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07 夢オチ希望


 世界を救うと言ってもそう簡単に行動に移せるわけじゃない。

 物事には順序があるし、それを動かすのが個人ではなく組織であるなら余計にあれやこれやと手続きが必要になってくるものだ。

 手続きに関しては私がどうこうする必要はないんだけど、その代わりレグルス王子が忙しく関係各所を回っている。

 やっぱり一国の王子が一時的にも城を離れるとなると、色んな準備が必要なんだろうな。


 その間に私とせいらちゃんはというと。眼鏡の人、改めシュルマさんにこの世界について教えてもらっている。

 私たちが今いる部屋を用意してくれたり、お城で暮らしていくために色々と手を回してくれたりとここ数日でお世話になりっぱなしだ。


 叶うならピザとビールをキめて寝たら全部夢だった、というのが一番の理想だったんだが、現実はいつだって非情である。

 あの後寝て起きて私が一番に目にしたのは見慣れた自室の景色ではなく、お腹もいっぱい、寝覚めもすっきりな幼女ちゃんだった。

 故、この世界で生きていくための知識が早急に必要なのですよ。


「我が国では魔法石やその他鉱石の加工品を他の国に売って暮らしています」

「おみせやさんなの?」

「そうですよ。お野菜や果物と同じように、作った物を売っているんです」


 今は魔法についてとかこの国、アヴィオールを取り巻く他国の様子とかを教え貰っているのだが、幼女にもわかるようにかなり噛み砕いて説明してくれているのですごくわかりやすい。

 後せいらちゃんが理解すると褒めてくれるし、勉強が終わるとそっと飴玉を幼女の小さな手に握らせているおかげか、せいらちゃんもすっかりシュルマさんに懐いている。この人子供の扱い上手いな。


 ゲームをしていた時のシュルマさんは、始めこそ主人公ちゃんに素っ気ない感じだったが物語が進むにつれて、無茶をするレグルス王子や国の運営で振り回される苦労人の様な扱いをされていた気がする。

 苦労人なのはその通りだろうが、それはそれとして案外子供好きでお茶目な人なのかもしれない。せいらちゃんのついでとばかりに私にも飴をくれるし。


 文字さえ理解出来れば私は勝手に何とかするんだけど、せいらちゃんの方がな。

 五歳ならそろそろ幼稚園でひらがなの勉強をしているだろうし、日本語とごっちゃに覚えると混乱させてしまうかもしれない。なのでこの世界の言語はもう少しせいらちゃんの識字能力の程度を見てからと言われてしまった。

 ……忙しい人のはずなのに色々考えてくれているな、この人。本当に頭が上がらない。


「今日はこの辺りにしましょうか」

「ありがとうございました」

「ありがとーございました」

「はい。お疲れ様です」


 そう言っていつもの様に小さな包みをせいらちゃんに握らせる。

 毎日の様にちょっとした小包をくれるけど、もしかして甘い物好きなのかな。


「チョコ!」

「ほらあなたも。頭を使った後はしっかり糖分を取りなさい」

「いつもすみません」


 文官のお仕事って大変なんだろうなぁ。ゲームではそれなりに高い地位にいるみたいに描写されていたし仕事中もこうして一口で食べられる甘いものを口に含んで頑張っているんだろうか。

 経理部の同僚みたいだな。決算期の時の。


「彼らもあなたたちくらい素直だといいんですが」

「お、それって俺らのことか?」


 知らない様な聞いたことあるような声が返事をした。

 振り返れば見覚えのある二人組が扉を開け放っている。一人は赤茶の髪に背の高い青年、そしてもう一人はミルクティーみたいな薄い髪色の少年だ。

 あーはいはい。多分知ってる。というか以前画面越しに見ていた二人だ。


「ノック、声かけ」

「ハーイ、失礼シマース」


 呆れ顔で短く要件を言い切ったシュルマさんにプレイアブルキャラの青年がほぼ棒読みで答える。

 ドア開けてからでは意味のないやり取りをしてぞろぞろと部屋に踏み入れた二人は、確かゲームのメインキャラの二人であり、レグルス王子の友人でもあったはずだ。


「全く貴方たちは落ち着きのない」

「だってこうでもしないとシュルマさん、星の神子様に合わせてくれないじゃないですか」

「当たり前です。ただでさえこちらに世界に来たばかりなのですから、せめてもう少し様子を見る様にと言ったでしょう」


 うん。拗ねたみたいに怒る少年はとてもかわいいですね。

 せいらちゃんよりは少し年上と言ったくらいか。それでも自分の半分もいかないくらいの年の少年についにこにこしてしまう。働き出してからは特になんだけど、少年少女を見ると守らねばって気持ちが強くなった。世の中物騒なことが多いし。


「んで? アンタが神子様?」

「いえ私ではなく」


 シュルマさんに向けていた視線を私に移した青年に否定して、すぐ傍でチョコで口を一杯にした幼女を指さす。ああ。大人しいと思ったらチョコで喋れなかった上に、びっくりして固まってたのか。

 自分に振られたのがわかったのか、せいらちゃんが慌てて口の中のチョコを咀嚼する。ゆっくりお食べ。後、口の中に物を入れたまま喋らなくてエライね。


「ガキじゃねぇか」


 そうそう。

 その反応が欲しかったの。


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