわないので、逃げられるよう再び「四足歩行」形態を取る。

 それから少し迂回するように距離を取り、前に回り込んで二人を見た。


 うえっ、何じゃこりゃ。


 二人はどう見ても生きているようには見えなかった。

 腕なんかがあらぬ方にひん曲がっているし、あちこちからいろんな物が飛び出したりはみ出したり、あるいは無くなっていたりする。

 これで生きてたら化け物だ。


 だと言うのにこの二人、あーとかうーとか唸りながらゆっくりと動いている。

 生きてはいないようだが化け物だった。

 これはあれか、ゾンビってやつか。

 腐った死体、低級アンデッド。

 スライム、ゴブリンと並んで、RPGに出てくる雑魚敵の代表格。


 しかしそれにしては妙に新鮮、というか死んでからそれほど時間が経っていないように見える。

 腐るどころか、流れ出して乾いた血がまだ赤味を持っていた。

 一人は茶色い革でできた鎧を着込んでいて、落としたか奪われたか武器こそ持っていないが腕にはめるタイプの盾がまだ左腕に残っている。

 もう一人は白と黒の布の服の上にマントっぽい物――もしやこれがローブという物か――を羽織り、端っこに金属の輪の付いた杖っぽい木の棒を今もどこか大事そうに抱え込んでいた。


 体格やヒゲの生えた顔からするとどちらも男だ。

 二人とも二枚目と言っていい端正な顔立ちをしていたのだろうが、それも今は血や傷で汚れていて見る影も無い。

 気の毒には思うが、女の子でなかったことにちょっとホッとする。

 なまんだぶ、なまんだぶ。


 しかし、これはどうすればいいんだろうか。

 俺が念仏を唱えたくらいで止まるわけもなく、相変わらず唸りながらこっちに向かって来る。

 これもしかすると、今のターゲットは俺なのか?

 試しに少し横に動いてみると、二人は向きを変えて俺の方に来ようとする。

 やはりロックオンされているらしい。


 多分こいつらは人を、いや、恐らく人だけでなく他の生き物を襲うのだろう。

 現に今、俺に向かって来ている。

 表情が抜け落ちた顔でにじり寄って来る姿に友好的な何かを感じ取るのは不可能だ。


 これもマンガやゲームで仕入れた知識になるのがあれだが、ゾンビってやつは人を襲って仲間を増やすんじゃなかったか。

 原因は細菌だったり呪いだったりいろいろだったが、ゾンビが増えないゾンビ物なんか見た覚えがない。

 ならこいつらもそうだと考えておいた方がいいだろう。


 幸い、こいつらの移動速度自体は大した事がないようだ。

 這いずるだけだった頃ならともかく、短時間とは言え飛ぶことさえできるようになった今の俺なら逃げ切ることはそう難しくもない。

 だがその場合、こいつらはその後どうするんだろうか。


 考えるまでもない。

 俺が逃げたら他の相手を探しに行くだけだろう。

 それでもし森に入ってきた女の子が襲われたら、ゾンビになってしまうじゃないか。

 俺はあーとかうーしか言わないソンビににえっちなイタズラをしたいわけではない。

 元気な女の子の恥ずかしがる様子や柔らかい身体を堪能したいのだ。


 ならやるべき事は決まっている。

 逃げるのはやめだ。

 俺は「四足歩行」形態を解くと、奴らの前で身体を薄く延ばして広げ始めた。

 最早待ち伏せにもならない作戦だが、考える力を失った者には関係ないようだ。

 連中はゆっくりと、身体を揺らしながらやってくる。

 あと数歩進めば俺を踏むだろう。


 残り三歩。

 二歩。

 一歩。

 ゼロ。


 ほぼ同時に踏み込んだ奴らの足が、沼地に沈むように俺の中へと飲み込まれる。

 すると当然、支えを失った身体はそのまま前のめりに倒れ込んだ。

 水しぶきを上げるでもなく、とぷりというわずかな音を残して消えていく。

 後には、かすかに波打つ俺の身体だけが残った。


 これが練習を重ねた今の俺の溶解能力。

 大抵のものは一瞬で……、ん?

 何か硬い物が溶かし切れずに残っていた。

 うりゃっと気合いを入れて、それも何とか溶かす。

 今の俺が物を持ってても仕方ないからな。


 とりあえず、この場はこれでいいだろう。

 他にもゾンビがいる可能性は当然あるのだが、流石にこの森全部をカバーしようとするのは今の俺には無理だ。

 それでも少しは女の子が襲われる要因を減らせたはずだと、自分を納得させるしかなかった。

 そんなことを考えていると、獲得した能力やら情報やらが頭の中に流れ込んでくる。


 うお、何だこれ。


 「金」、「オリハルコン」、「ミスリル」なんかに加えて「回復魔法」やら「火魔法」やら「剣技」やら。

 ついでに二人が身に着けていた物らしい、服や靴などの構造情報まで。

 やたらと多くの情報が一気に押し寄せてきて俺は驚いた。


 もちろん、ゾンビについての情報もある。

 やはり、噛まれて死ぬとゾンビになるようだ。

 他に死体に魔法を掛けて作られる場合や自然にソンビ化することもあるらしい。

 結果としてはは同じということなのか、今の二人がどれであったのかは分からなかった。


 それにしても驚きだ。

 魔法なんかは絶対ゾンビの能力じゃないだろう。

 どう考えても、元になった故人が持っていた能力としか思えない。

 そんなものまで吸収できるのか。

 それとも死んでから時間が経っていなさそうだった事と関係あるのだろうか。


 「金」や「オリハルコン」の出所は分かる。

 二人が持っていたお金や指輪、杓杖(しゃくじょう)――金属の輪の付いた杖――などの情報も一緒に手に入ったからだ。

 それらに使われていた物ということだ。

 溶けにくかったのも当然だろう。


 しかし、魔法か。

 魔法があるということは、多分あのローブの男は魔法使いだったんだろう。

 いや、服が白黒だったから、神官か何かかもしれない。

 どちらにせよ、今となっては確認する(すべ)もない。


 形はともかく、お前らの能力は俺の中に生きているからな!

 見ていてくれ、きっとえっちなイタズラに役立てて見せる!

 女の子が好きな男ならきっと激しく同意してくれるはずだ。

 俺は名も知らぬ二人に誓った。

ふと気付きました。

一人称で本人が喋らず、相手もいないとなるとセリフが全くない!

大丈夫ですかね、これ。


とりあえず「本編と言いつつ真の序章」っぽい話はここまでです。

続きはまたしばらくお待たせすることになると思います(汗)。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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