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08 幼女の頭を撫でるだけのお仕事


「ガキじゃねぇか」


 そうなのよ。本来のゲームの主人公よりもマイナス十歳されてるのよ。

 せいらちゃんと私を見比べながら本気で言っているのか、という視線を向けた青年に、しっかりと頷く。

 この世界の命運は、五歳児に託されているという事実にどうか疑問を持っていてくれ。


「えぇ? イクリールよりもチビじゃねぇかよ」


 頭を抱えたくなる気持ちもわかるよ。私が君たちの立場でも頭を抱える。

 子供に世界が救えるのかって言いたいんでしょ? 私もそう思うし、何なら私はまだ二十になってもない君たちに世界を背負わせるのにも抵抗感がある。いや、二十を超えてなくても一人二人に重大な選択を押し付けるなとは思うが。

 そんなことを考えていたら、こう、腰の辺りにむぎゅっと。何事かと視線を落とせばせいらちゃんが抱き着いている。なになに? 人見知り?


「せいら、ガキじゃないもん」

「あーうん。悪かったって」

「何やってるんですか」

「だってよー」

「仕方ない人ですね」


 少年に呆れられている青年を見ながら、せいらちゃんがぐりぐりと腰に頭を押し付けてくる。

 ああ、なるほど? ガキって言われて拗ねちゃったのか。レグルス王子にも子ども扱いはされていたけど、あの方は一応対話の意識はあったからなぁ。一方的に子供扱いされて怒っちゃったわけだ。


「こんにちは、僕はイクリール・オディエルナって言います。お名前を聞いても?」


 むぎゅむぎゅとしたまま、ちらりと少年、改めイクリール君を見たせいらちゃんの頭をとりあえず撫でておく。

 子供の髪ってなんでこんなに細くてさらさらなんだろう。しばらく美容院にも行けてなかったし、ちゃんと髪の手入れ出来てなかったな。


「はなぶさせいらです」


 はい。ちゃんとお名前言えて偉いね。

 確か、イクリール君ってあれだよね。隣国の王子様で、自分の国が内戦中だから末っ子王子の彼はこの国に預けられているんだったか。小さいのに王族も大変だなぁ。

 その辺の事情は一般家庭の出にはわからない大人とか政治的な事情が絡まっているんだろう。


「ほら貴方の番ですよ」

「はいはい。アルヘナ・ファエトンだ。機嫌直してくれ」


 難しい環境を微塵も感じさせず、お兄さんの様に振舞うイクリール君に促されて青年も名を名乗る。

 うん。こっちの人も良く知っている。ゲームではいつもからかってくるレグルス王子の幼馴染兼従者のお兄さんポジションだった。後結構警戒心が強くてレグルス王子に近付く人間全てに警戒しており、最初はゲームの主人公ちゃんにも警戒している様子だったなぁ。

 だがしかし今アルヘナが目の前にしているのは幼女である。幼女を警戒するのも馬鹿らしいだろう。ぜひ仲良くしてあげてくれ。


「んで。あんたは?」

「北野奈々です。せいらちゃんと一緒に来ただけの一般人です」


 あ、はい。一般通過OLです。

 なんで私も来ちゃったんだろう。幼女が大変な目に合うのを運命何て言いたくないけど、ゲームの流れ的にせいらちゃんがこの世界に召集されるのが決まっているのだとしたら、私は何だ。

 ただ昔ちょっとやってたゲームの世界になんで呼ばれた? 今もプレイし続けてたり、現役で何かしらの沼にハマってオタ活しているならまだわかる。でも私就職と共に沼に浸かる時間を取られた人間よ? そういう熱量、今持ってない。


「何やら騒がしいと思ったら」


 不意に開け放ったままの扉からレグルス王子までもが顔を覗かせる。

 なんか集まって来たなぁ。


「邪魔してるぜ」

「お仕事お疲れ様です」


 仲良し三人組が揃ってしまった。ゲーム本編でもこんな感じだった気がする。わちゃわちゃとじゃれ合う三人にゲームの主人公ちゃんも混じってわいわいと騒ぎながら世界を救うために頑張っていた。

 本当にゲームの世界に来ちゃったんだなぁ。かつて直で見たいと思った光景が目の前に広がっているのは感慨深い気もするが、同時に私はここで何をすればいいんだとも思う。

 最近ちょっとシリアスだとか悲しい系の話を摂取するのがだんだん辛くなってきてね。出来れば誰も傷付かない凪の様な暮らしをしたいのだけど、この世界だと無理だよなぁ。


 未だにご機嫌斜めなせいらちゃんの頭をなでなでしつつ、ご機嫌を取る。そろそろアルヘナ君を許しておあげ。私の貰った分のチョコも食べて良いからね。

 そんな私とせいらちゃんのやり取りを横目に、何やらシュルマさんに話していたレグルス王子が一歩こちらに近付いた。


「お待たせしてすみません。準備が整いました」

「ということは」

「はい。神子様の体調を見つつ旅に出る。で、構いませんか?」


 ああ、案外早かったな。

 お役所仕事同様もう少し色んな部署をたらい回しにされて時間だけが過ぎていくものだと思っていたのだけど。

 とにかく、お城の中でレグルス王子がするべき準備は終わった。それはつまり、いつでも世界を救う旅に出られるということで。これからこの少年少女たちが色んな物を背負うわけで。なんの力もない私はそれを見ていることしかできないわけで。

 ああ、本当に。私はなんのためにこの世界に呼び出されたのやら。


一般通過OL、異世界で暮らす。

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